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太古の昔に埋没した魔列車…アゾート&環菜 前編

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太古の昔に埋没した魔列車…アゾート&環菜 前編

リアクション

 オルフェたちは、実験が進んできたころを見計らってインタビューの撮影に移った。最中を邪魔することになるかもしれないが、まさに実験の渦中のダイナミックさを狙いたかったのだ。

 和泉猛は藻を乳鉢に入れ、大柄な身体で小さな乳棒をつまみながら、新しくサンプルを作り出しているところだった。マイクには機嫌よさげにこう答えている。
『興味深いな、研究のし甲斐がある、できることが広がりそうなのは、実に興味深い』
 ふんふんと鼻歌のように息をはきながら、磨り潰した藻を手早く分けている。
 素材として周りの風景を一緒に撮影している彼女らの後ろでこそりと、ノーベル賞物のものができるかも知れんな…とつぶやいた。

 あるブースではルカルカ・ルーは毛布にくるまって仮眠をとっていた。低い唸りをあげる機器の隙間にはまりこんで、訪れた客人にも気づかない。カメラはプライバシーのため彼女を映さずパートナーのほうへ向いた。
 マイクを突きつけられてダリル・ガイザックはめんどくさそうだったが、ややあって口を開く。
『…こいつは、奇跡を見てみたい、と言っていた』
 それっきり彼は研究に没頭したので、オルフェたちはそっと室内にカメラをパンさせて、となりのブースを覗き込む。
 サンドラ・キャッツアイが藻を収めた容器にブリザードをかけては、せっせと別の容器に移し替えていた。
『これは、凍らせてアルジーの細胞膜を破壊しているのです、そうして中のエネルギー物質を取り出しているのです』
 自分が使うものではなく、それを使う人のために手伝っているらしい、下準備の手伝いなのだ。ある程度溜めて、分離機にかけるのだとサンドラは説明した。
『エネルギーを生み出すということは、やっぱりすごいことですね』
 目元をにっこりと細め、サンドラの緑の瞳は藻をいつくしむように眺めていた。

『いろいろ事情があって、エネルギー問題と聞いたら、どうも手を貸さずには、出さずにはいられないんだ』
 カメラにまっすぐ視線を向け、柚木貴瀬はそう答えた。
『エネルギーはエネルギーにすぎん、結局は使う者の問題だな』
 ふん、と不機嫌そうに柚木瀬伊はモニターから目を離さないまま資料検索を行っている。

 二人だけのブレインストーミング、エース・ラグランツはメシエ・ヒューヴェリアルと共にホワイトボードにキーワードを書きつけている。
『今、よろしいですかー?』
 手を止めて二人がこちらを向いた。今回参加した動機について尋ねると、楽しそうにこう答えた。
『空大理系としては興味深くてね』
 我関せずとそっぽを向いていたメシエは、ふとカメラに向かって苦笑しながらささやいた。
『全く、彼の興味は花だけではなく、藻にまで及ぶようだよ』

 両手に持ったフラスコを電灯に透かしながら、騎沙良詩穂はもぐもぐとパンを齧っている、しかしカメラに気が付いてあわてて口の中のものを飲み込んだ。
 フラスコを置いて身づくろいをしてカメラに向き直る。その前に時計を覗き込み、メモをとっておくことを忘れない。メモにはのたくってはいるがびっしりと書付が並び、なにかの試行錯誤のあとがうかがえた。
『お邪魔でしたか?』
『いいえ、一段落したから大丈夫だもん』
『ではあらためてインタビューを…』
『ええっと、実は誌穂は人を幸せにする魔法っていうのを探してます。アルジーも、そういうものであったらいいなと思ってるんです』
 そう言いつつ、彼女は自分で照れくさそうにわらった。

『まあ、純粋に研究の手伝いがしたかったんだ…』
 インタビューを受けながら、白衣の下になにか大きなものを隠しつつ佐野和輝は答えた。
 彼が身動ぎするたびに、ごそごそとそれも動く。
『こら、もうちょっとくらい人に馴れろ』
 塊をぽんと叩くと、白衣の影からおそるおそるアニスが顔を出す。
『……こ、こんにっ…』
『こんにちわっ♪』
 御影が身を乗り出し、言葉の途中でアニスはまた白衣の下に逆戻りした。


 ほとんどのインタビューを終えて、オルフェリアはフューラーの元を訪れた。
「はじめましてー、御影っていいますにゃ♪」
「はじめましてー」
 笑顔で彼女らを出迎え、フューラーは机の上に増え始めた資料の束を無理矢理に積み上げた。
「お久しぶりですフューラーさん、ヒパティアちゃんにお会いできますか?」
 妹のことを気にかけられるのが嬉しいらしく、にっこり笑って電脳空間に案内された。

「おひさしぶりです、ヒパティアちゃん」
 インタビューという名目で無理矢理会えないかと期待していたけれど、今はもう大分よくなっているみたいだ。
「ヒパティアちゃん、これはどうぞ♪」
 御影の抱えてきたインタビュー映像や写真データの塊は、ここでは全て星となった。腕の中から飛び出した星屑は、天に上がって星座となった。
 今なら大丈夫かも、とフューラーさんが言った意味がなんとなくわかった気がする。
 ヒパティアは立ち上がり、じっと空をみつめていて、うつむいてはいなかった。
 ここまでの案内をつとめたアレーティアが、ぽかんと星空を見つめるオルフェたちに話しかける。
「いいものを持ってきたな。ヒパティアはあれらのデータに、すなわち人間に焦がれてやまぬようだから」
 うずめてしまった星のことも、新しく生まれた星のことも。星は星なのだ。
 ヒパティアには、どのような形であっても、それに惹かれる気持ちはかわらない。
 何故なら、彼女はそういうふうにできているからだ。

 ぽつりとヒパティアがつぶやいた。
「…たくさんの星をのせて、列車が走るのですね」
「…うわあー…」
 その言葉と同時に、天上の星座の駅の間を、天の川をレールにして、まるで大きな彗星のような光る列車が渡っていく。
 ふとオルフェリアは、彼女の南十字はどこだろうと思った。