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リアクション
第7章
金の通路は、大混雑であった。。
まず、葉月 可憐との対戦を終えたバルログ リッパーは、金網で囲まれた大きなリングの中で対戦を望む相手と戦うことになるのだが。
「あ……あんた達、そんなに集団で押しかけて酷いと思わないの!!?」
いつの間にか通路に広間に到着していたコンクリート モモが、ちゃっかりリッパーのセコンド席から挑戦者側に叫び声を上げた。
何しろ、ナラカの戦いで半身をサイボーグにしたエヴァルト・マルトリッツ。
ザナドゥ時空の影響で、自分を伝説の『HAJIKI道』伝承者と思い込んだ御弾 知恵子。
この二人の挑戦者に加えて蒼空学園の女流格闘家、緋ノ神 紅凛(ひのかみ・こうりん)。
さらに、イルミンスールのご当地ヒーロー、クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)。
そしてもう一人――。
「ひとーつ、花を摘んでは人様の為。
ふたーつ、種を蒔いては平和な生活の為。
みーっつ、花束を贈るのは未来の為。
正義の花屋、T・F・S推参!!」
何だか色々とブレイクしちゃったリュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)までがリッパーの相手をしようと集まってしまったのだ。
そこにリュースのパートナー、グロリア・リヒト(ぐろりあ・りひと)が話しかけた。
「ちょっと、何よその時代劇の口上みたいな台詞は」
いやあ、とリュースは頭をぽりぽりと掻いた。
「うんまあ、せっかくなんで……というか、対戦者多いですねぇ。
いつまでも魔族のみなさんが占拠してても普通に困るから、どうせならと思って美形対決しに来たんですが……」
「……自分で美形とか言わないでくれる? 恥ずかしいから」
そんなグロリアの突っ込みもスルーしたリュースに、クロセルが語りかけた。
「そうですよ、それに美形対決というならこの俺を忘れてもらっては困りますよ!!」
ずずいとリュースの前に顔を突き出したクロセル。とはいえ、その素顔は仮面に覆われていて、噂の美形っぷりを確認することはできない。
そんな二人の間に、紅凛のパートナー、奏 シキ(かなで・しき)が割って入った。
「まあまあお二人とも……仲間同士で言い争っている場合ではありません。
ともあれ、今はあの相手から鍵水晶を奪えればいいのですから」
シキが指差した先には、リッパーの腰に光るベルトに飾られた鍵水晶がある。
「さあ――誰から行くんだい? 誰も行かないなら、あたいから行かせてもらうよ?」
と、知恵子は両手のハジキをくるくると回して、やる気満々の態度を示した。
「――む、だがこちらも先ほどから待っていたのだ、抜け駆けはナシだぞ」
確かに知恵子とほぼ同時に到着したエヴァルトも、リッパーと対戦するためにここに来ているのだ。
と、そこに。
「だ、大丈夫だってルシェン!! 僕よりもアイビスのサポートをしてよ!!」
榊 朝斗と。
「いいえ、ダメですっ!! ちょっと目を離すとすぐ私のあさにゃんにちょっかいかけるんだから、あのメスネコは!!」
ザナドゥ時空の影響をちょっぴり受けたルシェン・グライシスが現れた。
「だから僕はあさにゃんじゃ……ってちょっと待って……いくらなんでも多くない?」
「また増えたーーー!!!」
リッパーのセコンド、モモの号泣が地下通路に響く。
「こっちは魔族とはいえたった一人なのに、仮面で顔を隠した自称イケメンに寄ってたかって群がって!!
それでもあんた達コントラクターなの!?
酷いとは思わないの!? あの日の優しさはどこへ行ったの!? 魔族のユートピアを一目見たいとは思わないの!?
やたらと軽薄な笑みを浮かべる耳のでかい悪魔や、全身まっ黄色なハチミツ豚熊野郎のユートピアよっ!?
この全身機械のサイボーグ勇者のエバルト野郎どもめ!!
お母さんは悲しいわ!! おおうえあえあういえええあああおえぇぇぇえええぇえげーーーえれえれえれえれ」
何も吐かなくても。
「……だ、大丈夫か!? というか俺一人に罵声が浴びせられていた気がするのだがっ!?」
もはやエヴァルトの突っ込みもどこか遠く。
その時、リングの中のリッパーが口を開いた。
ちなみに、モモはセコンドとして全く役にたっていないので完全にスルーである。
「……さて、そろそろいい加減、客人も出揃ったようだな……とは言え、数が多すぎる」
少し、考えるように黙ってから、リッパーは衝撃の一言を口にした。
「よし……お前ら全員同時に相手をしよう。まとめてかかって来い」
☆
「……いやあ、助かりましたよ。ありがとうございます」
と、獣人カガミはミシェル・シェーンバーグ(みしぇる・しぇーんばーぐ)と話しながら金の通路を進んでいた。
ツァンダ付近の山 カメリアの山に住んでいるカガミは、Dトゥルーが出現した時には街にいて無事だったのだが、そこに住まいがある事情はカメリアと変わらない。
しかし主であるカメリアは先に行ってしまったので、たまたま通りがかったミシェルに声をかけたのである。
「ううん……お礼なんて……カガミさんは無事でよかったけど、奥さんとか子供さんとか山にいるはずだもんね……」
心優しいミシェルは、パートナーの矢野 佑一(やの・ゆういち)と共に通路へと侵入していた。
そして、もう一人のパートナー、プリムラ・モデスタ(ぷりむら・もですた)が通路に仕掛けられたトラップを解除している途中なのである。
「……どうだい?」
と、佑一はプリムラに話しかけた。
「……面倒くさい」
一見すると品の良い女性なのだが、プリムラの口調は静かではあるがどこかぶっきらぼうで、毒を含んでいる。
だが、佑一が聞きたかったのはそういうことではない。
何か口を開こうとする佑一を制して、プリムラは言った。
「……面倒だけど、やる事とやれる事はやるわよ。はい、ここは終了」
とりあえず、通路の罠を解除して腰を上げたプリムラ。
「こっちも……うん、大丈夫」
そこに、周囲の見張りをしていたミシェルとカガミが戻る。
この人数では、どうしても目立ってしまう。金網が張り巡らされた迷路の中には身を隠す場所もなく、リッパーの配下のモンスターに見つかるとやはり戦わないわけにはいかない。
しかし、ミシェルは性格的に攻撃に向いていないので、カガミの幻術とミシェルのヒプノシスで何とかやり過ごしていたのである。
「……倒さないの? 敵なのに」
その様子を見て、プリムラはミシェルに問いかけた。
「う〜ん……やっぱり、できるなら誰も傷つかない方がいいんじゃないかなって……」
もちろん、ここが戦場であることはミシェルも理解している。いざという時には、自分や大切な仲間を守らなければならないことも。
「……」
プリムラは、金色の瞳を凝らしてミシェルを見つめた。
元々、佑一と契約することになったのも、ガラの悪い男達から自分を必死に助けようとしたミシェルを気に入ったからだった。だからそんなミシェルの人の良いところは、嫌いではないのだが。
「――何?」
ちょっとだけ不思議そうな顔をするミシェルに、プリムラはそっぽを向いて答えた。
「――別に、何でもないわ。行きましょう」
☆
「……やれやれ、モモはどこに行ったのかニャ」
と、ハロー ギルティはぼやきつつも通路のトラップを地味に外しながら進んでいた。
パートナーのコンクリート モモとはぐれてしまったギルティは、ここの電撃トラップはウェットスーツでは防げないことを知り、何とかトラップ解除をしていたのである。
「――にゃ? あれは何ネ?」
前方に金網で囲まれた部屋のようなものを発見したギルティは、いそいそと近寄った。
そこは、どうやらトラップのコントロール・ルームのような部屋のようで、その中には先客がいた。
榊 朝斗のパートナー、アイビス・エメラルドである。
「……誰ですかにゃ?」
アイビスも侵入者には気付いていたが、敵ではないことを予め察知していたのであろう、特に気にしないで作業を続けていた。
背中を向けたままのアイビスの頭部には猫耳の、そしてお尻には猫尻尾のオプションが揺れている。
「――む、強力な猫ライバルの出現だにゃ」
と、ギルティが勝手な対抗意識を燃やしたその時。
「む、やはりワタシのセンサーに間違いはなかったッ!!」
緋ノ神 紅凛のパートナー、イヴ・クリスタルハート(いぶ・くりすたるはーと)が部屋にやって来た。
その横には、レイスデット・スタンフォルド(れいすでっと・すたんふぉるど)の姿がある。
「よーっし、ならさっさと解除しちまおうぜ――って先客か」
部屋を見渡して様子を探るレイステッドに、イヴは少し急かすように話しかけた。
「なら、先客さんと協力して一刻も早くお姉さまのサポートをしに向かいましょうッ!!」
パートナーの紅凛をお姉さまと慕うイヴは、先にリッパーとの対戦に向かった紅凛とシキの様子が気にかかっているのだ。
まあ、最近よくメンテナンスしてくれているレイステッドと二人きりなのも悪くないのだが。
「ま、そう焦るなって……邪魔するぜ」
と、レイステッドは先に来ていたアイビスとギルティに話しかけた。
先ほどから部屋の中の仕掛けをいじっていたアイビスは、部屋に入ってきたギルティとレイステッドに応対した。
「――通路の攻略をしに来た方ですにゃ? ……この通路のトラップは大まかに解除しておきましたにゃ」
ザナドゥ時空の影響を受けているアイビスは、無意識的に語尾に『にゃ』がついてしまうらしい。
普段は大人びた外見で、いささか表情に乏しいアイビスの口から出てくると、インパクトの激しい語尾ではある。
「……なかなか個性的なねーちゃんだな……そうだ、どうせならただ解除するだけじゃなくてよ……」
アイビスからトラップの概略を聞いたレイステッドは、イヴに手伝わせて装置に何かの仕掛けを施し始めた。
「オー、それは面白そうネ!!」
と、その仕掛けに気付いたギルティも、面白がって手と口を出し始める。
「……仲間のサポートをしに行かなくて、いいんですかにゃ……?」
という、アイビスの呟きを放っておいて。
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