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リアクション
第六章 のぞき隊VS覗き防止隊
放送を聞いて舌打ちをする集団がいた。
「ちくしょう! これじゃ警戒されちまうじゃないか!」
魂の雄たけびをあげたのは、のぞき隊の面々だ。
彼らはモラルという巨大な敵に立ち向かうべく、協力し合うことになったのだ。
そこでまず、覗き防止隊の雅羅の注意を引くべく、弥涼総司(いすず・そうじ)が転んだ彼女を助け起こして世間話をしてる隙に、のぞき隊はミッションを開始することになった。
「大丈夫か?」
「ううっ、これで何度目かしら……」
「そう言うなって。これも何かの縁だ。それに、雅羅ちゃん蒼学なんだろ? 可愛い後輩が入ってくれて嬉しいぜ」
そこから蒼学トークをしだした総司にのぞき隊の面々は内心で「グッジョブ!」という念を送った。
そして、超感覚と殺気看破を持つ葉月ショウ(はづき・しょう)が覗き防止隊を警戒する中、前夜からダンボールに隠れて場所を確保していたエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)や、風森望(かぜもり・のぞみ)が息を潜ませ更衣室を覗こうとすると……。
「ひゃん、だ、だから塗らなくっていいってばー! ぁぁん、せ、背中以外は自分でちゃんと塗れるんだし、だ、だめ……そんなところ……」
「遠慮なさらないで。わたくしが身体の隅々まで……水着の中も塗って差し上げますわ」
艶かしい声に誘われて覗くと、久世沙幸(くぜ・さゆき)と藍玉美海(あいだま・みうみ)がきわどい格好で日焼け止めを塗る姿があった。
「なっ……なんたるッ!」
「見えそうで見えない、チラリズム!」
「ああ……私は今、禁断の花園を前に、真の愛の伝道師となったのですね!」
三人が各々身もだえする中、
「首尾は上々みたいだな」
暗黒卿ドスケベイダーのマスクとマントを装着した総司も落ち合い、のぞき隊完全勝利と思われた……そのときである。
「ハッ、殺気! きますッ!」
ズドドドドドッ
ショウが叫ぶと同時に、四人の眼前に槍が突き刺さった。
「迷惑行為を見つけたですぅ!」
ルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)がサイコキネシスで槍を遠隔操作してきたのである。
「残念だったわね、のぞき隊! 二人はおとりよ!」
四人の前に姿を現した雅羅は、勝ち誇ったように笑った。
「私たち覗き防止隊がこの周りは包囲したわ。さ、神妙にお縄につくのよ!」
「……くっ!」
見渡す限りの圧倒的戦力の差を前に、あわやのぞき隊、と思われたまさにその時!
「ぐわあっ!」
包囲の一角が崩れたのである。
「……なんだ?」
「その防犯カメラをよこせぇ〜!」
般若のような顔をして叫ぶのは、コンクリート モモ(こんくりーと・もも)。
彼女はのぞき防止のためにセットしていた防犯カメラに気づかず、胸パット装着時の自分の姿を抹消すべく、ソートグラフィーを使ってちょこちょこっと確認という名の破壊をしていたのである。
「今だっ!」
混乱に乗じ、のぞき隊は包囲が崩れた箇所から抜け出ると四方に散った。
「ああっ! せっかく追い詰めたのに!」
「雅羅さん、大丈夫です。つれてきた賢狼に後を追わせましたから! 吼えてどこにいるか教えてくれます!」
南部豊和(なんぶ・とよかず)がすかさず賢狼を使って逃げた四人を尾行させていたことに、雅羅は安堵の息を吐いた。
「よかった……私の災難のせいで取り逃がしたかと思って、焦ったわ」
ワオーン
「豊和、あっちには私が行こう」
レミリア・スウェッソン(れみりあ・すうぇっそん)はすばやく賢狼の吼えた方向へと駆けた。
そこには、ショウが賢狼を追い払うべく悪戦苦闘していた。
「うっ……もう追っ手が!」
「残念だったな。不届き者には、正義の鉄槌を……くらえっ!」
鉄球状に改造したパイルバンカーの攻撃をなんとか回避し、ショウは則天去私を地面に向かって放った。
「くっ……!」
砂でレミリアの視界を遮り、その隙にPキャンセラーを使おうとしたところ、
「ガウッ」
「わっ!」
賢狼に邪魔され、Pキャンセラーを構えなおしたときには……。
「っ!」
バイルバンカーをくらい、悲鳴をあげる間もなく地に伏したのだった。
一方、レギオン・ヴァルザード(れぎおん・う゛ぁるざーど)とカノン・エルフィリア(かのん・えるふぃりあ)は、トリィ・スタン(とりぃ・すたん)が追っていた望を追い詰めていた。
「あなたたち! 二人と一匹がかりなんて、卑怯ですよっ!」
「何言ってるの! そもそもあんたが覗きなんかするからじゃん!」
「だって夏ですよ? スリルと背徳感を味わうこの季節に、じっとしてなんかいられないでしょう!」
「信じられない! 反省の色なしなんて!」
「カノン……、我は追跡とこの暑さで疲弊している。ケリをつけるなら早くしてくれ」
「トリィったら。もうっ、レギオンもなんか言ってやりなさいよ!」
「俺はカノンに頼まれたから協力することにしたんだ。それに、もう袋の鼠だろう?」
「袋の鼠? そっちが二人と一匹だからといって、油断してるんじゃないですか?」
「むっきー! レギオン! やっちゃって!」
「ふう。仕方ない。恨むんなら、トリィに追い込まれてここまで来た、自分を恨むんだな」
「何っ……!」
スッとレギオンが手を挙げサイコキネシスを発動させると、あらかじめ砂の中に張り巡らせていたワイヤークローが望の足をすくった。
「なっ、これは……!」
「ふんっ! レギオンがトラッパーのスキルを使って、かなり前からこの場所に仕込んでたのよ! これで逃げられないわよ!」
ビシッと指差すカノンに、望みはふっと笑った。
「まあ、もう十分スリルは味わいましたし。いいでしょう」
「……抵抗されると厄介だったが、案外話がわかる相手で助かったな」
「本懐は遂げましたから」
「覗きをするやつの気がしれんと思っていたが……。なかなかに奥が深そうだ」
「感心してる場合じゃないでしょ〜!」
トラッパーで仕留められても飄々と会話を交わす二人に、カノンは地団太を踏んだのだった。
「しかし……知り合いに聞いた話では、スリルを求めるがゆえに覗きをする奴もいるという。そんな事をするよりも、教導の団長殿に切りかかって行った方がよっぽどスリルがあると思うが」
「なんにしても、覗き等という破廉恥な行為を行う等、言語道断ですな」
龍滅鬼廉(りゅうめき・れん)と陳宮公台(ちんきゅう・こうだい)の二人は逃げたエッツェルの後を追う最中、そんな会話をしていた。
「おや。どうやら見つけたようですな」
公台の言うとおり、この期に及んでダンボールを装備してるエッツェルを見咎め、廉も表情を引き締めた。
「貴様……水場にダンボールなど、防御力皆無であろうに……」
「そんなことは百も承知です。自覚した上で、あえてダンボールなのです!」
言い切ったエッツェルに、公台は素晴らしい笑顔を浮かべた。
「おやおや。これは仕置きが必要ですな」
その笑顔の意味をよく知る廉はともかくとして、エッツェルは強気だった。
「ふっふっふ。私は不死ですよ?」
「なるほど。承知しました」
ボンッ
突如エッツェルの周りに火柱が上がり、あたりは騒然とした。
「ただでさえ暑いのに……! いや、それよりもいきなり仕掛けてきたことに対して、私は意見をすべきなのだろうか……」
「いえいえ。無駄口を叩かなくて結構です。これからじわじわと、じりじりと……お付き合い願うわけですからな」
「うーわー。素っ晴らしく笑顔ですね、おじさん」
「ほう。中までじっくり焼かれるのがお好きのようですな、ダンボール男」
バチバチと火花が散る中、廉は公台に言い放った。
「とどめは俺がさすからな」
ある場所では静かに、またある場所では予期せぬ親交を生み、そして未だ炎に包まれる一角。
それぞれで尊い仲間を失ったのぞき隊。
その最後の一人……総司は目の前の敵を見据え、マスクの下で表情をゆがめていた。
それというのも、彼の前に立ちふさがったのは雅羅だったのである。
背後に杜守柚(ともり・ゆず)と杜守三月(ともり・みつき)を従えた雅羅は、一歩前に出た。
「みんなから連絡が来たわ。……残るはあなた一人よ」
「そうか。数少ない戦力で、よくみんなここまで持ちこたえたもんだ。最後の一人と聞いちゃ、みんなのぶんも戦い抜くっきゃねえな!」
「返り討ちよッ!」
こうして、戦闘の幕が切って落とされた。
図らずも一度出会い、会話まで交わした先輩後輩の仲という二人がこんな形で相対しようとは、お互い思いもよらなかったに違いない。
雅羅が繰り出すバントラインスペシャルの弾丸を、
「ガードしろッ、ナインライブス!」
とフラワシで裁く間にも、
「ハッ!」
「っ!」
爆炎波を使い、雅刀に炎を纏わせて攻撃してきた三月の攻撃を避け、
「えいっ!」
雷術を駆使してくる柚の攻撃を避けようとしたところで、総司はふらついた。
通気性の悪いマスクとマントを身につけていたところに、炎の攻撃を仕掛けられたのである。
遂には暑さのあまり倒れた総司は腹をくくった。
(ああ……。せっかく雅羅ちゃんとお近付きになれたのに。ここでのぞき男のレッテルを貼られてしまうのか……!)
倒れた総司に駆け寄った雅羅が、マスクをはずそうと手を伸ばしたとき……。
「雅羅。あとは俺らがやるから」
武崎幸祐(たけざき・ゆきひろ)がそう言ったかと思うと、ヒルデガルド・ブリュンヒルデ(ひるでがるど・ぶりゅんひるで)が総司の手足をロープで縛った。
「あなた方には、私たちが用意した檻に入ってもらいます」
「夕方、自警団に引き渡すまで……日のあたる場所で、存分に反省をしてもらう」
「俺……、明らかに熱中症なんだけど」
「先に捕らえた三人も一緒の檻だ。良かったな、仲間がいて」
「あ……、俺の言葉は聞き入られない感じなんだな……」
総司は幸祐に檻に入れられながら、内心少しホッとしていた。
(まだフラグは折れていないってことだよな? 雅羅ちゃん……!)
息苦しさのためゼハゼハ荒く息を吐く総司は周囲の冷ややかな視線にさらされる中、意識を手放したのだった。
事態が収拾する中、雅羅は確かな達成感を感じていた。
(ちゃんとのぞき隊を捕まえられたわ……!)
もちろん協力してくれたみんなのおかげであることは承知しているが、海に来てからというもの何度も何もないところで転んでいた雅羅である。
(私……、災難体質を脱したんじゃないかしら!)
「あ、いたいた。雅羅さん!」
雅羅に駆け寄ってきたのは、彼女を慕う想詠夢悠(おもなが・ゆめちか)だった。
「ずっとパトロールお疲れ様。お姉ちゃんが日焼け対策にロンTワンピを持ってきたから、雅羅さんに渡しにきたんだ。これから日が沈むまでまた暑くなるらしいからね」
「そうなの……。私は色白であんまり肌焼けないから助かるわ」
水着の上から雅羅がワンピを着て、夢悠に礼を言おうとしたところで。
ピュー
「キャッ!」
突如顔に襲い掛かった冷たさに、雅羅は飛び上がった。
「なっ、何?」
「油断ね、雅羅ちゃん。のぞき隊を捕まえたといっても、あれは氷山の一角。そんなことじゃ、次に現れた不埒者を取り逃がしちゃうわよ?」
「お姉ちゃん!」
水鉄砲を構えた想詠瑠兎子(おもなが・るうね)が尚も雅羅を撃つのを見て、さすがに夢悠も止めるべきか迷っていると。
「何やってるの、ユッチー! 海に来たら水でキャッキャウフフはお約束でしょ! ほらほら、ユッチーも雅羅ちゃんを撃つべし!」
「あ、遊び……なんだよね? せっかくの海だし……、じゃあ」
遠慮がちに持っていた水鉄砲を撃った夢悠を咎めるべく口を開いた雅羅だったが、
「きゃあ!」
胸、お腹、お尻と瑠兎子に的確に撃たれて悲鳴をあげた。
「あ、あれ……なんか雅羅さんのシャツが透けてきて……」
「ね! 透けた布地から見える水着、下着みたいでしょ?」
(や、やっぱり災難体質なおってない〜!)
災難は、忘れた頃にやってきたのだった。
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