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神に捧げる奉納舞

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神に捧げる奉納舞

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動き出した闇

 月が顔を出し、東 朱鷺(あずま・とき)を照らしている。
 朱鷺がステージ上で祈りを捧げていると、シメオンのゴーレムとゲドーのアンデッドが突如現れ朱鷺に襲いかかってきた。
 朱鷺はそれに気付きながらも祈りを続けている。

「危ない!」

 そう叫びレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)カムイ・マギ(かむい・まぎ)が身を呈して朱鷺をゴーレムとアンデッドから守った。
 ゴーレムとアンデッドに吹き飛ばされるレキとカムイ。

「大丈夫ですか? 今手当てをしますので」

 吹き飛ばされ、負傷したレキとカムイにナージングを使用して応急処置をするのは、今まで舞台の観客としていた
ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)

「ユーリカ、イグナは負傷者の手当てと守りを! ボクとアルティアはあのゴーレムとアンデッドを叩きます」

 同じように観客としていた非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)がてきぱきとユーリカとイグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)に指示を出すと、アルティアと共にゴーレムとアンデッドに突っ込んで行く。

「これで傷の方は大丈夫ですわ」
「ありがとうございます」
「それじゃ、行ってきます!」

 ユーリカに手当てをしてもらったレキとカムイは、礼を言って近遠たちに加勢していく。

「加勢させてもらうよ!」
「先程は不覚をとりましたが、今度はそうはいきませんから」

 レキがサイドワインダーで攻撃していくと、それに追撃するようにカムイはチェインスマイトを使ってどんどん攻めていく。

「アルティアの力を使ってくださいませ!」

 レキとカムイに荒ぶる力をかけたアルティア。
 それが済むと、悲しみ・恐れ・驚き・嫌悪といった歌を駆使して味方の指揮を上げつつ、ゴーレムとアンデッドの妨害をしていく。
 ステージでなおも祈りを捧げていた朱鷺は、すうっと息を吸う。

「アルティア、我の下へあの愚か者をつれて来れるか」
「分かりましたでございます」

 歌い出す間際の朱鷺をアルティアは素早く駆けつけ、イグナとユーリカの下へ運んだ。

「朱鷺ちゃん、大丈夫でしたか?」
「今から朱鷺が幸せの歌でこの場を静めようとしてたのに、なぜ邪魔を」
「なにをふざけた事を……。貴公はここで大人しくしておるのだ」

 朱鷺の言葉を遮り、圧力をかけて黙らせる。

「ふむ。もう少し守りを強くせんといけんかもな」

 ディフェンスシフトとファランクスをかけていたイグナは、オートディフェンスもさらにかける。
 朱鷺はと言うと、むすっとしながらもイグナの前に出てまで歌を歌おうとはしなかった。

「これでさいごー!」

 レキは財天去私で直接拳を撃ち込み、最後の一匹となっていたアンデッドを倒す。

「うん。まわりにゴーレムもアンデッドもいませんね」

 周囲の被害規模は極めて少ない状態でこの戦闘は閉められた。
 この場で一緒に戦っていたメンバーが集まり、お互いに苦労をねぎらい合う。

「お疲れ様です。加勢してくださってありがとうございます」
「ううん、ボクたちの怪我を治してもらったんだし、これくらいはしないとね!」

 のほほんとした空気が辺りを包みこんでいる。

「きぃ〜! 俺様のアンデッドちゃんがぁ」
「私のゴーレムもことごとく壊されてしまったか」

 それを陰で見ていたゲドーが地団太を踏んでいると、紫翠とレラージュが二人の背後に立つ。

「動かないで下さい。この騒動はあなた方が?」
「はぁ? 何言っちゃってんの。俺様たちはなぁんもしてねぇぜ。なぁ、シメオンちゃんよぉ」
「当たり前だろう。私たちが手を加えたという証拠でもあるから言っているのだろうな?」

 紫翠とレラージュの方を振り向き、神経を逆撫でするような笑い声をゲドーが上げる。

「ではなぜ、あのように地団太を踏んでいたのです? 卑しいことがなければしませんよね」
「うるさいな〜。どうでも良いじゃん、そんなこと」
「こちらはどうでも良い事じゃないから聞いてんだよ」

 ゲドーのしゃべりに神経を逆撫でらされたレラージュは言動を荒げて聞いていく。
 そのレラージュを交えて進む口論が次第にエスカレートしていった。

「みんな、こっちだよ!」

 激しくなっていった口論を聞きつけたアニスが、和輝とスノー、ルナ、アニス、そして永谷をこの場に呼んで来る。
 紫翠との口論に苛立ちが募っていき、さらに増えた人数に怒りを爆発させるゲドー。

「あーもうお前ら邪魔なんだよ! シメオン」
「分かっておる」

 シメオンがゴーレムを出し、ゲドーもアンデッドを呼びだした。

「やれやれ……苦手なんですけどね……戦いは……妨害したんですから……相応の覚悟できてますよね」
「そうですわね。邪魔したのですから、お仕置きも必要ですわ」

 そう言い黒い微笑みで呟く紫翠とレラージュ。

「和輝! ちゃっちゃととっ捕まえちゃおうよ」
「当たり前だ。永谷も良いよな?」
「あぁ。儀式を成功させるにはこの場でどうにかしないといけないからな」
「それじゃぁ、頑張りましょ〜ね」

 両袖の下に隠していた銃を両腕を振り下ろす勢いで取り出して、戦闘態勢を取る和輝を先頭にした陣形を取った面々はゴーレムとアンデッドに向かっていった。

「みんな突撃! いっけー」
「アニス、無茶はダメですよぉ〜」

 空飛ぶ箒に乗っているアニスは、使い魔である狐やネコ、カラスにコウモリに指示を出していく。
 ルナはたくさんの使い魔を使っているアニスに驚きの歌を歌う事でそれのフォローをしている。

「(和輝! 左からグールのアンデッドが来るよ)」
「(左だな)」

 精神感応による会話で的確に次々とアンデッドとゴーレムを、両袖の下に隠していた銃で撃墜して仕留めていく和輝。

「くそが! 次から次へと……さっさとコレをぶっ壊してあいつ等に一発喰らわせてやらないと気が済まねぇ」

 倒しても倒しても溢れ出てくるゴーレムとアンデッドにイラつき、紅の魔眼と封印解凍を使い攻撃を激化させた。
 数は確実に減っていったがあ、その分和輝の体には傷が増えていく。

「和輝さん、一端落ち着けよ。頭に血を上らせては上手くいく任務も完遂できなくなる」
「和輝、無茶はダメですよぉ〜。スノー手当てをお願いしますぅ」
「わかっているわ」

 アニスの傍を飛んでいたルナがそうスノーに指示を出すと、スノーは素早く和輝と他の面々に回復術を施していく。

「これより後ろには行かせません! スノーさんはこちらを気にせず治療に専念して下さい」
「さぁ、お仕置きの時間ですわ、よ!」

 その間、紫翠は銃による後方攻撃でスノーたちに迫ってくるゴーレムとアンデッドを食い止める。
 レラージュは前衛で回避と錯乱させつつ攻撃の手を休めず攻めている。

「これでよし。和輝、一人でここを戦っているのではないのよ。もっと私たちに頼って戦いなさい」
「そうです。もうひと頑張りですよ」
「そうだな。みんな行くぞ!」
『おぉ!!』

 陣形を立て直し、お互いの攻撃を活かしながら次々に大量のゴーレムとアンデッドを倒していく。
 そして、ついにこの場にいたゴーレムとアンデッドを全て倒した。残るはゲドーとシメオンのみ。

「あとはお前たちだけだな」
「諦めて私たちに捕まりなさい」
「いやだね。もっともっと俺様は楽しみたいんだよ!」

 お互いに均衡を保って睨み合いが続く。

「では、木に縛られて揺られていなさい」
「は!?」

 素早くレラージュがゲドーとシメオンを縄で締め上げる。そのまま近くにあった気に吊るそうと引きずって行く。

「くそぉ……俺様としたことがぁ!!」

 縛り上げられ、吊るされた姿勢のまま足をじたばたとさせるゲドー。
 足をばたつかせればたつかせるほどゆらゆらと左右に大きく揺れていくゲドーとシメオン。シメオンは諦めたのか足掻くことはしなかった。

「ここで奉納舞が終わるまで反省していなさい」

 ゲドーとシメオンの傍に、アニスとルナの使い魔とパラミタペンギンを置いて全員は警護に戻っていった。

 ゲドーたちと紫翠たちの騒動が収まってきた頃、レティーシアは奉納の舞を捧げる時間が近づいてきた事を七ッ音に伝えていた。

「さぁ、御神木の所へ向かいますわよ」

 レティーシアたちは以前にも増して七ッ音の警護を強め、御神木の所へ向かい出す。


 ――森の奥深くにある御神木。
 御神木の下には白絹を被り巫子の服を着ている高月 玄秀(たかつき・げんしゅう)が佇んでいる。
 御神木の上には柳玄 氷藍(りゅうげん・ひょうらん)須佐之男 命(すさのをの・みこと)が隠れていた。

「神様の加護ってのは……直接的に力をもらうんじゃなくて、信仰する心に生まれる『強さ』みたいなもんでさ、山や川、森……様々な恩恵に感謝して、奢り高ぶる事無く感謝の心を忘れず、献身的に生きる人が祈るからこそ与えられる加護だと俺は思うんだ」
「悪かないんじゃねぇか? ここの地祇も幸せもんだな、毎年こうやって崇めてもらえるんだからよ……」

 これから始まるであろう奉納舞に心弾ませながらそういう会話をしている氷藍と命。
 そこへ玄秀の所へ鼻息を荒くした女性がじりじりと近づいてくる。

「み、巫子ちゃん……白絹に隠れた美しい顔を私に見せて?」

 興奮したことで震える女性の手が玄秀の肩に手を伸ばす。
 玄秀はくるりと女性の方へ体を向け、俯いていた顔を上げた。上げられた顔には般若面が付けられている。

「…………ふっ。かわいい巫子さんでなくて申し訳ありません。しかし、折角出てきて頂いたのですから、一指し舞いを御覧に入れましょう。いでよ! 広目天王!」

 玄秀は勢いよく白絹と面を外すと声高らかに式神 広目天王(しきがみ・こうもくてんおう)を召喚する。しかし、広目天王の姿はどこにも見えない。

「あれ……?」

 不安そうに辺りを見渡す玄秀に、女性は召喚が失敗したのだと思い馬鹿にして笑い玄秀との距離をじわじわ狭めていく。その反対に玄秀は後ろに下がっていった。

「あはは! さぁ……観念して私に愛でられなさいな」
「こ、これ以上近づかないでくれませんか……?」
「い、や、よ」

 玄秀の背に御神木の幹が当たる。

「ふふふ……後がなくなっちゃったわね」

 御神木まで追いつめた女性は卑しい表情で玄秀の顔を手で支えてじっくり舐めるように見回す。
 動かない玄秀を良い事に支えていた手を徐々に頬から首へ下げていった女性は、突如足になにかが絡まり後ろへ引っ張り上げられてしまった。

「な、なにが起きたっていうの!?」

 女性の足には怪植物のツタが絡まっていた。ふふふっと今度は玄秀が女性を黒い笑みで見下ろす。

「すみませんね。召喚はちゃんと成功してますよ」

 先ほどまで浮かべていた怯えはどこにもなく、手に持っている招雷符をちらつかせる。

「ちょ、ちょっと待って……それってもしかして」
「落ちよ、雷撃!」

 女性の怯え顔なんて気にせずに玄秀は招雷符を飛ばしサンダーブラストの雷を落とす。
 と、今まで陰形術で姿を隠したままだった広目天王が現れブラインドナイブスで連撃を叩きこんだ。
 女性は悲鳴を上げ、そのまま意識を失ってしまった。

「無事か、玄秀様」
「大丈夫。ありがとうございます」
「つかぬ事申すが、玄秀様なにか面白い事でもあったのか」
「うん? 女装して騙し討ちというのは神話時代からの伝統ですから楽しかったな、と」
「左様か」

 広目天王とのんびり会話をしていると、悪疫のフラワシが音もなく訪れる。
 殺気看破で悪疫のフラワシが訪れたのに気が付いた氷藍が命に声をかけ、御神木の上から飛び降りた。

「いくぞ、スー!」
「だから……スーって呼び方はやめろ、糞餓鬼」

 玄秀は上に氷藍と命がいたことに気付いておらず、飛び降りてきた二人に驚くも氷藍から下がっているよう言われる。

「あなた方は……」
「そんなことはどうでもいい。黙って後ろに隠れてろ」
「分かりました。ですが僕でもフォローくらいは出来ます。広目天王は二人の援護を」
「承知した」

 氷藍が先陣を切れば、命が氷藍の攻めで出来た隙を埋める。

「相変わらず隙が多いなてめぇは」
「べつにスーがそれを埋めてくれるんだから良いじゃん」

 互いに呼び方について言い合いながらもワラワシを御神木に近づけていない氷藍と命。
 広目天王もワラワシの行動を食い止め、氷藍や命の攻撃を当てやすくしている。

「お二人とも会話をしながらもこんなにお強いとは……」

 玄秀はフォローの為に札を構えはいたが、氷藍と命の息の合った掛け合いに一度もそれを投げることが無かった。

「これで仕舞ぇだ。決めろよ、糞餓鬼」
「言われなくても」

 命がニヤリと氷藍に視線を向けると、分かっていたといった表情で悪疫のワラワシを倒した。

「よっし。退治完了っと!」
「否。まだ終わってない」

 広目天王はそれだけ言って怪植物のツタを一本の大樹に向けて放った。

「きゃうっ」

 小さな悲鳴と共に、焔のワラワシとローゼがツタに絡まった状態で広目天王の前に引きずられてくる。
 焔のワラワシとローゼを見た広目天王は、一目で悪疫のワラワシを放った人物が誰だか気付いた。

「ワラワシの一種か……貴公が先ほどのワラワシを放ったな」
「だったらどうする?」
「玄秀様に危害を加えるであろう貴公を野放しには出来ん。この祭式が終わるまでこのままでいてもらおう」
「ふぅん。ま、楽しかったしもう何もしないよ」

 あっさりと焔のワラワシを消して見せるローゼ。
 そこへ七ッ音を連れたレティーシアたちが森の中から現れる。

「あら、もしかして妨害者を捕らえたのです?」

 ツタに絡まっているローゼを見て、レティーシアはそう尋ねる。広目天王はローゼをレティーシアに預けるとそのまま魔界へ帰って行った。