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大廃都に残りし遺跡~魂の終始章~

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大廃都に残りし遺跡~魂の終始章~
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 Episode3‐1 〜Epilogue‐Mother Side〜
 
 
「ファーシーさん、幸せそうでしたね」
 翌日、陽太はツァンダの自宅で環菜と静かな一時を過ごしていた。昨日とは打って変わって、朝から快晴。暑くもなく寒くもなく、穏やかな日和だ。
「そうね。あの娘に子供なんて、まだ実感が湧かないけど……」
 もしかしたら、無事に出産まで終えて子供の顔を見るときまで実感出来ないかもしれない。
「出産の時にも立会いたいですね。来年の……夏くらいでしょうか」
 環菜の考えを読んだように、陽太は言う。そこまでは何てことない、いつもの日常会話だったのだが――
「環菜は、子供についてはどう思っていますか? あ、子供っていうのは……あ……あの、俺達の……ってことですけど……」
「…………!?」
 テーブルに頬杖をついていた環菜は、ずるりと分かりやすい反応をした。
「こ、子供? 私達の?」
 手の平を頬からこめかみあたりに移動させたその姿勢のまま、彼女は目を瞬いた。
「ええ。俺的には、子供は天からの授かりものですし自然の流れに任せたいと思ってるんですけど……。ただ、もしも環菜が身重になって鉄道王の夢に差し支えたら困らないかな、とか、ええと……」
「そうね。確かに差し支えるかもしれないわ」
「え、あ……そ、そうですよね! そう……」
「でも……」
 環菜はそこで、慌てる陽太に笑顔を向けた。悪戯に成功した少女のように。

「子供は、天からの授かりものっていうでしょ?」

              ◇◇◇◇◇◇

『生まれてくる子がこの映像を見るのがいつか分からないですけど、素敵な出会いが沢山ありますようにお祈りしています。ファーシーさんにとっても、いい思い出になるでしょうしね』

「うーん…………。観たいなあ……」
 ヒラニプラの工房にある寝室。ベッドの上で、ファーシーは舞から受け取った記録媒体を眺めていた。生まれてくる子供へのメッセージ。子供に向けた、皆からのメッセージ。そして、昨日の夕食時の映像がこの中に入っている……らしい。
 観たい。めちゃくちゃ観たい。今ここで、映像機器にセットして再生ボタンを押してしまいたい。
「子供と一緒に初めて観た方がいいのかなあ……。わたしだけ観ても、いいかなあ……。ねえ、どう思う?」
 おなかの子供に話しかけてみる。でも当然、まだ返事などあるわけもなく。
「わたしの中に2つの機晶石があるなんて……、何か、不思議だな」
 貰った智恵の実は、結局おいしく食べてしまった。だって、やっぱり頭の良い子になってほしいし。
 それは兎も角。
「うーーーーーーん……」
 ――一緒に観ようかな。その方が楽しいかな……?
 ノックの音が聞こえたのは、そんな時。
「ファーシー、体調はどうだ?」
 スズランの花束を持った鬼崎 朔(きざき・さく)が、部屋に入ってきた。
 花言葉は、幸福の再来。

「花、ここでいいか?」
 硝子の花瓶にスズランを入れ、陽光がよく当たる窓際の左端に置く。その隣にはもう一つ花瓶があり、そこには昨夜にエースに貰った白百合と、そして、差出人不明の花束を解いて飾った、綺麗な花が挿さっていた。こちらは朝、玄関を開けた時に外に置いてあったものだ。それは仮面男ことトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)がこっそりと置いたものだったのだが――ファーシーがそれを知る事は無いだろう。
「……ちゃんと幸せになれよ、ファーシー」
「……え?」
 きょとんとするファーシーに、朔は目を細めて笑いかけた。その笑顔に、外の暖かな光が射しかかる。
「……なんたって、子は親の『幸せの形』だからな」
 不妊治療中の自分と比較しつつ、朔は言う。だが、ファーシーがそこまで感じ取れるわけもなく。
「うん、そう……幸せの形だからね」
 ただ、おなかに触れてそう笑う。

 そして数日後、やっと、彼女はツァンダの地に戻ってきた。
「もう、モーナさんったらわたし、元気だって言ってるのに……、帰ってくるの、遅くなっちゃったな。あれ? これ……」
 郵便受けに入っていたのは、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)からの祝いの手紙。そこには、“おめでとう”と書いてあって――
 ファーシーは彼に、それからこれまで助けてくれた皆に、精一杯の感謝を込めて、言った。

「うん……、ありがとう!」
 
 
 
 



                                 〜END〜

担当マスターより

▼担当マスター

沢樹一海

▼マスターコメント

今回も大変お待たせしてしまいました。本当に申し訳ありません。
毎回謝罪文から入っているだけに、「文」でどれだけこの気持ちが伝わるか分かりませんが……心から全力で謝罪させていただきます。自分からこれほど土下座したいと思ったことはありません……。
本当にすみませんでした。(以下駄文)
オフィシャルイベントの最後にご挨拶させていただいた時は、7割で4万5千字とか言っていたわけですが、何故か残り3割に9万字近く使ってしまいました。いや、本気で7万字くらいには収めるつもりだったのですが……(残りじゃなくて合計で)。
「いつもの文字数の半分くらいになります」とか言ってたのに、自分でもちょっと果てしない気持ちになりました。

本編については……そうですね、1つだけ……、ガーゴイルの守る本には鍵をかけるべきでした。ストーリーは……、完結してるよね? うん。してると思います。多分。

今後の進退についても色々と思うところがあるのですが、はっきり「こう」と決まった事が無いので、何か決まりましたらマスターページでお知らせいたします。

また、今回智恵の実を持ち帰った皆様には【智恵の実を手に入れた】という称号を発行しています。確認しているところ、5名様です。少なっ! と思ったのですが、殆どその場で食べてるからこの位の数なのでしょうか……。もし数え間違いとかだった場合、サポートまでご連絡ください。修正させていただきます。(こちら、実際に実を取った描写がなくても、最奥まで辿り着いたと判断した方に送らせていただいています)

それでは……

この度は、ご参加いただきましてありがとうございました!