校長室
学園祭に火をつけろ!
リアクション公開中!
「うん?」 「どうしたハル。何かあったのか?」 思わずあげたハルの一言に、若干退屈になってきていたルカルカ、未散が反応した。 「台の的の位置や並び、倒れ方。そして更にダリルさんのあの余裕…………どうやら彼は、とんでもない事をお考えの様です」 「何だよ、勿体ぶらずに教えろよハル」 「そうだよ、全然わからないじゃん! 何に気付いたのさ」 「此処に至るまで八発。全弾当てているにも関わらず全く落ちない的。的が的の上に折り重なり、もたれ掛かっている。もしもあれらに、ある一定の方向からの衝撃が加われば――どうなると思われますか?」 「………………ある一定の方向からの?」 「衝撃……………って、嘘でしょ!?」 ハルの言葉に思考を働かせ、逸らしていた目線をダリルに、そしてその先にある的台へと向けるルカルカと未散。同時に、ダリルはポツリと一言、呟いた。 「これで詰みだ――チェックメイト」 呆気ない音の後。台に溜まっていた都合八つのその全てが、彼の放った一発によって崩落し、次々に落下していく。 「……………………………………」 「………ダリル、ちょっと怖いよ。色んな意味で」 「やはり、そう来ましたか」 苦笑を浮かべていた店番の青年は、苦笑のままに動きを止めた。まるで銅像にでもなったが如く、目の前で何が起こったのか理解できず固まる。 未散も未散で、おおよそ自分の思考し得るキャパシティを越えた出来事に、あんぐりと、口を開けるだけである。 「最後の一発と取った景品は全て未散にやろう」 言い残したダリルが、手ぶらのままに三人の横に並び、未散を促す。 「……………………ぜってー勝てねーじゃん……………」 数秒から一分程度の沈黙の後、漸く正常な意識と思考が戻ってきた未散は、肩をがっくり落としながら銃を手に握る。が、彼女としてもまだ諦めきれてはいないらしい。しかも、半ば「反則では?」と思うほどの大きな一発をダリルから貰ったのだ。負けと決めるにはまだ早い。自分を奮い立たせるように言い聞かせ、未散は10+1発を青年から受け取り、一人静かに闘志を燃やしていた。 「ぜってー負けてやっか……! ダリル、私にこの一発を渡したことを後悔するがいい……!」 気合い十分――未散は銃口を的へと向けた。 「元気出しなよ未散……ねっ?!」 懸命に励ますルカルカ。隣では何と申し訳ない事をしたのだろう。と後悔するダリル。が、その隣にいたハルは寧ろ、二人がそこまで慌てていたりする姿に首を傾げてた。 「ルカさんもダリルさんも、未散君まで。何故そんなに落ち込んでいるんです?」 「い、いやぁ…………だって、ねぇ」 「あぁ、大の大人がやることじゃなかった。反省している…………」 「いや、だから………未散君、負けてないじゃありませんか」 項垂れている未散の横に目をやるハル。その視線の先には山盛りの景品が詰まれている。都合十六個の景品、といえば、未散が負けてなどいない事がお分かりだろう。 「一発貰って引き分けた…………ハンデまで貰って引き分けた………くそっ」 何だかなぁ、と、心の中ででも呟いたのだろうか。苦笑しながら大きくため息を着いたハルは、その足で射的の台に向かっていた。 「私…………顔洗ってくる」 すっくと立ち上がった未散に対し、ルカルカが恐る恐る声を掛けた。 「ハルの番だけど、見ないの?」 「いい」 「一緒に付き合おうか?」 「ありがとう。でもいい」 二人に背を向けたまま、最低限の返事だけ返した未散は、そのままフラフラとその場を後にする――。 で、更にその数分後。 「うっはは、面白れーな、あっははは」 未散は元気に笑っていたりする。 「……………………………」 そして今度は、ダリルが項垂れている番だったりもする。 「まぁ、未散が元気になって良かったにゃ!」 「わたくしとしてはそれが一番の賞品です、にゃー」 「……………俺が、まさか………まさかハルに負けるにゃんて…………………にゃー」 「あ、いじけててもそこだけはきっちり守るんにゃね」 この状況。 あの後、未散が顔を洗いに言った後、何とかハルが九発を落とし、勝利した訳で。 その後、未散が帰ってくる迄にハルの命により、未散が勝利した事になった訳で。 最初は「そんなん勝ってねぇから嬉しいわけあるかぁ!」と言い張っていて未散に、『勝ちは勝ち。命令しようよ』と全員で説得した訳で。 いざやってみたら余りのシュールさに未散が吹いて、今に至る。と、いう訳である。 「さーてと、そろそろエースたちの店に顔でも出すにゃ。俺がクレープ奢るにゃー」 「いっひひひ! ちょ、駄目だ。腹痛ぇ!!!!!! あっはっはっはっはっ!」 「そ、そんなに笑う事ないにゃろ…………」 「そうにゃ! あたし結構面白いから気に入ったにゃ! にゃんなら一日これで行っても良いにゃ!」 「未散君、あんまり笑いすぎると他の人にぶつかってしまいますのにゃ、危にゃいから気をつけて欲しいですにゃ」 「駄目だっ!!!! ルカは可愛いから良いが、男二人で真顔のまま『にゃー』はやべーよ、あっはっはっは」 こうして四人は、エースたちの出してる店へと向かう訳だが、暫くの間は未散の笑い声が響き渡っていたという。