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太古の昔に埋没した魔列車…エリザベート&静香 後編

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太古の昔に埋没した魔列車…エリザベート&静香 後編

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第15章 1万度・・・100万度?その熔解温度は謎

「配線とかは他の人がやってるし、私は壁の修繕ね」
 美羽は桜井静香から渡された予想図を見ながら、まずは必要な箇所からと客車の修繕を始める。
 車内に入ったとたん、聞きなれた少女の声音が響く。
「明日香〜早く現場にいくですぅ〜」
「溶かすのは現場でやらなきゃいけないんですか?」
 エリザベートをおんぶしてやりながら、明日香はヴァイシャリーの別邸だけでやるんじゃないんですね?と聞いた。
「扱いやすいように、小さな炉を用意しましたからねぇ。少しずつ溶かして使うんですよぉ」
「そうなんですか!エリザベートちゃん、つきましたよ」
「その炉でアダマンタイトを溶かすんですぅ〜」
「はーい♪」
 ぐるぐると炉の取っ手を回すと、温度のメーターが急激に上がっていく。
「開けてレンズで見てみたいですねぇ♪」
「火傷しちゃうからいけませんよ。属性の切り替えは、蓋を回すんでしたよね?」
「そうですよぉ〜」
「氷系に切り替えますね」
「水でも反応はするんですけど、いろんなパターンに分かれているんですよぉ」
「では冷やしますよ♪」
 キュルキュルキュルッ。
 何万度も上がっていた温度が、急激に下がっていく。
「なんだか不思議ですね?アダマンタイトが溶けるのに、炉は溶けないなんて」
「内部に破損しないように、持ち主の魔力でバリアを張っているんですよ」
「それなら心配いりませんね。はい、加工しましたよ」
「ありがとう。冷えて固まると車体の色に合っているわね」
 ぺたぺたとコテでヒビが見えないよう、ぬりぬりと塗る。
「もう、現場にきてまで精錬を続けるって、どんだけ熱心なんだかね」
 足を止めながら精錬し続けるエースに、メシエが肩をすくめる。
「後、もう少しで終わりそうなんだ」
「ふぅ、後もう少しっていう言葉が何度出たことか。4両分残ってるから、今全部やる必要なんだから」
「終わらせておいたほうが、後々楽じゃないか。よし、終わった!」
 酸化鉄の成分をモニター上で摘み、アダマンタイトと分けて精錬する。
「修理に使う分だけ溶かすんだからね?」
「分かってるって。他の人に冷却してもらうために、ファイアストームの炎の気にしておくか」
「SPを節約しなきゃいけないってこともかな」
 すぐに使えるようにしようと、メシエは炉の取っ手を回しながら歩く。
「俺も用意しておかなきゃな。あ、もう修理始めているのか」
「うん、私たちが最後にヴァイシャリーの別邸から出たからね。皆起きてて誰もいなかったよ。十分な量というか、全部処理しちゃうなんてさすがとしか言いようがないよ」
「それは褒めているのか?途中で詩穂さんたちが手伝ってくれてたし」
 深夜3時に、“おはようございます☆”と、元気よく作業場へ入ってきた姿を思い出す。
「さっきぶりですね☆」
 噂をすれば・・・なんとやらというが、すでに詩穂が列車の前に到着している。
「早いね、修復度合いはどう?」
「まだかかりそうですよ」
「詩穂さん、アダマンタイト溶かせましたー?」
「はいは〜い、明日香ちゃん。出来ましたよ、冷却お願いします☆」
「分かりました。エリザベートちゃんもやってみません?」
「私は明日香が作業しているところ見ていたいですぅ〜」
「じゃあ傍で見ててくださいね♪」
 そのエリアだけ、仲の良さそうな姉と妹がいるような光景だ。
「うーん、困ったな。凍てつく炎の気にしておけばよかったかな」
 あの空間に入り込んでいいのか、エースは声をかけようか迷ってしまう。
「彼女より早起きでマシーンみたいに作業していた人がいるよ」
「えっ?あぁ・・・」
 あまり表情を崩したところすらみたことがない遙遠が現場へやってきた。
「1両車は美羽さんだけですか?」
「というよりも、壁中心の修復作業だな」
「―・・・もう無理、眠すぎるわ!」
 ベアトリーチェに作ってもらったサンドイッチを口に咥えたまま、あまりの眠気にダウンした美羽は車内から出ると、ぱたんっとシートの上に倒れて眠ってしまった。
「やっぱり過酷すぎるようだね」
 その様子をメシエがちらりと見る。
「壁の修復は終わっているみたいだぞ」
 不屈の闘志に乾杯っと、エースは紅茶を飲み干した。



「女の子1人でここまでやったのか・・・。後は俺がやるか」
 美羽の後を十田島 つぐむ(とだじま・つぐむ)が引き継ぐ。
「遙遠、アダマンタイトの冷却を頼む」
「さすがにこのままの温度では使えませんからね」
 エースから炉を受け取った遙遠は取っ手を回し、1000度近くまで温度を下げる。
「火傷しないように気をつけてくださいね」
 注ぎ口からコテに分けてやり、つぐむに渡す。
「触れたり近づきすぎなきゃ大丈夫だろ」
 そう言うと彼はガラン・ドゥロスト(がらん・どぅろすと)の肩を借りて天井の修復を始める。
「幸い天井には照明がないから進みやすいな」
「炉の中が空っぽになってしまいましたね」
「これも頼むよ」
 炎の気を加えて溶かしておいたやつをメシエが遙遠に託す。
「はい。―・・・というか、皆さん炎系ですか?」
 冷却系の魔法を使えるのが自分だけなのだろうか、と生徒たちの様子を見る。
「実は、私の方は氷術を使えるけど。冷却となるとSP的にね」
「困りましたね、いくらヨウエンでも無限にあるわけじゃないんですよ」
「えー、頑張って?」
「何ですか、その・・・えーっていうのは」
 やれやれとため息をつきながらも冷却を手伝ってやり、アダマンタイトを少しずつコテにつけてやり、つぐむに渡している。
「お話はいいが、床に垂らしたりするなよ」
「そんなイージーミスはしませんよ、ヨウエンたちは」
「ふぁ〜、そろそろ休憩するか」
「最後まで精錬を担当してましたから、相当疲れていそうですね。おやすみなさい」
 お疲れモードのエースとメシエを遙遠がちらりと見る。
「詩穂さんも無理せず、休みたい時に休んでくださいね」
「ミスして怪我したりすると危険だからな」
「詩穂はまだ平気です☆2人もあまり無理しないように気をつけましょうね」
 炉にファイアストームの気を加えながら、にっこりと微笑んでみせる。
「量が足りなくなってきたな・・・。ヴァイシャリーの別邸からアダマンタイトを運んでこい、ただし必要な分だけだからな」
 ガランの背から降りるとだんだん命令口調に変わってきたつぐむが彼に指示を送る。
「ふむ、了解した」
 後に4両分を引き上げ後に使うのだろうと、研究室に入った彼は精錬された金属を、丈夫な袋に詰めると急ぎ現場へ走る。
「つぐむ様、ワタシは何をすればよろしいですか?」
 ミゼ・モセダロァ(みぜ・もせだろぁ)が声をかけると・・・。
「ボケッと突っ立ってないで、工具箱をこっちに運べ。取って来いと言えば、大抵の犬だってすぐ持ってくるぞ」
 愛用している工具箱をミゼに運ばせようと、まるで犬以下のように扱う。
「はーい、分かりました!(あぁ〜・・・つぐむ様が荒れている!もっと大荒れに荒れて〜っ)」
 彼女もキツイ口調で言われ始め、もっと粗雑に扱って〜♪と心の中で悶える。
 床にへなっと倒れたミゼは、作業に集中するあまり、空気をピリつかせる彼を見上げる。
「おい、そこに座るな。床が汚れるだろうが。ていうか、道具箱1つまともに運べないのか?その足は何のためについてんだ」
「すみません、つぐむ様っ。(はっ、今椅子が外されているあの振動は、ワタシが整備されている時にもっ)」
 工具箱を渡すと、電動ドライバーで床から椅子の土台を外す彼を眺める。
「(首元を貫きそうで貫かない、あのギリギリ加減・・・。しかも!苦しいそうに呻いているのにも関わらず、整備が終わるまで手を休めることなく・・・。千切れるかと思うまで止めてくれないという、扱いの悪さをこの身でもう1度感じてみたいです・・・ハァハァ・・・)」
 本体を整備されている感覚を思い出し、ミゼはその椅子になりたいと頭の中で妄想し始めた。
「充電が切れそうだな・・・。おい、バッテリーよこせ」
「―・・・ぇ、はいっ。あぁっ!」
 妄想ワールドから戻ってきたミゼがつぐむに渡そうとすると、うっかりコトンッと床に落としてしまった。
「モセダロァ・・・。まともにバッテリーすら渡せないのか?その何も出来ない手で、外の草むしりでもしていたらどうだ?それしか用途ないだろ。いるだけならフジツボのほうがまだマシだな、腹を満たすくらいの役に立つしな」
 ちょっと落としただけなのに、根をはられたら厄介なフジツボと比べて罵る。
「床に傷でもつけて余計な仕事を増やすだけじゃなく、そこにアダマンタイトを使うことになったら皆の前で、この役に立たない手をどうかフナ虫取りにでも使ってやってくださいとか言わせるぞ?」
「どうぞご遠慮なく引きずり出して、ハァ・・・ワタシを皆の前で跪かせて・・・ハァハァ・・・」
 普通の神経の人なら泣いてしまうか、怒って殴りかかる言葉に対してミゼは、大勢の前で屈辱的な思いを快感に変え、この身に受けてみたいとさえ思ってしまった。
 修理場へガランが戻ると、何やら1両車から騒ぎ声が聞こえてきた。
 嫌な予感がし、ドアからそっと中を覗き込むと・・・。
 罵声を浴びせられ床にごろごろと悶えているミゼと、その彼女を見下ろし心臓を刺して抉るような言葉を吐くつぐむの姿がある。
「いったいどうしたらあのような状況になるというのだ?」
「ドゥロスト、遅いじゃないか!さっさとアダマンタイト持って来いよ」
「ぬぅ、すまん・・・」
「俺に渡してどうする?騎沙良に渡せ!」
「溶かしてもらわねばないからな・・・」
「りょ〜かいしました☆」
 詩穂は受け取ったアダマンタイトをコロンと炉の中に入れ、自分が罵声対象になってないからというのもあるが、今の空気に気分を害する様子もなく、ファイアストームの気で金属を溶かしてやる。
「100万度オーバーですね、あっつあつの危険です☆」
「実際のところ、何度で溶けてるか不明ですけどね」
 遙遠は取っ手からブリザードの凍てつく冷気を送り込み、時折炉の中を揺らして冷やす。
「不思議ですね。魔法を発動させても吹雪で外部から冷やすというわけでもなく、炉にセットしたスキルの力が送り込まれているなんて。どういう仕組みなんでしょうね?」
「あはは、すでに科学だけの領域を超えていますよね☆」
「確かに、魔法やその知識なしでは出来ないことですし。あっ、冷却終わりましたよ」
 溶けたアダマンタイトをとろりとコテに乗せつぐむに渡した。
「まだ天井の修復が終わらないな・・・。外した椅子とかを外のシートに置いてこいよ、ドゥロスト。まったく気の利かないヤツだ」
「―・・・すまん」
 またもやなぜか謝り、ガランは文句1つ言わずにつぐむの命令通りに動く。



「運転車両の中からハイテンションな声が聞こえてるねぇ。なんか楽しそうだからそっち行こうかな?」
 佐々良 縁(ささら・よすが)がそこへ行こうとすると・・・。
「1両目の方がカオスだけど、そっちはスルーなの?」
「えぇ〜、何か怖い声が聞こえるからなぁー。実際に手伝うのは私じゃないんだよ?」
「私を見捨てる気ですかぁ〜!?」
 怖い目に遭っても知らないよ、と縁に言われた天達 優雨(あまたつ・ゆう)は迷ってしまう。
「別にそうは言ってないけど・・・」
「縁さん、人が偏ってしまっては、終わるものも終わらないんですよぉ〜?」
「分かったよ〜。ふぅ・・・」
 荷物を運んでやりながらとぼとぼと歩く。
「ねぇ、2両目の方がよくない?」
「少し手伝ったら行きましょう〜」
「結局1両目からなんだねぇ・・・」
 修理となるとさすがに拒否権がなく、優雨の雑用がかりとして手伝う。
「平面図をください〜」
「ひゃ〜、いっぱいあってわかりづらいねぇ」
「まだですかぁ?」
「あぁもう、待って。今見つけてあげるから」
 上から見た図面っていう感じなのはわかるが、それが何枚もあるからどれが必要なのか分からず慌てる。
「それっぽいのがあれば、全部私にください」
「私が見てもさっぱりなんだよねぇ」
「50分の1の縮尺だとちょうどいいですぅ〜。さてさて〜、壁はアダマンタイトでの修復が終わってるようですしぃ。天井からお手伝いしましょう〜」
 縁から受け取ると優雨はそれをバサッと広げて見る。
「明かりがないから真っ暗ですぅ・・・。縁さん、ライトを!」
「ほぁ〜。ちょこちょこ傷があるのかなぁ?」
 脚立を支えてやりながら、天井にライトを向ける。
「中はそれほど酷くないんですねぇ」
「優雨さんに渡してください。で、絶対に落としたりしないでくださいね」
 冷却済みの炉の中に残っている青色の金属を、遙遠はコテに乗せてやり縁に持ち手の方を持たせる。
「もったいなーいお化けが出ちゃうし。周りの視線が怖いからねぇ」
「貴重な金属ですし、それもありますが。火傷したら大変ですから。治してくれそうな人もいますけど、怪我しないように気をつけてくださいよ」
「はーい。だってさ、優雨さん聞いてた?」
「すでにかなりの熱気が伝わってきてますから、分かりますよぉ〜」
 恐々と取ってを摘み、天井にムラなく塗りつける。
「ん〜っ。ずっと同じような体勢してると、肩がこりこりになってしまいますぅ」
 天井の修復が終わり、脚立から降りた彼女は自分の手で肩を軽くマッサージし、腰をひねる運動をして身体をほぐす。
「次は床でしょうか?つぐむさんは屋根の方にいってしまいましたしぃ〜」
 ライトで地面を照らしてもらいながら、傷やへこんでいる箇所を探す。
「手でも撫でてみるといいかもね?」
「そうですねぇ〜」
「すみませんが、ヨウエンたちは少し休ませてもらいますね。いつの間にかいない・・・明日香さんとか、今休憩中のエースさんやメシエさんがきてくれると思いますよ」
「はーい、お疲れ様ですぅ〜」
 遙遠たちと入れ替わりにエースとメシエ、美羽が戻ってきた。
「今、どんな感じで進めてるの?」
「床の修繕を、運転車両に渡る方へ進めていますよぉ〜。ちょうど私がいるところまで終わった感じですぅ〜」
「集中してると塗ったところを触っちゃうかもね。ドアの修繕でも担当しようかしら」
「一度、外さないと無理ですよぉ?」
「くぅうう〜、重すぎるっ。はぁ・・・無理みたい」
「うわ、それがあったか。屋根がまだ途中だけど、ドアもやらなきゃな」
 つぐむは美羽とドアを持ち上げて外し、1両目のほかの場所と2両目のドアも外しにかかる。



「だいぶ修繕が進んでいるようね」
「えぇ、どんな感じになるんでしょうか」
 妻と視察に来た陽太は着々と作業が進められている様子を見る。
「エリシアとノーンは、作業に集中していますから。あまり声をかけてはいけませんね」
 邪魔になってはいけないと思い、彼は遠くから2人を見守ることにした。
「ノーン、わたくしたちはドアの修繕をやりますわよ」
「うん、エリシアおねーちゃん!」
「とても熱いから、持ち手の先に手を近づけないでね」
「たいねつ服着ていても、じわーっと暑くなるね、エースちゃん」
 アダマンタイトの熱さに加え、日が昇りきった気温の暑さまで感じる。
「おっきードアだね。何人くらい通れるのかな?」
「大人が3人並んだくらいの幅ですわね。それにしてもこの修理だけで、1日かかってしまいそうですわ」
 ゼリー状の柔らかさほどに溶けたアダマンタイトを、へっこんでる部分に塗り平らな形に直す。
 それでも何人かの作業員が明け方から作業を始めたおかげで、エンジンなどの部分がすでに修復済みだ。
 天井や壁もキレイに直されている。
「少し睡眠をとらないと、疲れがたまってしまいますわ」
 ドアまで直すのに結局、休みながらとっぷりと夜中までかかってしまった。
「ノーン、ヴァイシャリーの別邸に帰りますわよ」
「皆とシートの上でころんと眠るのもいいと思うの。むにゃむにゃ」
 昼間の暑さを忘れそうな夜中の涼しい風のかげで、ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)はすぐに眠たくなり、シートの上ですやすやと眠った。