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我々は猫である!

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第二章 宴楽

 空京の街は大通り。そこには騒ぎという騒ぎは少なかった。
 極一部の、限られた地域を除けば、だが。
「ニャッハー! 左舷に行くぞオラー」
 デパートなどを多く配置した歓楽街を抜けた先にある、平常時には多くの人が集まる交差点にて、ハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)とは封鎖を行っている兵たちを相手取っていた。
 封鎖されているのは交差点東と北二方向。
 南北に走る大通り一直線と、それを横切る東西の道の片側だ。
「どんどん行くよー!」
 天津 亜衣(あまつ・あい)も彼に協力して、封鎖兵たちに噛みつきを繰り返す。
 しかし体長程の盾を構え、頑丈な兵服で陣形を組む兵たちは中々崩れず、むしろ押し返されていく。
「く、東だにゃ! 東に路線変更にゃ」
「俺も行くぞー。そっちの方が楽しそうだ」
 カイナ・スマンハク(かいな・すまんはく)も猫人の集団に加わり、兵たちに打撃を与えていく。それでも尚、兵たちの守護は強固だった。
「さ、流石は精鋭だにゃ。けど、ウチの戦力がこれだけと思ったら大きな間違えにゃ!」
 彼が大声を上げると、多勢の猫を引き連れてクロ・ト・シロ(くろと・しろ)が現れる。
「けけ、集団とか作戦とか興味ねえけど、都合いいから利用させて貰うぜえww」
 笑う彼は引いて来た猫の集団に言葉を飛ばし、
「ほら行け皆。今こそ猫の地位向上チャンスなんだ。適度に適当に噛みついて猫人にしちまえ」
 すると言葉通り、適度な数の猫が封鎖兵に向かい、そして柄をチェックされ、捕らえられ、若しくは端っこに追いやられていた。
 残り、という名の大半の猫は、集団逃走を図って交差点から離れようとしている。
「おいおいおいおいおいおいおい、適度にっつったけど、捕まってどうするよお前ら」
 それでもなおクロ・ト・シロは笑う。
「おーい、警備兵さんよー。噛みつかれて変な菌に感染しても知らねえぜえ?」
 彼の言葉を聞き、僅かに兵の動きが鈍くなる。正確に言うと、腰が引けている。
「けっけけ、そんな厳重な装備しておいてビビってたら世話ねえぜ」
 クロ・ト・シロは煽っては兵たちの挙動を見て心底楽しそうに嘲笑う。
 そんな時だった。
「金のなる木はここかあ――!」
 大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)フランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)を伴って猫の集団に突っ込んで来た。


「もうちょっと落ち着いたらどうです? 噛まれておじゃんになっても知りませんよ?」
「何を言うとるんや。すぐそこに賞金があるんやで? 折角市内のカメラハックして猫のいる場所突き止めたのに、金が入らんかったら骨折り損どころじゃすまんやないか!」
 握り拳を震わせ熱弁する大久保だが、その耳を引っ張りならがフランツは声を大にして、
「なにを力強く犯罪行為口にしてんですか! 一応封鎖兵の前なんですから気を付けて下さい!!」
「……君も十分声デカイやないか」
 お互いにお互いをいさめ合い、うん、控え目に行こう、と頷いた彼らは改めて猫の集団に目を見張る。
「確か……灰色の猫やったな?」
「ええ、というか、あそこに居ますね」
 フランツが指を刺すのは交差点から逃げようとしている猫集団の一番奥。
 そこには周囲の野良猫とは明らかに違う毛並みを持つ、首輪付きの猫がいた。首輪にビーニャと彫られている所まで確認出来る。
「よっしゃ、ならさっさと行くで――!」
 フランツと同じく視認した大久保は猫の元へ向かおうとする。だがそれより先を行く影があった。
「見つけたぞ、猫!」
 気合と共に道を爆走するエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)だ。
「金欠故に、本気で捕獲させて貰う!」
 猫に対して真面目な宣誓をしながら、土煙を上げて猫を追っている。
「まずっ、早く追わな!」
 と、大久保はフランツと駆け出そうとした。が、
「先にはいかせない…………にゃ」
 近場にいた天津が、進路妨害に来たのだ。
 ただ、先程チラリと見た顔とは打って変わって、顔には意志が感じられない。眼も心なしかうつろだ。
「んー、なんやろか? 猫を護るような精神操作でもされとるんやろうか」
 でもまあ、と大久保は一息つきながら懐を弄り、
「これで気は逸れるやろ」
 ボール状のものを天津の至近へ放り投げた。すると、
「………………」
 彼女の視線がそのボール状のモノに固定された。彼女だけではない。付近に居た猫全ての視点がそこに集まった。
「やっぱ猫にはまたたびやなー。ほな、これで」
 最早止められることなく大久保はビーニャを追う。
 そしてまたたびに集中してしまった大多数の猫と猫人たちは纏めて保健所に贈られる羽目になった。