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我々は猫である!

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我々は猫である! 我々は猫である!

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 空京封鎖数時間前。
 空港のターミナルでは、一部に異様な雰囲気を持つスーツ姿の集団が居座っていた。
 貨物の受取所でのことだ。
 異様と言っても異質ではなく、平常時と少しばかり毛色が違うくらいの違和しかない。
 よって一般客は皆、動じることなく自分の荷物を受け取り、その場を後にしていく。
 客が少なくなったころにその集団も二つのアタッシェケースを取った。その中の一つは集団の中の麻木 優(あさぎ・ゆう)に渡される。
「さて、では行きましょう」
 彼が声をかけると集団も動きだす。歩みとしては速めで、文字通り足早に空港から離れようとしていた。
 だが、その動きはジープ・ケネス(じーぷ・けねす)が立ち塞がったことによって阻まれる。
「待って頂けるかな麻木助教授。こんな時間にそんな物を持って何処に行こうというのかね?」
 麻木は口を開こうとするが、ジープはそれを手のひらを差し出し、言わなくていいとのジェスチャーを表し、
「そう、言わなくていいのだよ麻木助教授。私に黙ってこんな所に居る時点で最早確定しているのだから」
 彼は毒虫の群れを手元で準備しつつ、
「残念だよ麻木助教授。私達を裏切るとは、ね」
 ジープの言葉を聞き、麻木は遂に静止を振りはらって声を発する。
「う、うるさい。これはワタシのものだ。ワタシだけが所有できるワタシだけのものなんだ」
「……最早何を言っても無駄なのだよ。裏切りにはそれ相応の対処をしなければならない。――まずはそのケースの中身を頂こうか」 言うが早いか、ジープは毒虫の群れを放ちスーツ姿の集団を動作不能にし麻木の元へ走る。
 麻木も咄嗟に逃げようとするが遅い。ジープはケースの取っ手を握り、
「力づくでも奪わせて貰うよ」
「さ、させるか!」
 麻木との力勝負にもつれ込む。
 それは直ぐに終わる話だった。体格と技術錬度から力の差は歴然だったのだから。
 ただ、ここで二つの予期せぬ事、そして一つの見過ごしが起きた。
 予期せぬ事の一つは、長旅によりアタッシェケースのロックが甘くなっていたこと、そしてもう一つはケース内の小瓶が一つ落下し、蓋が空いたこと。
 更に一つの見過ごしとは、ジープが力づくでケースを奪った後、
「……何故こんな所に小女子? 麻木助教授の朝食なのか――って、あ」
 落ちた小女子をむさぼり食らう猫を見逃したことだ。
 小さな瓶だ。入っていた量はそう多くない。
 数秒で食べ尽くした猫は飼い主であろう少女の下に走っていく。
「何処に行ってたのビーニャ……って、あ――! 拾い食いしたでしょビーニャ! 誤魔化しても駄目なんだからね。口の周りに証拠が付いてるんだから!」
 少女は猫を叱りつけながら、流れて来る荷物を取っていく。
 騒がしいことだ。さっさとここから出よう、とジープは肩をすくめていると、不意に麻木の姿が目に入った。
 無理やり奪い取った際に突き倒したためへたり込み状態であるが、それよりも今気になるのは、
「どうした麻木助教授。もうキミに用はないぞ。呆然としていないでさっさと失せたまえ」
 話し掛けても、ケースを奪い返しに来ようとしてこないことだ。
 あれ程執着していた割に諦めが良すぎる。その思いを抱くと同時、眼下の麻木が震える声を発した。
「あ、あの小女子に親ウイルスが入っていたのに……畜生に食われてしまった…………」
「は?」
「う、奪われる危険性を考え、偽装していたというのに……」
 項垂れる麻木と、この事態の把握に時間をかけているジープは、次の瞬間同時に、同じ言葉を放った。
「「あ、あの猫を捕まえろ――――――!」」
 そしてジープも麻木も、研究者の集団も動きだす。ビーニャと呼称される猫の捕獲に。
 発せられた怒号に驚いたビーニャは一目散に逃げる。飼い主も研究者たちも置き去りにして。