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駄菓子大食い大会開催

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駄菓子大食い大会開催

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 駄菓子大食い大会本部。

 空き教室に張り紙をしただけのものだが、申し込みをする生徒がポツポツと姿を現した。

 その中でも一番乗りを果たしたのがカイナ・スマンハク(かいな・すまんはく)だ。
「本当にタダなんだよな?」
 飛び込んでくると同時に、受け付けをしていたシオン・グラード(しおん・ぐらーど)に質問をぶつける。
「は? その通りです」
「どれだけ食ってもいいんだよな?」
「ええ、まぁ。制限時間はありますが」
「お前っていいやつだな」
 いきなり“いいやつ”と言われたシオンは、笑いをかみ殺して「ありがとうございます」と答えた。
 カイナは受け付けを済ませると、意気揚々と教室を出る。
「ああやって楽しんでくれるのを見ると、運営に携わってて良かったなーって思うのよね」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)の言葉に、シオンも納得する。
「次は……蒼空学園のシニィ・ファブレ(しにぃ・ふぁぶれ)……っと」
 他の運営担当と共に山葉涼司(やまは・りょうじ)も、当番を決めて受け付けを担当していた。
「うむ、吸血鬼の代表として、ここは一番貫禄を示しておこうと思ったのじゃ。ほっほっほ!」
 高笑いする顔を、涼司が見つめる。
「えっと……羽瀬川 まゆり(はせがわ・まゆり)さん……だよな」
 言い当てられたまゆりは『バレたか』と頭をかく。
「やっぱり分かっちゃったか。私くらいアイドルになると、顔が売れちゃって、どうしようもないわねー」
「いや、これまでに何度も企画を持ち込んできてただろ。焼きそばパンに……B級グルメも」
「それもそうでした。やっぱり本人じゃないとダメですか?」
 少し前、まゆりの大胆な映像シーンがDVD化されて出回った。これはパートナーであるシニィの発案と実行であったが、知らされないままにシニィの酒代稼ぎに使われたまゆりは、こっそりと復讐の機会を狙っていた。とりあえずシニィを大会に出させれば、なんらかの醜態を晒すだろうと考えてのことだ。
「まぁ、受け付けるだけなら構わないぜ。多少人数が変わっても、大丈夫なようには対応してるから」
「それは良かった。じゃあ、お願いします」
 丁寧に頭を下げた後、身を乗り出した。
「今回も実況放送はいるかしら? やっぱり私じゃないとダメかなって思うところもあるんだけど。忙しい身ではあるんだけど、誰にでもできるってことでもないし、どうしてもって言うのなら……」
「いや……」
 涼司の脳裏に3人の顔が浮かぶ。
「何人も司会を申し出てくれた人がいるんで、彼女達に任せてある。大会に集中しててくれて構わないさ」
 意外な返答にまゆりも焦る。
「そ、そう? でもここは手馴れた私がした方がいいんじゃないかしら」
「放送部にも応援は頼んであるから問題ないさ。はい! 次の人、どうぞ!」
 並んでいた生徒に押しのけられたまゆり。

 ── 3人も! えーい、あれもこれもシニィのせいなんだからね 絶対に赤っ恥をかかせてやるんだから! ──

 まゆりは憤慨しつつ大会本部の教室を後にした。
綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)さんと、アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)さん」
 涼司は申込書を受け取る。対照的な表情に一瞬呼吸が止まる。
『焼きそばパン優先券はあたしがいただくわ』と意気込むさゆみに対して、アデリーヌのため息が途切れることはない。
「本当に参加するのですか?」
「もちろんよ、アディ。駄菓子1年分に焼きそばパン優先券よ。しかも無料なんだから」
「そう簡単に優勝できるとは思えませんが」
「それならそれで、参加賞が貰えるよ!」
 楽天的なさゆみに、アデリーヌは苦笑を浮かべつつも従った。
「山葉校長! よろしくね!」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が申込書を出した。もちろんセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)も付き添っている。受け付けを後にするさゆみやアデリーヌを見て「女の子も多いのね」とつぶやいた。
「やっぱりセレアナも出てみる?」
 セレンが誘いかけたが、ゆっくり首を振った。
「私は応援に専念するわ。でもさすがに優勝は難しそう」
 それを聞いた涼司が「パフォーマンス賞やマナー賞なんてのもある。もちろん賞品つき」とアドバイスする。
「パフォーマンス賞か、これはますます面白そうね」
 瞳を輝かせるセレンフィリティに、セレアナは心配を募らせた。
「詳しいルールを知りたいのですけど」
「それならこれをどうぞぉ……」
 尋ねてきた中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)が大会要項を渡した。
「食べるのは3時間なのですね。ただし30分ごとに下位は脱落すると」
「そんなところですねぇ」
「種族などで大きく有利不利がありそうですわ。ボクシングのように体重別で分けたりしませんの?」
 弥十郎は綾瀬の意見にうなずいた。
「運営会議でも、その手の発言はあったんですけどぉ。お祭りだってことで楽しむのが最優先みたいですぅ」
「そぅ……」
 考え込む綾瀬に、まとっていた漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)がささやきかける。
『綾瀬、賞品の中身を聞いてよ。クジつきの菓子がどの程度入っているか』
「あー、賞品の中にはクジつきのものは含まれているのかしら? 参考までにですけれど」
「いろいろ詰め合わせになってるのでー、クジつきのも入ってますよぉ」
 そう聞いた途端にドレスが袖を動かして、綾瀬を参加させようとする。
『早く、ほら、綾瀬』
「分かってるわよ」
「え? 何がですかぁ?」
「気にしないで、こっちの話」
 綾瀬は参加申込書に記入を終えると、早々に本部教室を出る。
「どう食べれば良いのか、少し考慮してみる必要がありそうですね」
「うん、綾瀬、頑張って」
 健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)君城 香奈恵(きみしろ・かなえ)も連れ立って申し込みをすませた。
「最近いいもの食べてないから、お腹いつも空いてるし、これは絶好のチャンスだね!」
「いいものって、うまし棒だぜ」
 張り切る香奈恵に勇刃は心配になる。しかし香奈恵の耳には入っていないようだ。
「よ〜し、張り切っていっぱい食べちゃうぞ〜! 1年分の駄菓子と焼きそばパンのために!」

 ── 妙に張り切ってるな。大丈夫かあいつ? 何があったら時のために、歴戦の立ち回り回復術で備えておくか ──

 次々に申し込む中で、取りやめる生徒もいる。
「うーん、やっぱり観戦する方が良いな!」
 土壇場でニーア・ストライク(にーあ・すとらいく)が言うと、パートナーのクリスタル・カーソン(くりすたる・かーそん)は素直に驚いた。
「面白好きのニーアなら、大会に絶対参加すると思ってたんだけどな」
「どっちも面白そうだけど、観戦する方が良さそうだ。今回はクリスと一緒に観戦することにしたよ。
「まぁ、確かに見てて楽しいよね」
「ああ、参加者がどんな食べ方をするのかが楽しみでしょうがない。俺が出ていたら水に溶かしてのんでたかもな! クリスならどんな食べ方するんだ?」
「え? 私が大会に出てたらどんな食べ方をしてたか? うーん……多分普通にたべてたかなぁ?」


 東條 カガチ(とうじょう・かがち)東條 葵(とうじょう・あおい)はテーブルを挟んで座っている。グラスを傾けつつ、うまし棒を口に運んでいた。ただし飲み食いしているのは葵だけであり、カガチはそれを眺めていた。
「うーむ、バーボンも合うが、やはりウィスキーが一番良さそうだ。しかもアイリッシュモルトとの相性が良いな」
「本気で大食い大会に出るつもりなのかぁ?」
「僕なら優勝も狙えるかもしれないし、最悪でも参加賞は貰える。参加費はかからないんだから、問題ないだろう?」
「参加費はかからないけどさぁ……」
 カガチは葵が持ち込む予定の酒瓶を考える。それこそ優勝でもしない限り足が出そうに思えた。

 ── しっかしマジで幸せそうな顔で食ってんなあ ──

 カガチはちょっと前の昼食を思い出す。2人前を平らげて尚、デザートにビッグパフェをつける。その挙げ句、M○Sバーガーのクーポンがあったとセット食いにいく実力。

 ── あの時はもう金輪際あなたには奢るまいと誓いましたよねぇ ──

 でもこの実力を発揮できれば、優勝も狙えるかもしれないと思いなおすと、カガチは葵への協力を決めた。


「この手の話はよく聞くが、駄菓子1年分ってのは、どういう基準で計算して1年分なんだ?」
 申し込みを済ませたロア・ドゥーエ(ろあ・どぅーえ)レヴィシュタール・グランマイア(れびしゅたーる・ぐらんまいあ)とだべっている。
「ジュースやお酒などの飲料は1日1本。食べ物は1日1個と聞いたことがあるが、駄菓子は……さて?」
 ロアの食欲が増したことで、エンゲル係数がとんでもない事になっている状況を認識しているレヴィシュタールは、なんにしてもいくらかは食費の足しになるだろうと考えている。

 ── 今回の大会も焼け石に水だろうが、とりあえず食費をかけずに満腹になれるのならそれでいい。菓子なら味が濃いから食い過ぎれば食傷ぎみになって、少しは食う気もうせると思う ──

「いっそ、菓子の食い過ぎで腹を壊せ! そして少しは懲りろ!」と叫びたい気分だったが、さすがにそれはためらわれた。
「どうせなら血のしたたる狩りたての肉とかがよかったんだけどな……」
 ロアの唇の端からよだれが垂れる。「おっ」と手の甲でぬぐった。