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古代兵器の作り方

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古代兵器の作り方

リアクション

 突然踵を返してその場を後にした衿栖たちと入れ替わる様にして、矢野 佑一(やの・ゆういち)ミシェル・シェーンバーグ(みしぇる・しぇーんばーぐ)がウォウルたちのもとへとやって来た。
「どうしました、皆さん………!?」
「もう………待ってよ佑一さん! 急に走って行っちゃうから追い付くの大変なんだからね――って、わっ、すごい怪我してる人がいる………」
 二人はウォウルを見るや、言葉を失う。セラエノ断章とルカルカ、ダリルの処置により、随分と回復したウォウルではあるが、しかし全くその状況がわからない佑一、ミシェルにすれば、その光景は『惨憺たるもの』と言い表す以外にない物だ。
「うーん、えっと………人違いでなければ良いんですけど、もしかして、空大のウォウルさん、ですか?」
「………えぇ、そうですよ」
 いつものニヘラ顔に戻っている彼は、笑顔のまま佑一へと返事を返す。
「やっぱり。名前だけは伺っていたのでもしや、と思いまして」
「そう、でしたか。これはどうも」
「一体どうしたんですか? 何やら騒ぎがあって、僕たち逃げようとしてたらこちらから皆さんの声がしたので来てみたんですけど」
「ちょっと休憩――うん? 私が近くにいない間にウォウルさんに包帯が!?」
 周りをずっと警戒していたルイが戻ってきて、そんな言葉を発する。
「お疲れ様。これ、良かったら飲んで」
 リカインは戻ってきたルイに飲み物を手渡した。
「おぉ! 助かりますよ、ありがとう! っと、それで、ウォウルさんのお加減はどうなのです!」
「危ないぞ、このままでは不味い。非常にな」
 ダリルが呟く。その言葉の裏には、ウォウルに対して『いい加減に意地を張るのはよせ』というニュアンスが含まれていたりする。
「何とっ! ならば今すぐにでも病院に向かわなければ!!!」
「いえ、僕は此処にいます。ラナの――あぁ、パートナーの不始末は僕の責任ですから」
「死んじゃったら何にもならいんじゃない?」
 ルカルカとしても、早く病院に連れていきたいらしく、心配そうな表情でウォウルを見やった。
「どうすれば病院、行くんですか?」
 静かに彼等の会話を聞いていた佑一が、ふとウォウルに訊ねる。
「この騒ぎ収まったら、ですかね」
「でも、駄目なんじゃないの? それじゃあ…………」
 恐る恐るウォウルに聞くミシェル。
「皆さんの心配はとても有難いと思っています。ですが、僕にも譲れない物はあるんですよ。皆さんの中にあるように、ねぇ」
「しかしだなぁ…………ふぅ、仕方がない。その代わり、お前が意識を失った時点で強制的に搬送するぞ。それがこちらの最大譲歩だ。良いな」
 ダリルの言葉に対して、ウォウルは返事替わりに苦笑を浮かべるだけだ。と――
「……これはこれは、ウォウル様。随分と慣れた気配を感じ来てみれば………最近はそうやって遊ぶことがブームですの?」
 新たにやって来たのは漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)を纏った中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)。彼女は周囲にいる面々に対して挨拶もそこそこに、ウォウルの顔を覗き込む。
「何をなさっているんです?」
「………………はい?」
 いつもよりも低い声で、綾瀬はウォウルに顔を近付けた。
「ウォウル様」
「………何ですか?」
「何を、なさっているんですの? とお伺いしましたわ」
「何を………とは」
「此処で、この場で、何をなさっているんです? 呼吸音、心拍数――どれを、何一つ取っても、今の貴方様は此処におられる事のそれ自体が間違えていますわ」
 声を失っているのは、何もウォウルだけではない。周りを取り囲む面々も、その勢いに気圧されていた。
「その様な体で無理なさるのは、貴方様の常ではないでしょうに」
「そ、そうですかね………?」
「えぇ、そうですわ」
 そこで漸くウォウルから顔を離した綾瀬は、一同へと向き直る。全員に顔を向け、再びウォウルへと顔を近付けた。先程よりも更に近く。
「皆様が此処まで心配し、貴方様を懸命に看病し、貴方様を守ってるにも関わらず………どうせ、貴方様の我が儘で皆様を困らせておいでなんでしょう?」
 呆然としていた一同の中、今の綾瀬の発言にダリルが何度も頷いた。
「何だか、怖い人が来ましたね………」
 小さな声で佑一が呟き、その様子を唖然としながら見つめるミシェルが首を何度も縦に振った。
「兎も角、貴方様は早々に此処から病院へと向かうべきですわ。後の事は、彼女の事は皆様が何とかしてくださるでしょう。貴方様の役割は、一刻も早くご自身の体を自愛なさる事、それのみですのよ」
「そう、ですが………」
 完全に言い負けたのか、ウォウルはがっくりと肩を落として沈黙した。そうするより他になかった、といった方が、この場合は適切である。そしてその反応に対して、漸く綾瀬は顔を離し、にっこりと笑った。
「懸命なご判断、ですわね」
 ぐったりと項垂れるウォウルは困った顔をしながら、しかし自らのその様子を滑稽に思い笑った。それに倣って、一同も笑う。それが――例え一時だけの泡沫としても。