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君と僕らの野菜戦争

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第四章:お料理教室の時間です


「みなさん。何から何まで本当にありがとうございます」
 コマチは、農園を救うために集まってくれた人たちに深々と頭を下げました。
 携帯で助けを読んだものの、まさかこれだけの人たちが駆けつけてきてくれるとは思っても見なかったのです。
「野菜たちも大人しくなりましたし、一段落つけそうです。ただ……」
 荒れ果てた農園を見つめて、彼女は悲しそうにうなだれます。
 野菜たちの戦いで土壌や施設がめちゃくちゃになってしまった上に、暴れる野菜などという噂が立ってしまって売れそうもありません。
 これからどうやって立て直していけばいいのでしょう。
 前途多難を考えると、どうしても暗くなってしまいます。
「多くの人を呼んで、料理の実演をしましょう。そして皆さんに食べてもらうといいと思うんだけど」
 提案したのは、蒼空学園の歌姫綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)です。
 彼女は、集められた膨大な野菜を見上げながら何を調理したものかと考えているようです。
 これだけの量、早く調理して食べないとすぐに痛んでだめになってしまうでしょう。
 当然一人では食べきれないので大勢で食べるのがいいようです。
 さっそく、料理作り&食べまくり祭りが開催されることになりました。
 参加した人たちだけではなく、ジョージ農園やコマチ農園の近所に住んでいる人たち、そして、野菜を売る市場の人たちまでもが一斉に集まってきます。
 こういう即興に対してもすぐに反応できるモブたちもたいしたものです。
 ところで、向こうの方に止まっているアンテナを伸ばしたバンは何の一味でしょうか。
 サングラスをかけたヒゲの人がじっとこちらを見ています。
 怪しいです。
 とはいえ、人に振舞えるような料理を作れる名人がそんな偶然にいるものでしょうか。
 ……いました。
 祭りが始まる前からテントを張り、すでに下ごしらえまで終わらせているのは、天御柱学院の生徒にして厨房の女神の異名を持つエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)です。
 彼女は、相棒の紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が必死な思いで取ってきたありとあらゆる野菜と調味料、そして機材まで完璧に供えて料理を作るのですが。
「こんなこともあろうかと、すでにテレビクルーを呼んである」
「……はい?」
 とコマチは目を丸くします。
 エクスは、ローカルで料理番組まで受け持っておりそのコネでTV局の人たちを連れてきたのです。
 さあ、大変なことになりました。
 一農園で起こった出来事が、あっという間に電波に乗り全国ネットです。
 向こうに止まっていたバンのヒゲの人がコマチたちに近寄ってきます。
「始めまして、TV局の者です。今回の撮影に協力させていただきます」
 ヒゲの人はプロデューサーだったようです。
 エクスと挨拶を交わしてから、カメラを回し始めました。
「みなさん、こんにちは。エクスの料理教室の時間です。本日は、ジョージ農園とコマチ農園にやって来ています」
「すごいですね、この食材」
「そうなんです、取れたてなんですよ。新鮮で美味しい、野菜ならここにたくさんあります。……では、早速始めてみたいと思いますね」
 エクスが次々と料理を作っていく中、カメラは他のメンバーたちも写し始めます。
「あ、あの、え、ええええええっっ!?」
 コマチは目を白黒させてオロオロしています。
「なんか大変なことになってきましたわね」
 さゆみの手伝いをしながら、アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)は少々面食らいながらも楽しそうに微笑みます。
 隣を覗き込んでみると、さゆみの作っているのはてんぷらのようです。
 取れたて新鮮野菜で見ているだけで美味そうです。
「出来立てのてんぷらいかがですか? 美味しいですよ」
 その声と匂いにつられて、たちまちにしてさゆみたちの周りには人だかりが出来ました。
「あ、あの。全員分あるから、押さないでね」
 さゆみのてんぷらはあっという間に売切れてしまいました。
 やってきた客ってばまるでハイエナです。テンカスまでしゃぶり始める始末。
 それくらい味わってもらえたのでしょう。
「あなた結構料理の才能あるのかも……」
 なんだか羨ましそうにさゆみを見つめるアデリーヌの表情が印象的でありました。


 料理にかける熱意ならこっちも負けていません。
 未熟ながら野菜の調理に奮闘しているのはイルミンスール魔法学校の奏輝 優奈(かなて・ゆうな)です。
 魔法使いらしく炎魔法を使ってじゃんじゃん炒めます。もう、焼きまくりです。
 野菜炒めなどは肉が欲しいところですが、そんなものは妄想で補えるでしょう、ええきっと。
「いや、違うだろ。その野菜はこの調味料を使うんだ。貸してやるからもう一回やってみな」
 優奈に料理を手ほどきしてくれるのは、偶然隣り合わせになった涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)です。
 彼は、かなりの手練れらしく、ラタトゥイユ(フランス風野菜のごった煮)を作るようです。
 手際よく調理を進めていきます。
「わあ、めっちゃ濃い調味料やん。これどこで買うたん?」
 興味津々の優奈に、涼介はいやな顔一つせずに教えてくれます。
「おおきに。後で返すから」
「いいって」
 軽く返答してから涼介は、何か思いついたように優奈の顔を見つめます。
「もしかして、あんたアレか? 『火ィ貸してぇな』『ええで、その代わり今使った火、そっくりそのまま返せよ』『んなアホな』……とかライターでやっちゃうタイプか、もしかして?」
「んなアホな」
「……いや、すまん。関西弁を聞いたもんでつい突っ込んでしまったぜ」
「ええギャグもってるやん。関西に引越ししておいで」
「いや、パラミタに関西はないだろ」
「ほら、突っ込んだ。素質あるんとちゃう?」
 優奈はくすくすと楽しそうに笑います。
 料理は残念な感じですが、こんな交流があるのなら満足です。
「わぁ、凄い勢いで人きたー!」
 調理の手伝いをしていたレン・リベルリア(れん・りべるりあ)がうれしい悲鳴を上げます。
 実際味わってみると、素材を殺してしまっているような気がするのですが、客にとってはそんなこと関係ないようです。
 とにかくバクバク食べてくれます。どれだけ飢えていたのでしょうか?
「あ、あの、あわわ、もっと作ってくれって、どうしましょうか?」
「作るしかないやん。ひぃひぃ言わしたるで」
「いやあの、ひぃひぃって……」
 そんなこんなであちらこちらに人だかりが出来ます。
「よし、こっちも出来た」
 涼介は渾身のラタトゥイユを振舞います。
「みなさん、美味しく食べてくださいね。それが、戦で死んでいった野菜たちへのせめてもの供養なんだから」
 食べ客が集まってくる中、ふと気になって顔を上げます。
 そういえば、雪だるま王国の人たちはどうしたんだろう。ボーナスが出るとか言ってたけど……?