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君と僕らの野菜戦争

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君と僕らの野菜戦争
君と僕らの野菜戦争 君と僕らの野菜戦争

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 淳二やルーシェリアたちの活躍のおかげで農園へと続く道が通りやすくなり、野菜狩りの面々は農園の中心部に入っていきやすくなりました。
 それぞれが思惑を抱き敵を定め準備を整え、続々と農園に入っていきます。
 ところが、彼らが到着するころには、両農園は大変なことになっていました。
 とにかく数が多すぎて収集がつかなくなってきているのです。
 早く何とかしなければなりません。
「……っ!」
 そんな中、蒼空学園からやってきた強化人間の高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)は、早くも涙目になっていました。
 彼女の主である博士から、ジョージ農園に向かいナスのウェリントン公マーボー・ウェルズリーを討つように命じられたことが苦痛だったわけではありません。
 ハウスに向かう途中、突然大量のモンスターの襲撃を受けたのです。
「も゛けけけけけけ……っ!」
「これは、まずいです。甘く見ていたつもりはありません、けど……」
 戦闘能力的には楽に勝てる敵に押し捲られ、彼女は涙をぽろぽろと流し続けます。
「まさか、タマネギが……!」
 これは強烈です。
 一つ皮をむくだけで目にしみるタマネギが、自ら皮をむしりながらエキスを飛ばしてくるのです。
 強化人間とはいえ、この辺は一般人と同じ反応です。
 視界を奪われたところを、タマネギたちはすかさず次々と突撃してきます。
 べちゃべちゃぬちゃぐちゃ……。
 タマネギの残骸とぬっとりとした液体に包まれて、咲耶はイヤな感じに濡れ濡れになってしまいました。
「あ、あうううっっ、このままだと私……たいへんなことに……」
 と……。
「ふむ、準備運動も終わったことだし、そろそろ収穫祭へと移ろうか。おや……?」
 助けてくれそうな男性が現れました。
「あ……、はかせ……」
 咲耶は涙でにじんでよく見えない視界で、助けを呼びました。彼女の主人が心配のあまり駆けつけてきてくれたのでしょうか?
「言っていることがよくわからん。全身でタマネギを浴びるほど好きなのはわかったかが、ほどほどにしておいたほうがいい」
 彼は、イルミンスール魔法学校の犬養 進一(いぬかい・しんいち)でした。
 知的な黒髪の青年で、黒縁メガネを指で押し上げるしぐさなど似ていますが、もちろん咲耶が呼んだ博士とは違います。
 そんな彼女はさておき、進一はひとしきり農場を見回し、敵を分析します。
 見たところ、ありとあらゆる野菜がひしめいているようです。
 タマネギモンスターたちは、進一の姿を見るなり去っていきましたが、その代わりジャガイモがぼこぼこと姿を現します。
「も゛いも゛いも゛いも゛い……」
 奴らは、自分で土を掘り起こして蔦ごと襲いかかってきました。
 当然、そんな攻撃を食らう進一ではありません。さっと身をかわし、ヒロイックアサルトと火術でまとめて焼き払います。
 すると、ジュウウウッッ! ととってもいいにおいが漂ってきましたよ。
「おお、これは美味そうだ。身がプリプリに詰まっているじゃないか」
 進一は、やけどに気をつけながらほっかほかになったジャガイモを拾い上げ、用意してあった紙皿の上に載せます。
 割り箸でジャガイモを裂き、バターを乗せると出来上がり。
 立ち食いですが、たまにはこんなのもいいでしょう。ピクニック気分です。
「ほふほふ……うん、この食感は男爵イモか。美味いな。わざわざ遠くから来た甲斐があった」
 美味しいものを食べると、人間は自然と優しい心が芽生えてくるものです。
 さっきのタマネギ娘が気になって探しますが、もうどこかへ行ってしまったようです。
「……まあ、いいか」
「よくないぞ。余が働いておるというのに、そなた何を一人でほくほくしておる」
 トウモロコシ借りをしていたトゥトゥ・アンクアメン(とぅとぅ・あんくあめん)が、こちらにやってきました。
 上手く取れなかったのか、戦利品を手にしていません。
「どうした? ジャガバター欲しいのか?」
「そうではない、ピーマンが!」
「ピーマンだからといって、好き嫌いをしてはいけない。トゥトゥも、トウモロコシやサツマイモばっかりと戦ってないでピーマンとかニンジンとも戦うといい」
「だから、ピーマンが」
 やってきました、たくさん。
「ジャガイモとピーマンを油で炒めても結構いける。素材もよさそうだし、楽しみだな」
「……え? 余が戦うのか?」
 全くその場から動く気配のない進一に、トゥトゥは目を丸くします。
「食べる分だけ取るように。無駄な殺生はしないほうがいい」
「そなた、ここに何をしにきたのだ!?」
 言いつつも、トゥトゥは的確に敵を倒していきます。
 戦いは程なく終わり、残りのピーマンモンスターは逃げ去っていったのですが。
「……さて、次はおひたしでも食べに行くか」
 ジャガバターを満喫した進一は身を翻します。
「そなた、本当になにをしにきたのだ!?」
 食べるもまたよし。
 それも農園のいいところであります。