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取り憑かれしモノを救え―調査の章―

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●結界の発動

「俺が、引き付ける! お前たちは早くここから離れるんだ!」
 一人の男――ガレイ・ニールは無造作に歩み寄ってくる少女――ミルファ・リゼリィと相対していた。
 神経の網をいたるところに張り巡らせ、じりじりとガレイは誘導する。
 目の前に広がる風景は地獄絵図さながらだ。
 ただの一振り、たったそれだけで家屋が、草木が、舗装された道が壊れていく。
「ふふ、やっぱり無機物は脆いね」
 安堵するべきは、戦意を持たぬ住民が被害にあっていないことだろう。
 腰が抜け逃げようにも逃げられず、ただただ震えている住民には一瞥をくれるだけで、歩き去っている。
 ただ、敵意がありながらも、戦う術を持たない住人には容赦が無かった。
「ひ、ヒィ……!」
 浮かぶ笑みに狂気の色。体を乗っ取られたミルファは、ただただ剣の怨念に突き動かされる破壊の道具に成り下がっていた。
「早くこっちに!」
 秦野萌黄(はだの・もえぎ)が[銃型HC]の地図を見ながら避難誘導をしている。
 速やかに、住人の安全を気遣いながら、萌黄は声を張り上げる。
 そんな中、ミルファの行動を見ると奇妙な点がいくつか浮かぶ。
 なぜ無抵抗な住民を殺害しないのか。なぜ敵意を向け向かってくる住人を切り伏せずに昏倒させるに留まらせているのか。なぜ相対しているガレイの長剣だけを執拗に狙っているのか。見ているだけでは答えは見つからなかった。
 そして、ガレイとミルファの打ち合いは呆気なく決着がついた。
「くっ……」
 長剣を取り落としたガレイは膝をついた。
 息の乱れを隠そうともせずに、ミルファを睨みつけている。
「だ、大丈夫!?」
 駆け寄ろうとする萌黄にガレイは手で制す。
「いいから、君も早く逃げろ……」
 近寄るな。近寄れば君も自分と同じ目に合うぞ、と暗に言っていた。
「もういいかな? うん、『ボク』の準備運動には丁度よかったかもね。くすっ」
 無邪気に笑うミルファ。その笑みを見て萌黄は怖気が収まらなくなった。
 しかし、ミルファはガレイたちを壊れてしまった玩具を見るような目で一瞥すると、ゆらゆらと歩き去ってしまった。
 よく分からず事件に巻き込まれ、自分にできること……住人の避難や怪我人の手当てをしようと思っていた。
 封印だの、結界だの、萌黄にはいまいち分からないことばかりだった。
 好奇心で封印強化の儀式を見に来たのだが、こんなことに巻き込まれた。
 それでも悪態一つ吐かずに結城奈津(ゆうき・なつ)はミルファを止めることを選んだ。
「モエ、住人とそこのおじさん連れて早く逃げて」
「な、なっちゃん……」
「足止めはあたしたちがやる。大丈夫絶対戻ってくるから」
 気合十分と奈津は言う。
「いや……もう時間が無い、ちょっとそれを貸してくれ」
 ガレイは萌黄の持つ[銃型HC]を指して言った。
 萌黄は頷くとガレイに手渡す。ガレイは何か操作をすると、村周辺の地図が大幅に書き換わった。
 [銃型HC]を中心とした点は既に円形の範囲の中に入っていた。
「これが、結界の範囲だ。もう俺たちは結界の範囲内ということだ……」
 そんなガレイの言葉と共に村の中央辺りから赤色の信号弾が打ちあがる。
「時間切れか……結界が起動する。恐らく起動すればこの結界から抜け出すことは不可能だ。すまない、こんな村の事件に巻き込んでしまって」
 ガレイは乾いた笑いを零しながら、すまなそうに言った。
「この結界の中心点付近で足止めしていればいいんだね?」
「ああ、他の奴らに伝えてくれ」
「わかった、あたしたちに任せといてよ! ぱぱっと解決して帰ってくるからさ!」
 胸を張って奈津はミルファの後を追っていく。