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リアクション
空京市内は魔女の噂で持ちきりだった。
天鐘咲夜(あまがね・さきや)は急に眠気を覚えて、その場に倒れこむ。
「おい、どうしたんだ咲夜!?」
と、慌てて彼女を支える健闘勇刃(けんとう・ゆうじん)。
「咲夜? おーい」
声をかけても返事はなかった。どうやら眠っているらしいと気づいた勇刃は、とりあえず彼女を抱き上げた。
それから落ち着けるところへ移動して、彼女をそっと横にする。
その頃には、咲夜の眠ってしまった原因も耳に入ってきていた。
「魔女のしわざか……しかも、眠り姫……」
まさしくそのとおりだと思う勇刃。無防備に寝息を立てる咲夜は今までになく愛らしく見え、自然と勇刃の胸をときめかせる。
どうしたらいいだろうかと無駄に悩む。簡単な話だが、彼女の寝顔は反則だ。
「何かお困りのようですね、ご主人様!」
と、急に現れた紅守友見(くれす・ともみ)に勇刃はびくっとした。
「うわ、いつの間にっ?」
「細かいことは気にしないのです。さあ、ご主人様、私に任せてください!」
「え、任せるって?」
「眠り姫にはそれらしい服装をしていただいて、雰囲気を盛り上げましょう!」
と、友見はどこからかドレスを取り出した。いかにもお姫様なドレスである。
「というわけですので、少々お待ちくださいね!」
友見に外へ押し出され、勇刃はしばらく待つことになった。
そして十数分後――。
「ご主人様、お待たせしました!」
着替えさせられた咲夜は、まさしく「眠り姫」に変わっていた。
「さあ、遠慮なくキスしちゃってくださいね!」
と、言われて気を引き締める勇刃。そう、咲夜を目覚めさせるにはキスをしなければいけないのだ。
勇刃が咲夜のそばへ立つと、気づいた友見がそそくさとその場を立ち去っていった。
「あ……すみません、失礼いたしました!」
二人の邪魔をしてはいけないと思ったのだ。確かに友見に見られているのは嫌だった勇刃だが、それにしても……。
「いつにも増してはしゃいでるな、今日の友見。どうしたんだ?」
突然現れたかと思ったら、あっという間に去ってしまった。何だかおかしな奴だ。
勇刃は頭を切り替えると、今度こそ咲夜へキスをした。
咲夜は綺麗なお城の中にいた。広くて美しい大広間を抜けた先に、想い人の姿を見つけて駆け寄る。
「健闘くん!」
と、隣へ立つと、彼は咲夜を見つめた。
「あ、あの……ひとつ、頼みがあるんです」
ドキドキしながら咲夜がその頼みごとを言おうとすると、突然唇に何かの触れる感触がした。
「起きたか、咲夜」
「あ、はい……って、ここは? このドレスは?」
状況を理解できず困惑する咲夜に勇刃は答えた。
「友見が来て、着替えさせてくれたんだよ。眠り姫ならそれらしい格好を、って」
「眠り姫……ってことは、健闘くんが起こしてくれたんですか?」
照れたように彼がはにかむ。
「ああ」
「……あ、ありがとうございますっ」
と、咲夜も照れ笑いを浮かべた。
「うーん、そのままでも大丈夫そうな人たちもチラホラ……」
と、高峰雫澄(たかみね・なすみ)は呟いた。
急に周りの人たちが倒れていくのを目にしたのだが、どうやらそれが魔女の犯行らしいと知っての発言だった。ネットの掲示板による情報はすでに周囲にも流れており、カップルたちは次々に口付けをしている。
「い、いやっ! 冬だし! こんな寒い中寝てたら、さすがに危険だしね!」
と、声を上げる雫澄を見て、魂魄合成計画被験体 第玖号(きめらどーる・なんばーないん)・通称ナインは言った。
「雫澄がそう言うのならば、私は事件の解決に全力を尽くすまでです」
すでに開いていた掲示板を更新し、ぴこぴことコメント欄に書き込みを始めるナイン。
「まぁ、愉快犯であることは確実でしょうし、すぐに捕まってくれるでしょう」
「え、そうなの?」
「分かりやすいヒントまで出しているんですよ? 逆に『捕まらない気がない』としか思えませんよ」
それでもやっぱり、カップルたちを見ていると放置してもいいような気がしてくる雫澄だった。
* * *
43 :名無しのリア充:2021/12/27(月) 13:52:00 ID:N9i9N9E9
人の写メを使うな
44 :名無しのリア充:2021/12/27(月) 13:52:18 ID:AuBAntrd
いいぞもっとやれ
45 :名無しのリア充:2021/12/27(月) 13:53:05 ID:N9i9N9E9
偉大なwww魔女www
* * *
「え、こんな程度の低い挑発で……?」
「たまには、こいう稚拙な手が有効な場合もありますよ」
と、ナインは冷静に言い返す。相変わらず手段を選ばない人だ。
雫澄は納得行かなかったが、確かに相手が相手なので、それもありなのだろうかとも思った。
ルカルカがなななを介抱している間、ダリルはパソコンをネットにつないでいた。
これほどの事態なら、何かしら騒ぎにはなっているはずだ。そうした彼の考えは見事に当たり、すぐに「偉大なる魔女ミシェール・イズファ」と接触可能な掲示板にたどり着いた。
『ヒントは「眠り姫」』と、書かれたのを見てルカルカへ振り返るダリル。
「ルカ、眠り姫だそうだ」
はっとこちらを見たルカルカが首を傾げる。
「眠り姫って?」
「魔法を解くヒントだ。まぁ、眠り姫といったらキスが定番だな」
ルカルカはなななの寝顔を見て、『ナーシング』や『ヒール』の効かなかったのはそういうことだったのかと納得をした。
しかし、キスをするなら王子様がいいはずだ。あいにくと、なななの王子様的存在の人物は居合わせていない。
ダリルが何かを掲示板へ書き込んでいる間、ルカルカは悩んだ。
* * *
50 :名無しのリア充:2021/12/27(月) 13:58:24 ID:Ga1zaCKd
ミシェール、君は何か主張したいことがあるんじゃないか?
51 :ミシェール☆ミ:2021/12/27(月) 13:58:59 ID:M1Chel1E
何よ?
あたしはただ、いちゃつくリア充を困らせたいだけよ
52 :名無しのリア充:2021/12/27(月) 13:59:54 ID:Ga1zaCKd
それなら、別の話をしよう。
君は今、何をしたい? いや、将来のことでも構わないんだ。
思いつく限りのことを話してほしい。
53 :ミシェール☆ミ:2021/12/27(月) 14:02:04 ID:M1Chel1E
そう言われたって…とりあえず、ゲームがしたいわ
それも新作でとびっきり面白いのをね☆
54 :名無しのリア充:2021/12/27(月) 14:02:50 ID:Ga1zaCKd
なるほど、ゲームが好きなのか。
55 :ミシェール☆ミ:2021/12/27(月) 14:04:01 ID:M1Chel1E
そうよ
でも最近は似たようなゲームばっかりで、オンラインもすぐに飽きちゃうわ
いっそのこと、魔法の力でゲーム作れないかしら? なんてw
* * *
「おもしろいと思う」と、彼女の味方をするような書き込みをして、ダリルは自分のチャットルームを開いた。
掲示板で話すよりもチャットを使った方がレスポンスは早い。
ミシェールが乗ってくれるかどうかは分からなかったが、そのURLをダリルは掲示板へ貼り付けた。
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