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リアクション
『たのもー!』
確固たる意思を持って訪れたのは武道場。
静香たちは格闘技や武術を学ぼうと考えたのである。
ダイエットに加え、実践を行って強くなれる。一石二鳥ではなかろうか。
「せいっ、はっ! そこっ!」
「まだまだ! やあっ! たぁっ!」
そこではルカルカ・ルー(るかるか・るー)と宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)がすでに組み手をしていた。
その対戦を熱い眼差しで見ていた天神山 保名(てんじんやま・やすな)も、
「おぬしたち! ワシと一戦交えんか?」
参加の意思を表明しだす。
「いいね! やろうやろう!」
やる気満々のルカルカだったが、
「ルカルカ、本来の目的を忘れてもらっては困る」
ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が制止の声を掛けた。
「ほえ?」
「来客だ」
「ハツネたちは、コーチなの……」
『あ……』
斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)の発言に、三人はバツが悪そうに苦笑した。
「ごめんね、静香さん。ついつい楽しんじゃってたよ」
目的を思い出し、静香のコーチに付いたのはルカルカとダリルだった。
「突然来たのはボクたちだから。気にしないでよ」
「そう言ってくれると助かるよ」ホッと一安心。「改めて、ルカと一緒にがんばろっ!」
「よろしくお願いします!」
「気合が入っているな」
ダイエットのため、何時もは避け気味な格闘技の練習に励もうとする静香。
「だが、過度な運動は禁物だ」
腰に挿した【銃型HC弐式】を見せるダリル。
「これで体温変化を見て、脈も計り、適時休憩をとることにしよう」
その時、隣に挿してあった鞭に視界が取られる静香。
「気にするな。多分使わん」
ダリルは無視してくれと言うが、逆に気になってしまうのが人の常。
それを払拭するように、ルカルカが思考を変えさせる。
「さあ静香さん! 軍隊式格闘術を教えちゃうよ!」
リストウェイトを取り出す。
「何をつけているの?」
「リストウェイトだよ」
「持ってみてもいい?」
「いいよ」
リストウェイトを手渡す。ずしりとした重みが静香の手に移る。
「これをつけてするの……?」
「そうだよ?」
普段から運動しているルカルカ。静香にあわせるとなると、これくらいしないといけない。いや、これでも少ないかもしれない。
「それじゃ、始めよっか!」
「はい!」
静香とルカルカの組み手。だが、数分後には、
「やあ! たあ!」
「いい感じよ! もう一歩踏み込んでみて!」
「……は、い」
もう息が切れている。そこに一喝。
「それでも国軍の一員か! そんな体力で国民を守れるつもりか!」
使わないと言っておきながら、振るわれる鞭。我に返ったダリル。
「すまん、間違えた。いつもの癖で。もう使わないから安心してくれ」
即座に謝り、手にしてしまわないようにと片付ける。
「少し休憩しよっか」
「ルカルカさんは、すごいね。重りをつけたままでも、全然、汗をかいてないね」
「だって、いつもルカがやってる軽い運動よりも軽いんだもん」
「……え?」
唖然とする静香。そこに鬼教官。
「この程度、俺達が普段やっている運動の十分の一以下だ。体力はヒールで回復してやる。安心して死んでこい」
愛の鞭で鞭打つ。
「ダリル、『鞭』使ってるよ?」
【桜井 静香 −14キログラム】
雅羅のコーチを買って出た祥子。
「白熱してしまったわ。ごめんなさい」
「気にしなくていいわ。私の相手、してくれるんでしょ?」
「もちろんだわ。あの数字だけは増やしたくないものね」
「当たり前よ」
女性同士、共通の問題。ここは『同志』と言ったほうが正しいか。
「雅羅は銃使いだったよね。でも、白兵戦の身のこなしを覚えるのは近接戦の際に役立つわ」
「そういう場面を想定して実践、ってわけね」
「ええ、みっちり教えてあげるわ」
後方に居るからといって安全とは限らない。時には銃に頼らず、その身を守らなければならない場合もある。兵士たるもの、その訓練は重要。
背後からの奇襲、強行突破された場合の対処、銃剣格闘など、体を動かし汗をかく。
「でも、雅羅は有利よね」
祥子は相対しながら雅羅に語りかける。
「何が有利かわからないわ」
「桜井校長とかと違ってある程度筋肉が付いても問題ないことよ」
「どうして?」
「ほら、桜井校長って――」
目線を一瞬静香に向ける。つられて雅羅も。
「隙あり!」
外れた視線を見逃さず一閃。
頭をトンッとチョップ。
「ほらほらしっかり」
「卑怯だわ」
「戦場に卑怯も何もないわ。ぼさっとしてると、きついの入るわよ?」
少し意地悪なトレーニングだった。
【雅羅・サンダース三世 −13キログラム】
「保名様、目的を忘れてもらっては困ります」
いさめたのは天神山 葛葉(てんじんやま・くずは)。
「『白狐神拳』を広めるため、僕たちはここに来たんですよ?」
「そうじゃったそうじゃった。あの二人を見ておったら、血がたぎってしまったのじゃ、ゆるせい」
「お母さんのお願いじゃなければ帰ってたの……」
ハツネにお母さんと呼ばれた斎藤 時尾(さいとう・ときお)は、トレードマークの白衣を着て武道場の端でだるそうにしている。
「あやつは何をしておるのじゃ?」
「タバコとお酒を控えているの……」
本来、ダイエットの手伝いなわけで、大好きな飲酒と喫煙が気軽に出来ず、難儀している時尾。
「それよりも、アリサさんへの指導ですよ、保名様」
「そうじゃな。わしが『白狐神拳』を伝授してやるのじゃ」
喧嘩友達のことは気になるが、今は自分が創始した武術を広めることが先決。アリサへと向き直る。
「修行中はわしのことを『師匠』と呼んでもらおうかのう」
「わかった」
「バカもんが! 分かっておらんではないか!」
「何をするんだ!?」
いきなり愛の鉄拳が飛んでくる。何とかかわしたアリサにこそっと耳打ちする葛葉。
「そこは、『わかりました師匠』なんです」
「もう始まっているのか」
粗暴な性格が目立つアリサ。これは少し苦労が増える。
「お願いします、師匠」
「よろしい」腕組みして頷くと、「まずはこれを付けてらおう」
ゴトンと置かれた衣類や装飾品。なんと重量感のある音なのか。
「補整下着上下とリストウェイト、アンクルウェイトです」
「こんなに加重して大丈夫か?」
「おぬしは鍛え甲斐がありそうじゃからのう。大丈夫じゃ、問題などなかろう」
そう言われ、更衣室で着替えを済ませたアリサだったが、
「重いぞ……」
歩くことは出来るが、運動となると不安になる。
「これで攻撃避け修行を積んでもらうのじゃ」
「やっと出番なの……」
ハツネは『フラワシ』を呼び出す。それに木刀を持たせ、行使する嵐の能力。
「ちょっ、待て! 早すぎる! 避けれるわけないだろ!」
ピシッパシッと軽く手足を打つ音。流石に威力は考慮されている。といっても、痛いものは痛い。苦悶に歪む表情を見て、
「クスクス……楽しいの……」
「僕も手を貸します」
葛葉が『玉藻さん』と『益材さん』を攻撃に加える。
「さあ、動くのじゃ! サボれば鳳凰の拳をお見舞いじゃ!」
「無理だ! どう考えても!」抗議するアリサ。「せめて水分をくれ!」
「何を言っておるのじゃ? 本気の修行にそんなものはいらんのじゃ」
「あんたこそ何言ってるさね。運動するダイエットに大切なのは、いかに塩分を取らずに水分補給するかさー。あんた等、少し休憩さね」
「わかったの……」
「そう言われるのであれば」
フラワシたちを止める。
「よく壊さずに頑張ったさー」
「嬉しいの……」
頭を撫でられ、頬を染めるハツネ。その後アリサに近寄り、
「これ飲むさね?」
「ありがとう」
アリサにアルカリ天然水を渡す。酔い覚ましに持っていたのだろう、多分。そして保名に向くと、
「今時、飲まず精神は古いさね、保名?」
「そんなことはないのじゃ。伝統は受け継がれるのじゃ。わしの『白狐神拳』もいずれはそうなるのじゃ」
「やれやれ、頭が固いさね」
「おぬしもだらだらした生活を正してみたらどうじゃ?」
言い合いながら接近する二人。
そしてまずぶつかったのは胸だった。
「私の前で、胸を強調するな!」
重量なんて何のその、体躯を振り乱し憤慨するアリサ。
「やはり、わしの見立ては間違いではなかったのじゃ」
「さすが保名様。素晴らしい眼力です」
「執念だと思うの……」
「二人は放って、ダイエット成功させるさねー」
『白狐神拳』が広まる時は来るのだろうか。
【アリサ・ダリン −15キログラム】
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