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バレンタインデー・テロのお知らせ

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バレンタインデー・テロのお知らせ

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「あのね、雅羅、気持ちはわかるけど、一人でうろうろしてちゃだめじゃない。ちょっとは私たちのことも信用してよ」
 ツァンダの人ごみを一人ふらふら歩く雅羅の姿を見つけて白波 理沙(しらなみ・りさ)が捕まえました。彼女、なんかパンダのアクセサリー装備してますけど、決して怪しい少女ではありません。それどころか、雅羅の身の上を心から憂う一人で、今日も今日とてテロリストから雅羅を守るために出張ってきていたのです。
「ええ、ごめんね理沙、心配かけて。ちょっとパンツが……」
「どうしちゃったのよ、雅羅? 目つきがおかしなことになってるわよ?」
「早くもテロに遭遇したようね。雅羅さん、あなたはもうちょっと自分の体質を自覚して狙われるという事を考えた方がいいわ」
 事情を察したように白波 舞(しらなみ・まい)が苦笑を浮かべます。
「なんだかな〜、みんなも結構薄情よね。雅羅からチョコもらったら、ハイさよならなんて。だったら、最初から近づいてくるなってものよ! なによ、さっきのお茶会だって、みんな下心丸出しだったじゃない」
 理沙は本気でぷんぷん怒っています。
「そんなこと言わないで理沙、私が気をつければいいことなんだから」
「ちょっと、本当にどうしちゃったのよ。かなり元気がなさそうだけど。テロリストに襲われたのがそんなにショックだったの?」
「うん、それもあるけど。まあ色々と考えちゃってね。……ところで、彼女、誰?」
 雅羅は、いっしょについてきた少女を見つけ首を傾げます。
「ん〜ふっふ、よく気づいたわね、雅羅ちゃん。この子、軽短夢己(かるみじ・ゆめき)ちゃん。イルミンの平凡な女子生徒よ。よろしくね!」 イルミンスール魔法学校の女子制服を纏った黒髪セミロングにメガネをかけた少女を紹介してくれたのは、緑髪をツインテイルにした想詠 瑠兎子(おもなが・るうね)でありました。
「この間は、私の弟がなにやらおかしなことをやらかしたみたいで、驚かせてごめんね。彼なら、あれ以来、風邪で寝込んだままだから」
「そんな、気にしないで。モゾモゾゴソゴソされるより、はっきり言ってくれたほうが嬉しいわ。こっちこそよいお返事ができなくて……。それに、風邪って、大丈夫なの? お見舞いに行ったほうがいいのかな?」
 雅羅が答えると、軽短夢己なる少女は口元まで覆ったマフラーの奥でゴホゴホ咳払いをしました。よく見ると、彼女は意外にも可愛らしい風貌です。
「あ、こんにちは初めまして、軽短夢己……さん? え〜っと、どこかでお会いしたことありましたっけ?」
 どうしたのかと雅羅が覗き込もうとすると、夢己はサッと顔を背けます。
「?」
「気にしなくていいわ。さっきから寒空の下、男の子たちに義理チョコを配っていたから、この子も風邪でも引いたのかもね」
 意味ありげな笑みを浮かべて瑠兎子は言います。
「……」
 雅羅はそんな夢己を怪訝そうな表情でじっと見つめていましたが、やがて苦笑混じりに話題を変えます。
「義理チョコって言えば……そういえば私、残り全部置いてきちゃったわ」
「なんだ、紙袋持ってないから、全部配り終わったのかと思ったわ」
「ちょっと疲れちゃって、だから……しまったわね、理沙に上げる分がないんだけど」
「いいのよ、気にしなくて。それに……なんかわかる気がするわ。意外と神経使うのよね、義理チョコ配るだけっていうのも」
「理沙はどうだったの?」
「私も、余っちゃったわ。何しにきたんだろうね、私たちって」
「そうなの……。じゃあ、よかったら私にほしいんだけど」
「雅羅に?」
 理沙はちょっと驚いた表情をして見つめ返します。
「いいけど……どういう心境の変化なの? チョコなんか見たくないほどもらってたみたいだけど」
「考えたら、気楽にやり取りしたことなかったなって思って。いつも緊張しっぱなしだったから。今なら、ちょっと気分も落ち着いてるし」
「ふ〜ん、まあそう言うならあげるわ。市販の安っすいやつだから、気軽にバリバリ齧れるんじゃないかしら」
 言うと、理沙は雅羅にチョコレートを渡してくれます。
「ありがとう。遠慮なく、モリモリ食べるね」
「体形の維持管理が大変なことになるわよ、それ」
「せいぜい気をつけるわ」
 雅羅と理沙は顔を見合わせて微笑み合います。
「……」
 そんな話の流れからか、夢己もチョコレートを差し出してきました。もじもじと、恥しがり屋の少女が勇気を振り絞ってチョコを渡してるようでそそるものがあります。
「ありがとう、もらっておくわね夢悠。言ったとおりお返しはないけど……」
 雅羅がチョコを受け取った時でした。
 一瞬、複数の人の気配がして振り返ります。
「テロリスト」
 舞が短く言います。それと同時に理沙と瑠兎子が雅羅をガードするように動きます。
「風使いよ! 気をつけて!」
 雅羅が叫ぶより先に、ゴオオッッ! と突風が吹き荒れます。どうやら、残党がいたようで、さっきと同じ手口です。
「雅羅、ごめんっ!」
「……っ!?」
 たじろぐ雅羅に、夢己が突然飛びかかってきます。雅羅を強引に地面に押し倒し、覆いかぶさるようにしてかばいました。なりふりかまわず地面に伏せ、後ろ手にスカートの裾を押さえつけます。悪くない手です。
「死になさい!」
 理沙も舞もスカートがめくれ上がり白のパンツ丸見えになりながらも、かまわずテロリストに攻撃を加えます。恥ずかしがるからテロリストたちが喜ぶのであって、開き直れば無問題です。容赦なくガンガンいきますよ、フルボッコ確定です。
「前さえ見えなきゃセーフ」 
 瑠兎子は後ろ側からは体操用の赤いハーフパンツが見えていますが、前裾さえ押さえておけば大丈夫とばかりにこちらもテロリストたちに反撃です。

  ≪ ただいま非常に残忍なシーンが繰り広げられておりますので、お見せできません ≫  

「ぎゃあああっっ!?」
 パンツを見ることに重点を置いていたテロリストたちは、そんな攻撃になすすべもなく、逆に爆破されボロクズのようになりました。
 まもなく、風も吹き止みます。
「……ありがとう、 夢悠。ところで、そろそろ退いてほしいんだけど」
「え?」
 軽短夢己と名乗っていた少女は目を丸くします。
 実のところ想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)が変装していたのですが、それ以前になぜかあっさりと見破られていたようです。
 もう、めちゃくちゃ気まずいです。とても似合っていて可愛い男の娘だったんですけど、それだけに赤面ハンパではありません。
 おまけにこの体勢……、ええ、雅羅をバッチリ押し倒してますね。女の子同士でもアレなところ、男の娘ですよ? 
「あ、ああああっっ!?」
 奇妙な叫び声をあげながら、夢悠が慌てて飛びのこうとしたときでした。
「リア充め……! 爆! 破! 完! 了!」
「……!」
 風使いのテロリストの影に隠れて迫ってきていた人物が、真後ろからスルリともぐりこんできて、あろうことか四つんばいの夢悠のスカートの中に手を突っ込んでいました。
 サッ、と尻から下へ、白い布の塊が夢悠の足元までずり落ち引っ張り剥がされます。 
「男の娘のパンツ、ゲットだぜ」
 呆然と体勢を崩す夢悠のパンツを奪い取ったのは、厚紙製の仮面をかぶった黒マントのテロリストでした。こいつは、男の娘のパンツを手に入れるために、ずっと狙っていたのです。
「はーっはっはっは! 今話題のネットアイドル、怪人モテナイ仮面とは私のことだ!」
 モテナイ仮面の勝鬨の声とともに握り上げられた夢悠のパンツ。バレンタインデーの日の光の下、誇らしげにはためきます。……女の子モノですよ。これ……雅羅の目の前で……、この後どうするんでしょう……彼……。再起を期待しましょう。
「くくく……、今回は男の娘成分が足りないと思っていたが、どうして中々、上玉が潜んでいたではないか。……では、さらばだ!」
 異様な静寂の中、モテナイ仮面は黒いマントを翻し、颯爽と姿を消します。
「……あっ、待ちなさい!」
 呆気にとられていた理沙たちがようやく我に返り追おうとするも、怪人モテナイ仮面はすでに影も形もありませんでした。理沙とか、別に男がどうなろうともよさそうな感じですし。
「……」
 夢悠は雅羅に覆いかぶさるようにその場に固まっていました。真っ白です、パンツだけじゃなく全身が……。
 もちろん言うまでもなく、はいてません。
「……ひっく……、い、いやああああああっっ!」
 半身を起こしかけようとして見上げた雅羅がしゃくりあげるような声をもらし、全力で悲鳴を上げます。
「し、失礼、雅羅ちゃんっ! 事情はまた今度!」
 さすがに真っ青になった瑠兎子は、へんじがないただのしかばねのようだと化した夢悠を回収し、全速力で姿を消します。
「……保健室へ連れて行くわ」
 理沙と舞は、顔を両手で覆いぐったりとした雅羅を抱え上げ、いたわりの声をかけながら連れて行きます。
「……災難体質ってレベルじゃないでしょ、これ。どうなっているの?」 

 ○

「よう、もうお帰りかい?」
 仕事を終えてさっさと立ち去ろうとしている乙女を呼び止めたのは、託でした。
 余計なおせっかいだったねぇ、と、あの後ずっと様子を見ていたのですが、取り戻すものがあって乙女を待ち伏せしていたのです。彼自身、周辺をうろつくテロリストを追っ払っていたために対応できませんでしたが、今なら違います。
「なんだ、あんた?」
 乙女は日好意的に託を睨みますが、彼はそんなこと全然気にせずにいきなり乙女のスカートをめくります。
「!?」
「お、白か。……まあいいや、パンツ返しな。じゃないと、俺も取るぞ、お前の」
「な、なななんのことだ?」
「相手が怒り出さないうちに素直に聞くのが、チョコを渡す相手ができる秘訣だよぉ」
「……」
 乙女は、白い布の塊をポンと託に放り渡すと、スカートを押さえ走り去っていきます。
「やれやれ、つくづくいらんことしてしまったなぁ……」
 さて、どうフォローしようか、と託は考えながら姿を消します。