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リアクション
「さっきから校長室にイタズラ電話をかけまくってる奴、誰だ……!?」
蒼空学園校長、山葉 涼司(やまは・りょうじ)は、テロが始まるなり鳴りっぱなしの電話に苦慮しているようでした。
テロリスト討伐のための協力を仰ぎ、すでに大勢の仲間達が独自に防衛のために動いています。その取りまとめをしようとしていた涼司なのですが、携帯にも校長室の設置電話にもひっきりなしに通話が入り、上手く周囲とも連絡が取れない状態なのです。
これがまともな業務報告や情報提供などなら忙しいのは構わないのですが、ほとんどがニセの情報かよくわからないメッセージや意味不明の単語の羅列ばかりなど、明らかなイタズラ電話です。
「FAXや電子メールもやられてるわ。表で騒いでいるスカートめくりの連中よりも、こっちの方が本物のテロリストっぽいわよね。電子戦ってテロの基本だし、案外、表のはカムフラージュでこっちが本命だったりして」
涼司と甘いバレンタインデーを送りたいとやってきていた、火村 加夜(ひむら・かや)は仕事を手伝っていました。校長室の警備も涼司のガードも万全ですが、おかしなことになっています。
「ねえ涼司くん、狙われそうな機密ってあるの?」
「校長室だ、機密だらけに決まってるだろ。例え婚約者にも話せないし、拷問されても口を割らねえけどな」
「それが狙いなのかしら?」
「残念ながらそんな“面白い”話ではない」
涼司の応援に来ていたずら電話の対応をしていたダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が受話器を手で当てたまま振り返ります。
「相手は誰かわかっている。ただの愉快犯だ、今のところはな。手を引くよう、俺が交渉しよう」
「テロの関係者なら、俺が出た方がよくないか?」
涼司は言いますが、ダリルは平然と返します。
「相手は女だ。屈折していて性格の良くない、山葉には向いていないタイプのな。感情的にさせてこじらせるだけだからやめておいたほうがいい」
まだなにか言いたそうな涼司を手で制しておいて、ダリルは電話の相手と話を続けます。
パンツ出てきませんけど、ちょっと会話を聞いてみましょう。
「東須か?」
「誰よ、あなた?」
「ダリル・ガイザック、山葉の代理人だ」
「リア充?」
「おかげさまで毎日が充実している。俺が代わって話しをしよう。条件は何だ?」
「脅迫電話じゃないわよ、これ」
「こちらは、お前が満足するであろうだけのネタを用意出来る。それを持って、第十三新聞部はこのテロから手を引くんだ」
「私にテロを抑えるほどの力はないわよ。所詮傍観者だもの」
「そんなことは知っている。離脱しやすい立場だということだ。薄情だと考える必要もなかろうし、そんな性格でもないだろう」
「すでに私のこと調べてあるみたいね?」
「そう言うことだ。強く言うつもりは無いが、山葉やこの学園、そして俺たちをあまり甘く見ないほうがいい」
「私もテロリストたちもね、伊達と酔狂でやってるの。この意味わかる?」
「もちろんだとも、俺たちもそうだからな。あらゆるカードがテーブルの上に乗っている。今ならシャレで笑って済ませる。深みに入れば取り返しがつかなくなると考えていい」
「条件は三つよ。条件その1、テロリスト全員を罪に付さないこと。条件その2、怪我人の早急かつ完全な収容と治療が行き届くこと。条件その3、2/15以降、テロに参加した者たちに対して、テロに参加したという理由において謂れの無い偏見及び差別が行われないこと」
「妥当かつ賢明な条件だな。わかった、全て保障しよう」
「ダリルさん、いい声ね。かなり交渉慣れしてるみたいだし、端的で話が早くて助かるわ。感情的な相手だとこうはいかないもの」
「気前いいだろう。祭りだからな。本当に冷徹だとこうはいかない」
「なるほどね。こりゃ私じゃ歯が立たないわ。……わかったわ、撤退する。スポンサーから第十三新聞部に流れてきた資金は、秘密厳守の条件で生徒会に預けるから恵まれない子たちにでも寄付してよ」
「本物の政治的テロリストになる前に決断できて大変結構だ」
「山葉校長にもよろしくね。お会いできなくて残念だったわ」
「ああ、もう校長室にイタズラ電話かけてくるなよ。多重操作している端末も全て切るんだ、わかったな」
「ありがとう。今夜、チョコレート宅配便で送るわね」
「受け取って欲しかったら手渡しでこい」
「と思ったけど、彼女さんが怖いからやめとくわ。……じゃ」
ガチャリ、と電話が切れます。
どうやら、東須歩子だったようです。テロリストたちに協力するのかと思いきや、出てくるなり早々と退場です。こんなものです、お疲れ様でした。もう出てきませんので忘れましょう。
電話口だけであっさりとテロの首謀者の一人を撃退したダリルは受話器を置き涼司に向き直ります。
「これで、もしスカートめくりなどが行われても写真が出回ることもないだろう。後は、外の連中に任せておけばいい」
やがて、校長室も平静を取り戻します。歩子がノート端末で操作していた発信機も全て切断したのでしょう。
「ねえ、もしかして彼女、涼司くんのこと好きだったのかな?」
複雑な表情で加夜は聞いてきます。
「ストーカーみたいなものだ。直接声をかける勇気もないし、どうしていいかわからなくなって、イタズラするしかなかったんだな。彼女自身が、テロリストたちと同じ心境だったんだ。表向きはそうは見えなくてもな」
淡々と語るダリルに涼司は苦笑します。
「それで、俺が電話に出ないほうがいいって言ったのか」
「非リア充の根深い情念とは価値観が全く違う。山葉やルカとは話すら通じんよ」
「どうしてそこで私の名前が出てくるわけ?」
外の見回りから帰ってきたルカルカ・ルー(るかるか・るー)が、腰に手を当てちょっと不機嫌そうにダリルにふくれます。
「まるで私に全く悩みがないみたいに聞こえるじゃない。……あ、そうだ。友チョコ持ってきたんだけどもらってくれるよね、涼司」
すぐにくるりと表情を明るくさせ生チョコを取り出すルカルカにダリルはポツリと呟きました。
「屈折していない。だから、リア充なのだよ」
一方、涼司はルカルカのチョコレートを受け取って、満足げに微笑みます。
「おお、これはいいな。サンキュー、ルカルカ。くれなかったら催促しようかと思っていたところだ」
「なによ、言うじゃない。……って、いきなり封開けてるし、デリカシーとかないの?」
「俺たちが遠慮しあう仲かよ? ……ん、うめぇ……パクパク……」
「もう……」
ルカルカはふくれますが、満更でもなさそうです。
「もうテロリストも来ないようですし、皆さんで休憩しましょうか」
加夜が言うように、実際のところ、この校長室の周りは過剰なほどの警備で埋め尽くされています。みんなの協力のおかげです。
「もう、私は眼中なしですか? 涼司くんってモテますよね。ちょっと焼きもち妬いちゃいそうです」
ソファーに腰掛け生チョコに舌鼓を打つ涼司を見て、加夜もぷくりとふくれますが、実際のところ余裕です。なにしろ婚約者ですからね。そこいらのザコならその肩書きだけで裸足で逃げ出す存在感です。それが証拠に、この校長室には、見てのとおり加夜以外にはルカルカとダリルしかいません。他は恐れて誰も近寄ってこないのです。
「山葉、俺からもチョコバーがあるのだが」
「今、生チョコで忙しい。そこに置いておいて、デザートに食うから……、お、サンキュ。……バリバリ、ムシャムシャ。……うん、大儀であった、余は満足じゃぞ」
「チョコバーをデザートに生チョコを食べるんじゃない。……行儀悪いし、リラックスしすぎだろ」
「そんなことが言い合える仲なんて、ちょっとうらやましいかも。これが本当の友達ってわけですね。私なんかいつも緊張してしまいます」
加夜はどうしようかと迷っていたようですが、思い切って本命チョコを差し出してきます。もうね、後光が差してますよ、婚約者の本命チョコですからね。
「はい、受け取ってください」
「お、おう。ありがとうな……」
そのオーラにさしもの涼司もピッチリと姿勢をただし、まじめな表情になってチョコを受け取ります。
そろりと丁寧に中を開けると、愛のいっぱい詰まった手作りチョコレートが姿を現します。
「これは、手の込み具合がハンパじゃないな」
「私が食べさせてあげます」
加夜は、一つを取り出すと、涼司の口へと持っていきます。
「はい、あ〜ん」
「ん、うめえよ。ありがとうな、加夜」
涼司はしっくりと味わいます。愛を込めた手作りチョコはいつもより甘く感じるかも知れませんね。
え〜、まあ何といいますかね。もういいでしょう、この辺の鉄板なメンバーの日常は。幸せを祈りつつフェードアウトしましょう。
さて、ではいよいよお待ちかね。本格的にパンツ祭りと行きましょうか……!
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