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平安屋敷の赤い目

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平安屋敷の赤い目

リアクション

 同じ頃、校舎内ではセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が生存者を求めて走り回っていた。
 恋人と二人、蒼空学園のイベントに参加した際に事件に巻き込まれていたのだ。
 その時は咄嗟の判断で校内に駆け込み入り難を逃れたものの、シャンバラ国軍の軍人としての自覚からか、
ただちに学園校舎内の生存者の捜索と救出に当たっていたのだ。
 校内を誰よりも早く駆けまわる彼女達は、すぐに食堂と海達を見つけ出し、豆と恵方巻きを手に入れ
生存者を見つけては度々空間が歪む事で何処にあるとも分からない食堂へと運びこんでいた。
 今も食堂に百合園生を運んだところで、入り口に居るユーリにひき渡すやすぐに
休む暇も無く新たな生徒を捜索に出てきたのだ。
「しかし毎度毎度基地が何処にあるのか分からなくなるのは不便でしょうがないわね。
 こうして時間を食っている間にも犠牲者は増えて行くっていうのに……」
 さっきまで助けた百合園生にかけて居たコートを羽織り直しながら、セレンフィリティは呟く。
「ええ、でも何となくパターンが分かってきたわ」
「ホントに?」
 事もなげに頷いて見せるパートナーに、恋人は誇らしい気持ちだ。
「セレアナは本当凄いわね。さっきもパソコンでルカルカの通信にあった生存者のデータ
 もう覚えちゃったんでしょ?」
「ええ。もし餓鬼に噛まれたら豆をぶつければ回復するから、
 正確な年の数を覚えようって思ったの」
「ふふ。さて、あと見て無いのは何処だったかしら」
「勿論それも覚えてるわ。
 三年生のクラスに、技術室、それから……」
「どうしたの? セレアナ」
「セレン、あれ」
 セレアナの言うのは校庭の中で戦う一人の男と少女の事だった。



 校庭で餓鬼と戦っているのは佐野 和輝(さの・かずき)。そして彼のパートナーのアニス・パラス(あにす・ぱらす)だ。
 事件に巻き込まれた後、彼は偶然辿り着いた食堂で友人である桜井静香が皆を助ける為に走り回っているのを
目にしていた。
「手伝ってくれる?」
 という静香の言葉に和輝は考える。
 自分も静香のように食堂で怪我人を助け、護るべきか。
 ――いや、俺には俺のやり方があるはずだ。
 そして和輝は事件が起こった時の事を思い出した。
 山葉涼司が囮になる為に校庭で走り回っていた事を。
 その結果は分かっている。
 ――たぶん、失敗しただろうな。
 不吉な予感が襲ってきても、彼は考えを変えなかった。
――新たな囮が必要となるわけだが……
「アニス、悪いな。少し付き合ってくれ」
 こうして和輝は生存者を自らが囮となることで逃がしていったのだ。
 ゴッドスピードを駆使して逃げ回り其の内膨れ上がった餓鬼の数にいい加減振りきれずに
広い場所をと目指した結果、辿り着いたのはこの校庭だった。
 空飛ぶ箒ファルケに乗り中空を漂っているアニスが、式神の術でぬいぐるみに自分達の護衛をさせつつ、
戦闘状況を上から眺めて和輝に逐一知らせて居る。
 和輝の二つの銃。それにレガースを付け防御力を高めた脚は仄かに赤く光っている。
 侵食型の陽炎蟲を忍ばせているのだ。
 これは他生物に寄生する能力を持つ、奇妙な蟲で、宿主と決めた生物の言語を理解できるほどの知能があり、
指示を出すことがある程度は可能であった。
 こうして寄生させた部位は筋力が大幅に上昇するが、代償として宿主の生命が秒単位で消耗していってしまう。
 つまりここからの戦いは時間との戦いでもあるのだ。
 餓鬼が和輝の四方を囲んでいる。
 ――3、2……
 自分の中でタイミングを見計らうと、和輝はゴッドスピードで近づいた餓鬼の一匹の腕をぐいっとひっぱり、
顔面に蹴りを喰らわせた。
 それによって周囲の餓鬼達は皆動き出す。
 和輝は身体をしならせ飛び上がると、一番近くにきた一匹に後ろ蹴りを喰らわせた。
 彼を中心に丸く囲んでいた餓鬼は和輝を捕まえようと腕を伸ばすが、下段の姿勢になる事でそれをかわすと
そのままぐるりと円描く様に餓鬼らの脚を払っていく。
 倒れた餓鬼に銃を抜くと上から正確に弾を撃ち込んで行く。
「和輝! もうきてるよ!
 4時の方向、影!!」 
 殺気看破を使用し、気配を感じ取っているアニスの声が上から響く。
 具現化した瞬間に、和輝はそれを見る事無く腕を右手で掴むと、左の銃でその腕を打ちぬく。
 その間に正面からきた餓鬼の喉元に脚を上げる事で動きを止めると、膨れ上がった腹に二発弾をぶち込んでやる。
 瞬間。和輝は右手を後ろの餓鬼から手を離すと、倒れて行く目の前の餓鬼を階段のように利用し、
後ろに飛びすさり、それで先程腕に喰らわせた餓鬼の後を取ると背中に向かって引き金を引く。
 後ろからきた餓鬼にはアニスの悪霊退散が放たれている。
 自ら陰陽術を極めたと豪語する彼女の事だ、後ろは心配いらないだろう。 
 和輝きは再び下段の姿勢のまま前から伸びてくる腕を避けつつ、腕を下から掴んで顎から銃弾を打ちぬいた。
 ――どうにも数が多いか。
 リロードの暇が惜しい。
 足元の荒野の棺桶に脚をひっかけ、そのまま宙に浮かばせると、中から機関銃が落ちてくる。
 餓鬼の攻撃を避けつつそれを手にすると、和輝きは左手の銃はそのままに右手にそれを構えた。
 普通にやれば肩が抜けるが、和輝の筋力はそれを可能にしていた。
 右に機関銃の連射、左に二発、斜めには浴びせるように、正面から来るものは後回しにして、
次は斜め左後ろ。
 アニスの声が聞こえる。「8時の方向」にも、見えないから自分の肩越しに念のため二発。
 最後に残していた正面の腕に脚を絡ませそのまま身体を横に倒す様にしてやると、
バランスを崩した餓鬼は横に倒される。
 あとは簡単。倒れた餓鬼に弾をぶち込むだけだ。
 餓鬼相手に戦い続ける和輝の姿は上から見るアニスからは、まるで踊っているかのように見えた。
「……は! 見とれてる場合じゃない!」
 アニスは額に指を当てて目をつぶり、殺気看破の為に再び集中する。
「ん?」
 ――何かひっかかる?
 大きな気、悪意がこちらに向かっている。
「和輝! 何かこっちにくる!!」
「何かって……!?」
 一瞬も止まらずに動き続けて居た和輝の動きが、ぴたりと止まった。
 和輝の前にひときわ大きな影が揺らめいている。
 白い煙のような姿で形が定まらない。
 そこへ放送の音が飛び込んできた。
 大助との戦いで力を消耗したのだろう、鬼による邪魔が入ら無くなっていたのだ。
『アクリトだ。
 今校内に正体不明の煙のような悪霊が現れて居る。黒と白の二匹でそれらに攻撃は効かない。
 見つけたら直ちにその場から逃げるのだ!』
 和輝はゆらりとゆれる白い影を見つめ溜息を吐いた。
「成程こいつの事か」