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「やれやれ……終わりましたか」
 溜息を吐き、首を鳴らしながら伝道師が呟く。
「ひょっとして、私達……とんでもない物を相手にしてたの?」
「か、かもしれないね……」
 雅羅となななが乾いた笑いを浮かべる。
「……無茶苦茶すぎだよ」
 アゾートが呟く。今日一日で随分と慣れたのか、ななな達と違って呆れた顔を浮かべている。
「いえいえ、流石に全員相手にするのは骨が折れましたよ。私も年ですかねー……む!?」
 伝道師が横へ飛び退く。ほぼ同時に、エリセル・アトラナート(えりせる・あとらなーと)が伝道師のいた地面を抉った。
「あれ、あの人……」
「待った。それ以上近づいてはいけません」
 アゾートを伝道師が制止する。
「許さない……許さない……」
 虚ろな目でエリセルが呟く。
「……彼女どうしたの?」
「さぁ……?」
 雅羅が問うも、誰も答えられない。
「許さない、許さない、許さない許さないユルさないユルサナイ許さナイユるサナイユルサナイ……」
 虚ろな目で、壊れたようにエリセルは繰り返す。
「な、なんか怖いんだけど……」
 なななが怯えた表情になる。
「よくも……よくも……よくもォォォォォッ!」
 虚ろだった目に怒り、殺意といった感情が宿り、
「私の愛するアゾートさんと一緒に色々やってたなぁァァァァッ!?」
エリセルが吼えた。
 何故こうなってしまったか、話は少し前に遡る。エリセルは街の街頭テレビに映るアゾートと伝道師の姿を見て……まぁなんというか、簡単に言うと嫉妬したのだ。
「……ああ、これは不味い」
 伝道師が呟いた。
「どういうこと?」
「暴走して嫉妬に狂ってます。このままでは大変な事になりかねません」
 そう言って、RPGを取り出す、瞬間。
「ぬ!?」
伝道師は横に避ける。その直後、何もない背後の空間からゴム弾が放たれた。
「ちぇっ、外れたか」
 空間からトカレヴァ・ピストレット(とかれう゛ぁ・ぴすとれっと)の声がする。よく見ると、空間は少し揺らいでおりそこに何かが居るのがわかる。
「まあエリセルも何やってんだか、って思うけどこっちも仕事なのよね」
 そう言うと、トカレヴァの気配が消える。
「というわけで、おとなしくやられてくれないかな? こっちも楽なんで」
「アゾートさんは……ダレニモワタサナイ……ッ!」
 その時、伝道師が走った。エリセルの方でもトカレヴァの方でもなく、横へ。
「逃がしませんッ!」
 エリセル、トカレヴァがその後を追う。
 しばし走った先、とある建物のガラスをぶち破り伝道師が飛び込む。
「残念、行き止まり」
 追いついたトカレヴァが言う通り、中はシャッターが閉じられ逃げ場のない空間。伝道師は、その部屋の中央に佇んでいた。
「潔さは認めましょう……安心してください、私が美味しく頂いてあげますから。ちょうどお腹もくうくう空いてきましたので……」
 虚ろな目で伝道師を見るエリセルがゆっくりと近づく。
「折角ですが……食べられる趣味は無いんですよね、私」
 そう言うと、伝道師が振り返る。そして、足元に何かが落ちた。一つではなく、幾つも。
「……ッ!?」
 気づくがもう遅い。それの安全ピンは全て、既に抜かれていた。
「代わりに、こいつを食らってください」
 伝道師の足元に落ちた――手榴弾が、炸裂した。
 地面を震わせるような爆発音が、空京の街に響く。
「な、何!? 今の!?」
「爆発よ! あそこだわ!」
 駆け付けた雅羅が指さす先には、出入り口から今尚煙が上がる建物があった。
「あ! あそこ!」
 アゾートが倒れているエリセルを目にして駆け寄る。
「ねえ、大丈夫!?」
そして、抱き起すとエリセルがゆっくりと目を開け、
「う……あ、あれ? 私……あ、アゾートさん!?」
今自分に起きている事態を、ゆっくりと把握すると、
「わ、わわわわわわ私今アゾートさんのううううでにににににぃ!?」
顔を真っ赤にして目を回し、興奮のあまり鼻血を噴出した。
「はう」
 そして、あっさりと気を失った。原因は失血による物である。
「ちょ、ちょっとぉー!?」
 返り血(鼻血)を浴びたアゾートがエリセルを揺する。気を失っている彼女の顔は、幸福そうな笑顔を浮かべていた。
「ふぅ、愛が無ければ即死でした」
「こっちはこっちで無事だし!?」
 伝道師が抱えているトカレヴァを下ろす。爆発の衝撃で彼女は目を回して気を失っていた。
「さて、もう流石にいませんね」
 伝道師が辺りを見渡し呟いた時であった。

「……こんな所にいたのか」

「ふぅ……今度は誰ですか?」
 伝道師が振り返ると、そこにいたのは紫月 唯斗(しづき・ゆいと)。そして、

「私か? 私は、愛の伝道師……貴様に愛を教えに来た……」

アーマード レッド(あーまーど・れっど)ネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)を伴ったエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)だった。