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リアクション
――この世の理は表裏一体。表があり、裏がある。光が存在する故に闇も存在する。
愛無き者達。それはバレンタインのような恋愛が絡むイベントの裏に潜む存在。愛が正だとするならば、その裏である負の感情を抱えた者達だ。
『者達』と言ってはいるが、人というより最早災害に近い。この世の全てを恨み、妬み、僻み――リア充爆発しろ、という言葉を響かせ、破壊の限りを尽くす。
この者達が出現してしまったが最後、恋愛イベントは飲み込まれ、瞬く間にそこは戦場と化す。
「……今の私でも奴らに勝てるかどうかは正直わかりません」
そこまで言って、伝道師は一呼吸を置いた。
「……このバレンタインは奴らが暴れまわるにはうってつけのイベントです。しかし偶然が重なったのか、将又事情でもあったのか、奴らは現れませんでした。しかし今日一日、何が起こるかわからないので警戒は必要でした」
「えっと、『愛』について質問していたのも?」
「ええ、潜んだ奴らを探す為です……力のある方に話しかけて、様子をうかがっていたのです」
そこまで言って、ななな、雅羅、アゾートが黙る。いや、そこにいる者達皆が何も言えなかった。
最初からそれらしき兆候とか伏線とか張っておけこの野郎、と言いたくなるくらい突然すぎるし無理がありすぎる展開だ。何か言え、と言われても困るってもんだ。
「……じゃあさ、最初ななな達が見たカップルはなんだったの? その【愛無き者達】だったの?」
なななが、重苦しい空気を破るように口を開く。
「あれは女性の方が【チロルチョコ】で来月3倍返し、とせがんでいたんですよ」
『しょーもないなおい!』
全員が声を揃えた。散々引っ張っておいて理由がこれだ。本当にすまないと思っている。
「い、一応理由はあるんですよ? あのままだと男性が世の全てを恨んで破壊活動に走りそうでしたし! 何より女性の『本気でアタシと付き合えるとでも思ってたの?』的態度とかにもイラっとしたんですよ!」
「無茶苦茶私怨じゃねーか最後の」
唯斗が呆れたように言った。
「はぁ……ななな達はてっきりチョコもらえない嫉妬でやってるんだと思ってたのに……」
脱力しつつ、なななが呟く。『同じく』とアゾート以外が手を上げる。
「失敬な。私は妬みなんかで人を襲いませんよ。そもそも妬む理由なんてないですし」
「ん? それはどういうことかしら?」
「それは――」
雅羅の問いに答えようとした時だった。
――塔の鐘が鳴り響く。
同時にイルミネーションに明かりが灯り、暗闇に包まれようとしている街を照らし出していた。
「……どうやら時間のようですね」
そう言うと、伝道師は立ち上がる。
「時間?」
「ええ、バレンタインの日が終わりました。とりあえず、もう私がいる必要はありませんから」
「……今回は奴らは現れなかった。しかし近い将来、襲来の兆しを現す事があるでしょう。気を付けてください」
そう言うと、中折れ帽子を取って深く頭を下げた。
「皆さん、お騒がせしました。それでは失礼させていただきます」
そして、帽子を被りなおすと伝道師は振り返ることなく、夜の帳へと消えていった。
「……行っちゃった」
後姿を見て、なななが呟く。
「それにしても、結局最後の理由って何だったのかしら?」
「さあ……? ただの言い訳だったのかもな」
唯斗がぽつりと呟く。
「しかし……愛無き者達、ですか……」
アザトースが考えるように呟く。
――愛無き者達はいずれまた現れる。伝道師はそう言っていた。
驚異的な強さを誇った伝道師が警戒する程の者。もし現れた場合、戦いは避けられないであろう。
だが、その前に皆の心の一つの疑問が浮かぶ。
――『このシナリオ、まさか続くのか?』という疑問が。
残念ながらその答えは誰も知らない。
「イルミネーション綺麗だったねー」
「本当、頑張った甲斐があったわ」
暗くなった空京の街、布袋 佳奈子(ほてい・かなこ)とエレノア・グランクルス(えれのあ・ぐらんくるす)が先程のイルミネーションを思い出していた。
「けど、鐘も鳴らさせて貰えるとは思わなかったね」
「いい記念になったわ」
二人はイルミネーションの飾り付け、点灯等の運営としてアルバイトで過ごしていた。
人が少なく、記念の点灯作業、鐘を鳴らす作業と行ったのは主にこの二人であった。色々と忙しくはあったが、普段できる事でないため佳奈子とエレノアは満足げに頷いた。
「それに結構お給料高かったしねー。帰りに何か美味しい物買って帰ろうか」
「ええ、寒いしあったい物がいいわね……何処か開いているお店あったかしら?」
「……そういえば、今日やたらと爆発するような音鳴ってたよね?」
「ええ、地震みたいなのも多かったけど、他にイベントでもあったのかしら?」
佳奈子とエレノアは知らない。街ではカオスな事が起きていたという事を。
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