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インテリ空賊団を叩け!

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インテリ空賊団を叩け!
インテリ空賊団を叩け! インテリ空賊団を叩け!

リアクション

 
〜 3rd phase【4日前・奔走】 〜


空路で多くの船が行き来するタシガン空峡の一角に誰もが知っている酒場がある

【密楽酒家】……多くの冒険者や空賊の溜り場として愛されている其処は、絶好の休息所であり
大小さまざまな冒険を終えた者や、戦いを繰り広げたばかりの猛者、そして新たな商売を求める者で溢れ
一種の情報交換の場となっている
いつの時代も重要とされるのは情報……ゆえにここで話をする者はそれに飢えた貪欲な者で溢れているのも事実
まぁ正当な意味で休息目的の者も多いが、心はいつも冒険を求めているのは誰も変わらないのである

そんな酒場の一角で、一つの会話が聞こえる
大きくもないが一際通る声でなんとなく他の者にも聞き取れる会話の内容は、商船の護衛の話だった

 「なあ、今回の交易船護衛の話、報酬もかなり良かったのに何で断ったんだ?
  報酬は確かに不自然な破格さだから積荷も相当な物なんだろうし、裏があるかもしれないけれど
  余りにもあっさり断ったから気になったんだよ……何かあったのか?」

いかにも不思議といった態でグラス片手に絡んでいるのは樹月 刀真(きづき・とうま)
相手をしている漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が、だぁって〜と抗議をする

 「運航ルートがおかしいのよ
  見せてもらったけど結構分かりやすかった、あれじゃあ襲ってくれっていっているような物よ
  それなのに空賊に対応するための護衛準備の時間が少なすぎるのよ
  報酬が破格なのは積荷の内容だけじゃ無く、そういう無茶をさせる所も含めてだと思ったの!」
 「確かに準備期間は短かったらしいな
  俺達レベルなら頑張れば間に合ったかもしれないけれど、他の奴等まで準備が間に合うとは限らないか…」
 「私は総合的に見て護衛に参加しても船を護りきれないと判断した
  …出来ない事はやるべきじゃない、そうでしょ刀真?」
 「お前がそう言うなら護りきるのは難しいんだろうな…ん、納得したよありがとう月夜」
 「なんだ、何かの話と思ったらひょっとして4日後に出るっている交易船の護衛の話か?」

彼らの会話を聞きつけ、そこに一人の男が声をかけて来た
名は閃崎 静麻(せんざき・しずま)という

 「俺も断ったクチなんだ。知ってるか?今ここでひっそりと流れてる噂
  ツァンダからタシガンへ大量の何かが運ばれるらしい、それにあわせて護衛の依頼を受けて
  契約者含め、腕利きが何人もここに来ているって話だ」

彼の話に思い当たる節があるとばかりに刀真が乗ってくる

 「そういやさっき、あそこで騒いでた女も言っていたな……
  用途不明の特別便が一隻用意されているとか。どういう事だ?」
 「あからさまに無理この上ない怪しい交易船の護衛と謎の船……か
  破格の額で護衛の求人とは別に、こっそりと腕利きを雇う、確かに感じ悪いわね」

情報を整理しながら月夜が会話を続ける

 「当然、注目を集めるのは前者よね。でももしその謎の船と腕たつ護衛が繋がっていたら
  そっちが本命で、交易船はおと……」

そこまで言って月夜は不意に口をつぐんだ
目の前で刀真が無言で訴えてるのを感じたからだ

 (この場所でそこまで話して良いのか?)

周りを見渡せば何気ない仕草の中に聞き耳を立てている気配を感じる
その様子を見ながら刀真が口を開いた

 「まあどの船って話をしなければ大丈夫か」
 「どの道、俺達にはもう関係のない話さ。まぁ仲良くやりな。ところで……」

刀真の言葉に手をひらひらと仰いで返答してた静麻だが、そこまで言って不意に怪訝に小声で囁いた

(「……なんでお前ら二人、ジュースなんだ?」)
(「強くないんだよ!うっかり酔って口滑らせたくないし!」)
(「私は良かったんだけど、刀真がダメって……」)
(「月夜は酔うとキス魔になるだろ!もっとダメだって!」)
(「……しょうがないなぁ、うちの連れと雷霆なんかああだぞ?」)

溜息とともに静麻が指差した方向を見れば
大瓶片手に盛り上がっている服部 保長(はっとり・やすなが)の姿が見える
どう見ても酔っ払いの騒ぎにしか見えない光景に、心配そうに刀真がたずねる

(「……だ、大丈夫なのか?あれ」)
(「酒で記憶と判断力を曖昧にして、人間の出方を探るんだと
  ついでにそうやって判断が鈍った時に流す情報は真偽関係なく浸透しやすいらしい
  まぁ安心しな……あいつああ見えて大トラだ」)

さりげなくヒソヒソ話を終えて静麻は立ち上がり、扉に向かう

 「ま、ここでは俺の出番も仕事もなさそうだ、次をあたるよ。じゃあなお二人さん」



さて、ここまでで十分わかると思うが3人はすでに旧知の間柄である
初対面同士の様に振舞った理由は当然【情報操作】が目的
あえて別の人間を装い、違った情報を交換するように見せれば
周囲で聞いていた人間は情報を統合して判断する

誘導するべき情報は一つ

【大型交易船がいかにもな怪しさで薄い護衛力のまま大型物資を運ぼうとしている
 しかし、そちらは囮で極秘に動いた所属不明の商船こそ本命の船である事】

これを広げる者
これを聞いた連中がどのようなアクションを取るか観察する者
そこから目星をつけ、例の空賊に関係ありそうな連中にアプローチをかける者

黒崎 天音(くろさき・あまね)の提案の元、現在3つの役割の者が酒場に潜入しているわけで
刀真達3人や静麻のパートナーである服部 保長は第一段階の役割担当なわけなのである
その役割によって広げられた波紋は自然と次の役割担当に委ねられる


そんなわけで雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)は刀真の話に聞き耳を立てていた空賊の男の一人が
誰かにそれを伝えようと動き始めたのを見逃さず、酒瓶片手にアプローチをかけていた

……まぁ誰がどう見ても本音半分以上の色仕掛けなわけで
誘った相手がイケメンだというのも彼女らしいといえばらしいのだが……

 「私、貴方達の船に乗ってみたいわぁ。
  夜明けを船の上で迎えるだなんて、凄くロマンチックだと思わない?」

元々、話を黒崎から聞いたときは
『私より胸の大きい子の言うことなんて聞く気ないわ〜』……とまで言ってやる気がなかった様子だったのだが
最低限の情報集以外は【個人の判断で自由に好きにやっていい】と提案され、今の協力に至っているわけで……

彼女なりに、俄然やる気を出しているのだから、大概の男は堕ちない訳がないのである……多分

一方、そんな彼女に色仕掛けで迫られている男が帰ってこないで
イライラし始めた仲間の様子を見計らい相沢 洋(あいざわ・ひろし)も彼らと接触を図ろうとしていた

 「あんたがド派手に私掠している親分さんかい?」
 「……あ?何だてめぇは?」

あえて直球な単語を織り交ぜながら、相手に間違った言葉をかけ、浅はかさを印象付けながら洋は続ける
もちろん、こんな所に件の親玉などはいるはずもないは承知の上での言葉である
しかし、少しでも関わりのある人間なら【私掠】という言葉が出れば目の色は変わる

案の定、本人は隠しているつもりでも色めき立つ気配は消せるはずもなく、洋は彼らが黒だと判断した

 「いや、すまない。あんたがあんまり強そうだと思ったからそう思ってね
  怒るのも無理ないが……ああ、エリスたちには、あまり手を出さないでくれよ。派手にやってしまうからね」

軽薄を装う洋につられ、声をかけられた者を含め男達が殺気立つが
後ろでエリス・フレイムハート(えりす・ふれいむはーと)が手にしたものを見せ、一気に顔を青ざめさせた
布や装飾で隠されているがどう見ても対戦車ライフルのそれである……正確には光条兵器なのだが

 「洋様、この空賊の頭部にヘッドショットしてよろしいでしょうか?以上」
 「こらエリス、大事な話の前にそんな事したら話にならないじゃないか」
 「……そうですね、わかりました」

エリスが武器を解除する姿に安堵し、一転して大人しくなった男連中の様子を見ながら、洋は話を切り出す

 「簡単な話だ。この腕を売り込みたいのさ
  今ここを賑わせている私掠団なら、どこかの支援組織でもいるのかと思ってね。売り込めれば金になるだろう?」

微かに直球の情報を入れて話す言葉に、空賊連中がどう判断したらいいか迷いはじめる
そこにすかさず乃木坂 みと(のぎさか・みと)が挑発をかけた

 「洋様、空賊にわらわたちの強さを理解できるでしょうか?
  この様な煮え切らない連中などお話になりませんわ」

再び挑発に乗った男の一人が銃を抜こうとしたが、苦悶とともに一瞬で床に崩れ落ちた
みとが放った【その身を蝕む妄執】の効果である。
浅い幻覚で混乱して騒がれても面倒なので一気に強力なのを放った結果の瞬時の出来事だった
それを見て容赦なく微笑んで見せる彼女に、男達は冷静さを失っている様だ

……とはいえ、本来は数の上でも多勢に無勢
強力な武装や魔法で力の有無を見せ付けて動揺させているが、これ以上の力の駆け引きには限界がある
連中からOKを出すには十分だろう……洋はすかさず売り込みを開始する事にした



(予想通り、男が一人酒場を出るようだ、追跡を頼む)

そんな感じで洋が力技で潜入のための売り込みをかけている一方で、その様子を観察している者がいた
叶 白竜(よう・ぱいろん)
薄汚れたターバンを頭から顔にかけて巻き、無精髭と銜え煙草という出で立ちだが
変装前より眼光は鋭くその目は洋が売り込みをかけている一団のすぐそばで一人の男が立ち上がるのを見逃さない
さりげなさを装ってはいるが、その男は去り際に一団の一人と視線を交わし、態々迂回して出口に向かっていくようだ

別の援助勢力への連絡係と判断した叶は、暗号を兼ねたボディーランゲージを駆使し
出口にいる世 羅儀(せい・らぎ)に上の様なメッセージを送った

 「……せっかくお酒が美味いと聞いている酒場なのになあ」

酔わない程度に安い酒を飲んでいた世が、ぼやきながら男を追跡していくのを確認すると
報告の為に、叶は酒場の隅の古びた公衆通信機の方へ向かう
受話器に専用の小型通信機をセットして連絡をとる姿は、一見、普通に電話してるようにしか見えず誰も警戒はしない

 「……各員がターゲットにアプローチを開始しました。
  外への連絡係も動いたようなので連れに追跡させました。予想通りですよ、黒崎」


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 「……報告ありがとう、こちらも準備は上場だ
  港側の協力は順調に取り付けてある。では、引き続きよろしく頼む。叶 白竜」

場所はタシガンの港。多くの船が停泊している港で
黒崎 天音(くろさき・あまね)は通信を切り、目の前にいる高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)に声をかけた

 「【密楽酒家】の方の手はずは順調のようだ。協力組織とのパイプもつなげた事もできたみたいだし
  後は明確な証拠を見つければ、叶が追跡してる連中を押さえ込むことができる」
 「……で、俺は数日後の戦闘でその渦中に飛び込み、証拠を取ってくればいいって事?
  相当乱戦になるんだろ?めんどくさいなぁ……」

頭をぼりぼりかいて鬱屈そうに答える悠司に鬼院 尋人(きいん・ひろと)が話を黒崎から引き継いだ

 「別ルートで協力者は頼んでいるから、やるのは一人じゃない
  突入ルートもオレが切り込んで隙を作るから、それほど無理な事はしないさ
  一般人の混乱もないように、今ここでクリストファーに動いてもらってるわけだしな」
 「んー、まあ暇だし、しょうがないか。あんたに恩を売っといて損はしねーだろうしな、天音」
 「引き受けてくれて助かるよ、悠司」

悠司の返答に黒崎は笑顔で礼を言う
そんな彼等の元に停泊船から降りてきたから二人の男が近づいてきた
クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)である

 「主たる商船の乗組員への説明は終わったよ、黒崎くん
  極力作戦当日は通常で動いてもらう。私掠船の本来意義も理解してもらったから必要以上の動揺はない筈だ」
 「ありがとう、流石は薔薇学といった所か」
 「それでも襲撃の可能性が高い船には我々が乗り込むことでサポートします
  万が一の場合は護衛として戦闘はしますが、その可能性はないでしょう」

クリスティーの言葉に黒崎は段取りがすべて終わった事を理解する

 「仕込みは上場という事か。後は救護班の待機場所の確保、そして例の作戦用の船舶の準備……だな。
  さて……後は、内側からどう攻めていくか……そっちは連中に任せるとするか」
 「小細工も良いが、まずは我々のやるべき事をこなさなければな、天音」
 「はいはい、じゃあ行こうかブルーズ
  高崎、後は頼んだよ。成功したら手作りカレーと言う事で、隠し味はタシガンコーヒーのね」

穏やかに楽しそうな言葉を呟くと、傍らのブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)を連れ
黒崎は鬼院や高崎の後を去るのだった