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インテリ空賊団を叩け!

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インテリ空賊団を叩け!
インテリ空賊団を叩け! インテリ空賊団を叩け!

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〜 4th phase 【2日前・潜入】〜


遠くにタシガンの港を望む崖の入り組む谷間にて
荒くれ者空賊を乗せた小型艇を周囲に飛ばし、警戒をするように潜む大型飛空艇の姿がある

その甲板デッキにウォーハンマー片手に佇む女僧侶の姿があった
エリス・フレイムハート(えりす・ふれいむはーと)である

 「目視にて大型船の姿を確認しました。洋孝様、洋様に報告をお願いします。以上」
 「りょーかい。僕からも見えるよ、随分派手な色だね」

彼女の言葉を受け、言葉と共にうっすらと隣に少年の姿が浮かび上がる
相沢 洋孝(あいざわ・ひろたか)……エリスや彼女のパートナー相沢 洋(あいざわ・ひろし)達と共に
件の空賊船に酒場で売り込みをかけ、潜入する事に成功した者達の一人である

もっとも、彼のみ他の者との接触を避けるために、この様に【迷彩塗装】で姿を隠し
船内に散った洋や乃木坂 みと(のぎさか・みと)達の連絡係を務めている
再び迷彩のレベルを上げながら、洋孝はこれからの流れを確認する

 「あの船がコンタクトの為にこちらにやって来る。で、その時に向うから仲間がやって来るから
  そのサポートをこっそりすればいいんだよね?」
 「その通りです洋孝様。隠れる場所は用意してありますので、その場所の情報を彼らに伝えてください
  でもくれぐれも無理のないようにお願いします。私はここの見張り役から動けないので……以上」
 「大丈夫、任せてよね!」

完全に迷彩が機能し、姿が見えなくなってから程無くして……洋孝の気配が完全に消えた
10歳と言う歳が多少の心配の種ではあるが、問題はないだろう
あとは作戦開始まで、与えられた役割を果たして待機するだけである
手にしたハンマーを床に下ろしながら、エリスは迫ってくる大型船を見つめ、素直に感想を呟いた

 「しかし……赤い船とは目立ちますね。名前は……ふむ【レッドリンクス空賊団】ですか
  それで帆にあの絵……実に直球です、以上」

彼女の視線の先には、はためく帆に赤い山猫の絵が描いてあった……ちょっと可愛い感じで


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 「こ〜んに〜ちわ〜♪レッドリンクス空賊団の団長、エリスよっ!」

………数分後

そんな真紅の飛空艇から、エリス達のいる件の空賊に接触するべく接舷して降りてきた一団
そこの船長と思しき格好の少女は、着くなり元気に目から星が輝くようなVサインをしながらの自己主張PRで
周囲の者を戸惑わせていた

(「あ…あれ?何か言われていた反応と違うんですけど…これ大丈夫なんですか?鳳明さん」)

警戒や敵対のわかりやすい反応ではなく、やや場違い気味の空気に不安になり
当の可憐な【レッドリンクス空賊団】団長茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)は密やかに隣に話しかける
そんな彼女の戸惑いをフォローするべく同じく小声で琳 鳳明(りん・ほうめい)が返答する

(「迷ったら駄目だよ衿栖さん!こういうのは勢い!意外性で攻めれば印象も変わるんだから!
  大丈夫!芸能活動で鍛えた演技力があれば!」)
(「……わ、わかりましたっ!お、思い出せ今の自分の役!
 【楽して儲けたい空賊団の団長!】【楽しく生活したい空賊団の団長】……うわぁ」)

怯みそうになるハードルへの不安をぶんぶんと頭を振って振り払い
再び向こうのペースを与えないように、衿栖はメガホン片手に声を張り上げる

 「最近、と〜っても頭の良い空賊さん達がいるって聞いて〜
  美味しいお話に乗っかりたいな〜って思ってるの!ふふふ、タダでとは言わないわ?」

相手の交渉役の面々が顔を見合わせてどうしようかと迷っている
何だか遠くでウォーハンマーを抱えて睨んでいる女の人からも
【自分と同じ名前でそのテンションなんて心外です、以上】……と心の声が聞こえてきそうだ
とはいえ、空賊達も一風変ったこの一団をただで追い返す気も無い様なので、衿栖船長の交渉は続いていく

 「美味しい話、私も持ってきたの!
  近々この空域を通る交易船が高価な美術品を山積みにしてるって情報よ!
  私としては〜さくっと襲ってさくっと頂きたいんだけど〜
  砲撃とかすると美術品が壊れちゃうかも知れないでしょ?だから……」
 「……なるほど、あんた達は俺らのアレの話を知っているって事か」

交渉役の代表が不適に笑う、しかし目は笑わず殺気を放つ様を見て、鳳明が警戒を強めるが
当の衿栖は臆さず会話を続けるのだった

 「そ!あなた達インテリ空賊団さんの力を借りれば、美術品を壊さずにゲット!
  楽して素敵に儲けちゃわない?取り分は7:3でいいわよ?」
(「ふぇ!?その取り分は台本と違いますっ!何をそんな大きく!?」)

取り分が完全に衿栖のアドリブだったらしく、慌てて鳳明が突っ込みを入れるが衿栖が小声で大丈夫と返答する

(「……こういうのはギャラの交渉で慣れてるから!任せてっ!」)

やや彼女の瞳が緊張でぐるぐるしてる様に見えるが、ここはひとまず様子を見ることに徹する鳳明
一方の空賊側は、数人で話し合いひとまずリーダーに連絡を取っている様子だ
知っている他船の航路情報や裏情報と照らし合わせているらしい、だがその半分以上はすでに情報操作済み
よっぽど一から情報元を洗わない限りは偽情報と判明することは無い

 「……いいだろう、喜べ、俺らのリーダーからも了解が出た
  話を聞こう、手を組もうじゃねぇか……ただし取り分は5:5だ」
 「う〜ん仕方ないかな。これからもお世話になるかもしれないし…宜しくねっ!」

想像以上にスムーズな展開に持っていった衿栖に鳳明は舌を巻く
高い条件を吹っかけてから、相手の要求を呑む……たしかに商談などで有効な手段だ
ヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)が彼女を推したのも
アイドルのこういう華やかさとしたたかさの両方を狙っての事なのかもしれない

そんな彼女が交渉係の挿し出した手を両手で丁寧に握り、握手をする
無意識に出てしまった芸能活動っぽいしぐさに、思わず手を握られた男が口を開いた

 「……ん?なんかあんたどっかで見たような気がするんだが
  確かいるよな?そっくりなアイドル……確か……つ、つんで」
 「【ツンデレーション】かしらぁっ!?よ、良〜く言われるのよね〜。あはははははは〜」
 「……ま、アイドルならこんな所にいないか。
  さて、こちらもこれからの話をしたいんだが……うちはリーダーが用心深くてな
  仲間に裏切られちゃかなわんって事で、一応保険をもらう事になってるんだがよ」
 「……保険?」

衿栖の言葉に当然、といった様子で男が続けた

 「人質だよ人質、仲間の誰かをこっちに寄こせ。何かあったらそいつの命は貰う
  新参者と手を組むんだ、それ位当然だろう?で、誰にするか決めてほしいんだがよ?」


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 「……ならお前が行くといい琳 鳳明。その方が潜入組もやり易いであろう?」
(『はっ!?わ、私が行くの!?』)

【レッドリンクス空賊団】の真紅の大型飛空艇
ラウンジの遥か下に隠された部屋にて……
メティス・ボルト(めてぃす・ぼると)のテレパシーを仲介に届いた鳳明の質問に
当然と言うようにヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)が答え、脳裏に彼女の動揺の声が響いた

 「実力はともかく、外見は一番人畜無害そうだからな。それとも風森にするか?行っておくがアレは目立つぞ?」
(『あ……うう、わかりました。行かせていただきますっ!』)

鳳明の意識のつながりが切れると同時に。くくくく……とヴァルの側で笑い声が聞こえた
シグノー イグゼーベン(しぐのー・いぐぜーべん)である

 「帝王は無茶ぶりばかりするんだからー。でも予測範囲なんでしょう?
  あの可愛い【船長】さんの台本も帝王が作ったって知ったらみんなどうするんでしょうね?」
 「どうもするものか、あらゆる交渉術に長けるのも帝王の務めだ
  案の定、問題なく潜り込む事ができたであろう?シグノーよ」
 「ごもっとも、後は潜入組みに任せて作戦まで仲良くさせて頂きましょうかね?
  しかし、あと2日……ずっとこの部屋に篭りっきりで大丈夫なんスか?」

表向き衿栖が船長であるが、実質指揮はヴァルが担当する
それも相手側には存在を悟られるわけには行かないので、こうやって隠し部屋にいるのである
部屋の構造的に手狭であるのだが、それに動じずヴァルは笑って言葉を返した

 「かまわないさ。敵船に潜入する連中の苦労を考えればな
  さぁお前も持ち場につくといい、シグノー。メティスもレンに報告を頼む」
(『……わかりました』)

脳裏からそれぞれとつながっている意識が途切れる
それぞれがつく持ち場を案じながら、帝王は深くソファーに身を預けるのだった


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 「……で、貴様が新たな潜入担当となったわけか」
 「はい……まぁ仕方ないんですけどね」

数時間語
空賊の母船の小型船用デッキの片隅にて、相沢 洋(あいざわ・ひろし)の言葉に鳳明は溜息とともに答えた

突然とはいえ、必然の任務に気を取り直し
【レッドリンクス空賊団】の船が離れていく中、交渉の連中と船内に入った彼女だったが
本人なりに気を取り直し、手伝う振りをしながら船内調査をしようと相手に提案したところ、ここを案内されたのだ

 「何もしないで過ごすのも暇だし、雑用でよければ手伝うよ?」

……と、早速に目の前で作業していた男に声をかけたところ
それは先に潜入していた洋だった……という経緯である

 「偽装海賊としての接触は聞いていたから問題はない。だがあまり内部潜入者が増えるのも喜ばしくはないな
  立場上あまり私達もフォローはできんが……大丈夫か?」
 「一応護衛を兼ね、調査役で彼もこっそりいるので大丈夫です」
 「……紫月か、まぁ彼なら問題ないだろうが……どちらかというとこっちか」

天井の物陰から隠密の様に存在を主張する紫月 唯斗(しづき・ゆいと)を見た後
洋は足元に転がっているミカンの皮を拾い、デッキの隅に投げつけた
途端に皮はパサッという音とともに中に浮いて止まる
それと同時にうっすらと透明だった空間に一組の姿が浮き上がってきた

 「痛くないけど、何も投げること無いじゃないのさぁ」
 「当然の行為だ!本来なら懲罰ものだぞ。潜入である上証拠を残すな!それになぜミカンなのだ!」
 「だぁって、コタツと言えばミカンだって美空が言うんだよ……」

姿を見せた相田 なぶら(あいだ・なぶら)が頭にのったミカンの皮を取りながら洋に文句を言う
彼が言うまでも無く、何故か彼とパートナー相田 美空(あいだ・みく)はコタツに潜っていた
その姿にますます呆れるシャンバラ将校・相沢 洋

 「潜入に憩いの道具持ってくるとはいい気なものだな
  どれ程の価値があるのか今すぐみとの武装を試してみようか!?」
 「ま、待って!一応これちゃんと【迷彩塗装】してあるんだから、今見えなかったでしょ?
  ねぇ美空もミカン食べてないで何か言ってよ!」
 「………(もぐもぐ)」
 「ちょっ!しゃべるか食べるかどっちかにして!洋さんも銃抜かないで!
  コミュニケーション大事にしてぇ!!」
 「えっと……『タイミングが来るまで隠れて隠れて、どれだけ見つからないかが重要』ですか?」
 「……わかるのか琳 鳳明?」
 「な、なんとなく」

何故か美空のもぐもぐ語がわかる鳳明が続けて通訳した

 「何々…『それまでは、船内のマッピングと敵位置の詮索をやろうと思う』……だそうです」
 「…まぁ役割がわかっているのならいいとしよう」

額を指で抑えて洋が答える

 「貴様達や私の他にも、それぞれのやり方でこの船に潜入してる者も多い
  立場的にまだ動けそうなのは琳か……なら情報の伝達を各員に頼むとしよう
  いいか、作戦は二日後だ。制圧のタイミングを外すと大事な証拠を取り逃がす
  くれぐれも見つからないよう、それぞれの役割を果たすように。それでいいな」
 「………(もぐもぐ)」
 「彼女は今度は何て言っているのだ?琳 鳳明」
 「…『了解、あと折角のコタツの中なのでみかんでも食べて待ちますわ』……だそうです」

洋が手にした残りのミカンの皮を振り上げるのと
なぶら達共々、コタツが【迷彩塗装】で鮮やかに消えるのがほぼ同時だった

ちなみに、同じように【迷彩塗装】を駆使して覗きに来ていた相沢 洋孝が呟いていた言葉を誰も知らない

 「じーちゃんもノリノリだなあ。ま、嫌いじゃないけど」