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第2章 その1


「さぁこっちだ!
 パーティーやヴラドさんの試験は邪魔させないんだもん!」

 魔銃のトリガーを引き、魔ウミウシの誘導を試みる三井 静(みつい・せい)
 噂を聴いてからというもの、ずっと回避策を考えていた。
 餌を調べるとか、ボスを割り出して倒すとか……だがしかし。
 ほかによい案は浮かばず、攻撃をして気を逸らすことにしたのである。

「うむ……」

 三井 藍(みつい・あお)は今回、静のことを見守るだけのつもり。
 なんとか自分の力で成し遂げさせたいとは、親心にも近い心音。
 ただし、静に脅威が迫ればそのときは、容赦するつもりはなかった。

「そのまま、僕の方へ来てよね……」
(自分はいつも、藍に助けてもらっているから。
 たまには誰かの手助けをしてみようかな……って、なんとなく想った気がしたんだよね)

 決意ではない。
 それは、曖昧なキモチ。
 ただ静は、こんなよく分からないキモチを、大切にしたいと想った。

「これだけ離れれば……もう、大丈夫だよね!
 みんな、やっちゃってよ!」
「上出来だぜ、静」

 声を合図に、茂みから樹の影から、一斉に飛び出す仲間達。
 藍に褒められ、上機嫌のままで参戦する。

「折角のパーティーだし、できるだけ邪魔が入らない方が良いよね。
 それに……ウミウシ美味しいらしいし、頑張ろう」

 夜空に一閃、樹月 刀真(きづき・とうま)は刀から雷電を放った。
 予想どおり、効果は抜群。
 ゆえに焦がして台無しにならぬよう、細心の注意を払って。

(私はあの頃の自分に謝らないといけない……本当はずっと、殺しては駄目って言い続けなきゃいけなかったのに。
 今では、殺す事が手段だと言う刀真を肯定している)

 漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)は、銃を放ちながら考えた。
 ともすれば、現在(いま)の刀真が在るのも、自分の所為だと想い詰めてしまう。

(私が刀真を護る為に自分でそうしようと決めたことだし、後悔している訳じゃないけれど。
 その為に諦めたものがあるのは確かだから……)

 この選択が正しかったかどうかなんて、月夜には判らない。
 それでも選んだことへの責任は果たさなければと、刀真と呼吸を合わせた。
 月夜の【稲妻の札】から零れた敵を、刀真が【轟雷閃】で潰していく。
 まずは、1体。

「なんやもんのすごいアトラクションもあってすごいなー!」

 窓外の魔ウミウシに、ミゲル・アルバレス(みげる・あるばれす)は笑っていた。
 この現象を、戦闘も含めて演出だと勘違いしているようである。

「せっかくパーティーだっていうから来たのに……どうしてウミウシがこんなに出て来るのぉ……っ。
 ふぇ……ぬめぬめはもう嫌ぁ……あっち行って、あっち行ってよぉ……」
「まあ、かわいいウミウシねぇ……ふふ。
 これは楽しめそう」

 召還獣を従えつつも、ミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)はおどおどを隠せない。
 たいして雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)は嬉しそうに、魔ウミウシを品定めしてる。

「このパターンは……ふふ。
 あのウミウシちゃんの中にはきっと素敵な能力を持った生き物がいるはずよ……ふふ」
(ふふ、これを食べたら誰かに惚れる……とかなったりしてぇ)
「大丈夫です、ミレイユは必ず私が護ります」
(タコの時は真っ先に助けにいけませんでしたからね……今回はそうならないようにしっかりと守ります。
 この力はあなたを守る為にあるのですから……)
「うぅ……シェイドから離れないようにするよ」

 戦っているすべての仲間のなかでも、とにかく楽しそうなのはリナリエッタただ独り。
 シェイド・クレイン(しぇいど・くれいん)が、ミレイユの瞳を真っ直ぐに見詰めた。
 誓いは、今度こそ果たされる。

「これが魔ウミウシか……興味本位だったけど、ちょっと後悔だな」
「到着早々庭に出てきたくせに、今更だ。
 だからあれほど言っただろ、戦いよりも会話に興じるべきだと」
「なにがってほら、気持ち悪いよな。
 予想以上のカラフルさに触手とかマジで辟易。
 だけど、後の祭りだな」
「まぁ、こうなれば仕方がないか。
 せめて怪我をしないように、精一杯守るぜ」

 笑う九堂 裕也(くどう・ゆうや)に、想わず息を吐くルクシオ・アルブ(るくしお・あるぶ)
 パーティーに誘ったつもりが、パートナーは噂の不思議生物の方に惹かれてしまったみたいだ。

「私も全力でいくぜ!
 ルクシオ、私から離れるなよ!?」
「裕也こそな!」

 互いの生命を預け、ルクシオも裕也も地を蹴る。
 敵と割り切れば、第一印象も少しだけ薄まったから。

「折角のパーティーだしね。
 不粋な魔物を退治するのも、タシガンに駐留してる僕の仕事の1つかな」
「あちらから来るな。
 数は……多いぞ!」
「オーケーやってやろうじゃないか!」
「珍しくやる気を出しているのは良いのだが、その刀、鈍っていては話にならんぞ」

 黒崎 天音(くろさき・あまね)は、コートの襟につけた花のコサージュを一撫でする。
 白いスイトピーの花言葉は、『門出、優しい思い出』だという。
 索敵の結果を、こちらは小声で呟くブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)
 背中合わせに、戦いへと身を投じる。

「先制いただきだぜっ!」
「鎮魂の地に眠りし力よ!
 今、荒れ狂う氷の刃となり我らに仇成す敵を引き裂け!」

 斬り捨て、天音の返す刃は周囲の魔ウミウシを横薙いだ。
 叫びとともに、ブルーズも【ブリザード】を喰らわせる。
 特定の個体を潰すのではなく、ざくざくと歩を進めていく2人。

「見つけた……」

 目的は、魔ウミウシのボスを発見することだったのだ。

「天音、一気にたたみかけるぞ!」
「行ってください、ラルクさん!
 周りは私とブルーズさんで片付けます!」

 同じくボスを狙っていたラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)と、天音は協力体制をとる。
 ガイ・アントゥルース(がい・あんとぅるーす)とブルーズが、サポートにまわる形だ。

「おらよっと……ぶちまけろや!!」
「すまんが、爆弾の餌食になってくだせぇ」

 巨体の腹部めがけてラルクが、激しく拳ラッシュを撃ち込む。
 後方へと跳ぶタイミングを見計らい、ガイは『機晶爆弾』を投げつけた。

「さて、それじゃあ始めるかのう」
「よっしゃあ!」
「いつでも来いってんだ!」

 調理室のベランダに、ルファン・グルーガ(るふぁん・ぐるーが)はスタンバイ完了する。
 助手のギャドル・アベロン(ぎゃどる・あべろん)ウォーレン・シュトロン(うぉーれん・しゅとろん)とともに。
 『博識』を生かして早速、魔ウミウシの調理を始めた。

「ギャドル、そなたはこれをみじん切りにしておくれ」
「了解だ」
「この部位を煮るのは、ウォーレンに任せようかのう」
「わかった」

 パーティー参加者からは、期待と不安の声が飛び交う。
 美味しそうに皿へと盛りつけられるが、ルファンの料理の味は如何に。

「あれ?
 なんかくらーっとぼやーっとしてきたー」

 魔ウミウシを口にしたミゲルだが、どうやら運が悪かったらしい。
 媚薬性が残っていたようで、意識が微睡む。

「おい、大丈夫かよ、ミゲル」
「朝からパーティを楽しみ通しだったから疲れてるんだろう」
「あーほんとや。
 楽しみすぎてシエスタ忘れとってん、疲れたかなあ」
「どこかベンチで休んだらどうかな?
 何かあったら大変だからドミニク、よろしくね」
「え〜ジョヴァンニぃ〜って。
 待てよ……前にもこの様な事が無かったか?」

 パートナーを心配するドミニク・ルゴシ(どみにく・るごし)が、すっと肩を支えに入った。
 ジョヴァンニ・デッレ・バンデネーレ(じょばんに・でっればんでねーれ)も、しかしミゲルのことはドミニクにお任せ。

「ドミニクもいっしょにくるやんな?」
「え、あぁ……兎に角このままにはしておけぬであろう?」
「行ってらっしゃ〜い」
(それにしても媚薬か……懐かしいね、俺の頃にも流行ったなあ。
 相手をモノにしたり貶めたりするのにね。
 ところでさ、周りにはミゲル好みの可愛い子もたくさんいたのに、ミゲルはまっすぐドミニクを選んだよね。
 その『意味』に気づくには……ドミニクもかなり鈍感で不器用過ぎるのかな?)

 しみじみ想いつつ、ジョヴァンニは2人を見送った。
 裏庭へと移動すれば、ちょうど1基の空いたベンチが。
 腰掛けたミゲルは、ドミニクと腕を絡ませる。

「えへへードミニクといっしょやとやっぱ安心するやんなーもうちょっとくっついてええかなあ?
 ほら夜やしやっぱ冷えるし」
「っちょい駄目だと……って、爆睡ですか」
(残念な……いいや、ほっとしているのだろうか。
 ミゲルに初めて逢った日、私は、彼を欲しいのだと思った。
 その 次には彼に、いつか失った愛を求めているのだと悟った。
 でも……本当はこんな、平穏な幸せを望んでいたのかも知れないな。
 安心しきって眠るミゲルの顔を見ていると、どこか私も安心しているのだ。
 今の私はずいぶん、だらしの無い顔をしているんだろうな……)

 眠ってしまったミゲルに、ドミニクは独り想いを巡らせていた。
 いつか、今日よりも関係の進展する日を願って。

「にゃ〜このお酒美味しいよね♪
 刀真大好き〜」
「月夜、酔ってるな?
 いや酒飲んでるんだから酔うのは当たり前なんだけど……お前飲むとキスしまくるんだから、知らない人にするなよ?」
「何よ〜、可愛い女の子にキスされて文句言うなんて……贅沢だぞ〜!」
「そういう問題ですか……」
「大丈夫!
 刀真や玉ちゃん達にしかしないから〜♪」
「ったく……ん……俺も酔っているね」
「くすぐったいよ……」

 ウミウシ料理に舌鼓、庭の一角でもどんちゃん騒ぎが始まっていた。
 抱きついてキスをすれば、恥ずかしくて顔を背ける刀真。
 しかし心に嘘は吐けず、お返しのキスを贈るのだった。