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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 2『今のボクを誰も抜けないんだな』

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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 2『今のボクを誰も抜けないんだな』

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「うーん、おかしいなぁ。どうも攻撃の手が多いように思うんだよね」
 モップスの乗るバイクを視界に捉えつつ、騎沙良 詩穂(きさら・しほ)が小型飛空艇を操縦しながら検討に入る。見た限りでは数台の機影しか見えないのに、少しでも近付こうとすれば無数の応射を浴びる。その勢いは少なく見積もっても十台以上のように思えた。
「ゆる族の得意な技は光学迷彩……バイクまで隠せるほどの力が働いてるのかしら。噂だと前回の事件を引き起こした子が関わってるって話だしね。
 ……いいでしょう、こんな時は『魔法少女しっぽちゃん』にお任せだぞっ☆」
 キラッ☆ とステッキを喚び出した詩穂が、悪意を感じた箇所へステッキを向ける。
「うあちちちちちち!!」
 すると、炎で炙り出されたメンバーが全身火だるまになり、バイクを捨てて地面を転がる。ゆる族だからというわけではないだろうが、よく燃えた。
「さあ、モップス! いい加減に目を覚ましなさい!
 ……というか、あなたも男の端くれならば、こういうのに反応を示しなさい!」
 取り巻きの数を減らした詩穂が、周囲に展開させている結界とは別に、スカートとソックスの間の領域を意識させる振る舞いをしてみる。いわゆる『絶対領域』をチラつかせることで動揺を誘おうというものであった。
「小娘には興味ないんだな。出直してくるんだな」
 ……しかし、モップスにはまったく効果がなかった。あっさりと『ガキには興味ねぇんだよ』と切り捨てられてしまった。
「…………誰がガキだ、小娘だーーー!」
 プツーン、と緒が切れたが如く、詩穂が飛空艇に装備されているミサイルを見境無く発射する。あちこちでちゅどーん、と爆発が生じ、運悪く巻き込まれたメンバーはぷすぷす、と煙をあげて倒れ伏せる。

「あたしに言わせれば、あんたはリンネの所から逃げ出しただけのチキン野郎よね。
 そんなの、自由を勝ち取ってなんかいない。ただ逃げて来ただけで何かが変わると思ってんの?」
「モップスさん……酷使されるだけの日々は、辛いですよね。友達のような、対等な関係として構って欲しかったのは分かります。
 だって……モップスさん、友達が少なそうですから☆ 独りぼっちは寂しいですものね☆ 分かりました、一緒に空京の風になりましょう☆」
「どいつもこいつも、それがどうした、んだな!
 ボクをその程度の罵倒で止めることはできないんだな!」

 モップスを取り巻く者たちの輪が途切れたのを見計らい、茅野 菫(ちの・すみれ)富永 佐那(とみなが・さな)が説得の言葉をかける……実際はトドメを差しているようにも、ただ傷を抉っているだけのようにしか聞こえない発言だったが、しかしモップスは動じる素振りを見せない。どうやらモップスはこれまでも数々の罵倒の言葉や蔑視を受けてきたのだろう。彼の膨れたお腹はそういった時に生まれた負の感情が動力源として詰まっていても何ら不思議ではない。人はどうあがいても絶望しか得られないと分かった時に、絶望を糧にする機能が備わっているそうだが、もしかしたらモップスには既にその機能が備わっているかもしれない。……決して、罵倒されるほど喜ぶ人とは違うのだと思う。
「自分でも分かってるんでしょ? 自分が家事くらいしか取り柄のないやつだってことをさ。
 暴走族のリーダー気取っても、結局自分の力でなったんじゃないし。あんたって結局、いらない子なんじゃない?」
「…………」
 なおも続く菫の“口撃”に、モップスが黙り込む。ようやく効いたか、そう思ったとしたらそれは大きな間違いである。男は口論で反撃できないことが分かった時、黙る特徴があるのだ。それは自分の中にうねる暴力的な衝動を抑え込もうとする無意識の防御反応なのだが、今の場合はそれを押し込める必要はない。五月蝿いならぶっ飛ばしてしまえばいい。
 くるり、と背後を向いたモップスが、どこからか取り出したロケットランチャーを構えると、ためらいもなく菫に向けて放つ。ついに起きてしまうかと思われた惨事は、しかしカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)の介入によってなんとか防がれる。
「モップス、君は芸人でしょ!? 人を楽しませる喜びというのを忘れてしまったの!?」
「ボクの存在が人を笑わせることはあったとしても、ボクの芸で本当に笑ってくれる人なんて、いないんだな!」
 カレンもモップスの説得に加わるものの、こと自分の事に関しては徹底的に結論付けてしまっているのか、モップスは聞く耳を持たない。彼の場合、こうでもしなければ生きていけなかったのかもしれないが。
「あのね、リンネはモップスが出て行った後で、後悔していたよ。モップスの気持ちに気づいてあげられなかった、って。
 だから今リンネは、ミリアと一緒に家事を勉強しているんだ。今ならまだ、やり直せるはず! こんなことはもう止めて、お家に帰ろうよ!」
「……そんなはず、ないんだな」
 しかし、話題がリンネのことに触れると、モップスの口調に勢いがなくなる。パートナーとしての“絆”が、リンネを気遣う気持ちを残させていたのだろう。
「厳しいことを言うかもしれないがな。モップス、お前はまだ本気で戦っていないだけなんじゃないのか? 自分に都合のいい土俵だけで戦おうとして、その場所がないことに嘆いているだけなんじゃないのか?」
「……どういうことなんだな?」
 訳が分からないといった表情を向けるモップスへ、ジュレールの言葉が飛ぶ。
「真の芸人なら、家事でも何でも、できること全てを芸の肥やしにするものだろう。そうして得られたもので戦い抜く、そうして生きていくものではないのか?
 ……まぁ、我も思ったままに口にしてみたものの、よく分かってはいないがな。モップス、お前の気持ちは分からんでもない。我も家事担当だしな。それにお前の場合、リンネが家事の技能が成長する可能性がある分、我よりましな環境だぞ?」
「……ちょっとジュレ、それどういうことー? ボクが家事の全くできないダメっ子ってこと?」
「違うのか?」
「……うぅ、ジュレのツッコミがいつにも増して鋭いよ……」
 胸を押さえてうなだれるカレンをとりあえずは放置して、どうだ? と反応を見るようにジュレールがモップスを見る。押し黙るモップス、今度は純粋に反論できないようであった。

「うちのボスに手を出すヤツは、オレたちが許さねぇ!」
 モップスを取り巻いていたメンバーの一人が、『空飛ぶ櫂シレーナ』に腰掛ける佐那へ攻撃を仕掛ける。流石にモップスの側近を務めるだけあって、忠誠度は高いようであった。
「なんだ、モップスさん、結構お友達いるんじゃないですか。
 そうですねぇ……それじゃ、私はあなた達の相手をしてあげましょう☆」
 言って佐那が、コースが直線になるのを見計らって櫂を加速させ、一気に集団の前に出る。
「そーれ☆」
「うっ、か、身体が……!」
 撒いたしびれ粉の影響で速度が落ちたバイクへ、佐那が櫂ごと体当たりを見舞う。地面を転がったメンバーが起き上がる前に、佐那が首根っこを掴んで起き上がらせる。
独りぼっちは、寂しいですものね☆
 大丈夫、眠りに落ちるまでは、傍にいてあげます」
 ふふ、と微笑み、佐那は背後から組むと腕の外から脇に腕を入れつつ回転し、かつ相手を回転させて自分の背中に相手を向けさせる。両の腕をがっちりと固められたメンバーが最後に見たのは、服の上からはっきりと分かる佐那の形の良いお尻だった。直後、彼は顔面を硬い地面に叩きつけられ、意識を手放す。
「魔法少女とやら、なかなかやってくれる! だが貴様らの足掻きもここまでだ!
 ヘスティア、魔法少女を殲滅するのだ!」
「かしこまりました、ご主人様……じゃなかった、ハデス博士」
 ハデスに命じられたヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)がライフルを構え、抵抗を続ける魔法少女に射撃を見舞う。通常のライフルよりも射撃間隔が早いこともあって、その間魔法少女たちは攻撃に転じることも出来ず、ただ耐えることを強いられた。手を出せない兵士は死んでいると同じ、このまま射撃が続けばモップスの勝利は確実と思われたのだが――。
「……はわわっ、ロケット推力に異常発生です?!」
 突如、ヘスティアの背中に装備されていた飛行ユニットがボンッ、と爆発後、黒煙をあげ始める。飛行ユニットはハデスの魔改造によってレース仕様となっていたが、そこは自称天才科学者、完全に動作するはずもなかったのだ。
「フハハハハ! こんな事もあろうかと、とっておきの一撃を用意しておいたのだ!
 まとめて消し炭にしてくれるわっ!」
 後退していくヘスティアを見遣り、それすらも想定内と言わんばかりにハデスが、機晶爆弾を取り出し投げようとする。
「させないよ……僕の魔弾で君が消し炭になるのさ」
 だが、ハデスの企みはサトミの銃弾が打ち砕いた。一筋の光線が駆け抜け、ハデスの持っていた機晶爆弾を貫く。
「……あっ」
 という間もなく、盛大な爆発がコースを揺るがす。影響を抑えるべく未散が鉄扇で風を起こしながら鉄のフラワシを前方に配置、爆炎と飛んでくる欠片から乗機とサトミを守る。
「ふぅ、なかなか手こずらせてくれたじゃないか。けど、これで残るはあの薄汚いゆる族だけだ!」
 速度を上げてモップスたちの後を追う未散、その背後をデジタルビデオカメラを構えて撮影していたハル・オールストローム(はる・おーるすとろーむ)が満足気な表情を浮かべる。前回の事件の後、公式グッズとして売り出した商品が大好評を博したことで、続編の制作をお願いされたハルは今回も未散に同行し、迫力のある戦闘シーンを収めるべくカメラを回していたのだった。……まあ、ただ撮影していただけではなく、しっかりと二人には加護の力を施したりして、二人が致命的な状況に陥らないよう立ち回ってもいたが。
「いやー、おかげさまでいい映像が沢山撮れました。今回は未散くんもレースに熱中していたおかげか、わたくしが撮影していることに気付きませんでしたし。
 これを編集して、新たな公式グッズとして売り出しましょう……未散くんのために、よりいっそう精進致しますよ!」
 何か精進の方向を間違っているような気もしないではないが、彼は彼でパートナー思いなのだろう、きっと。