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リアクション
一般席に、喧騒から耳を塞ぐようにイヤフォンをした若い男がいる。下を向いて外部付属のアンテナを立てた携帯ゲームを片手に、そこから流れる音を聞いていた。画面のスクリーンショットは車掌帽子を被った可愛い平面の女の子。肌色が多め。
彼の服装もまさに、そんなのが似合うアキバスタイル。厚手のチェックシャツをダブダブなジーンズに入れ込んできっちりベルトを締める。リュックサックは欠かせない。自前の指ぬきグローブも装着している。完璧なコーディネート。
こんなのに話しかける奴がいるとしたら同類しか居ない。だから同類が彼に話しかける。
「奇遇だなこんなところでてめぇに会えるなんてな。”電車男”」
大石 鍬次郎(おおいし・くわじろう)がオタクの横に座る。時代錯誤なダンダラ羽織はいわゆる歴史オタクに思われているのかもしれない。
「ククク……すごい似あってる。まさに電車男だ」
あまりにも嵌っていて、思わず笑ってしまった天神山 葛葉(てんじんやま・くずは)。彼女も和装も歴女に思えなくもない。
斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)のゴシックパンクな格好もその手の者たちが好んでする格好だ。
「クスクス……電車男さん暴れないの?」
一見すればオタク男子に他のオタクが話しかけたようにしか見えないが、そうではない。
この場にいる全員がオタクなどではないと誰が思うだろうか?
電車男はイヤフォンを片耳だけ外して、吃音混じりに話し始めた。
「い、いまいい所。それにに、もう仕掛けおわった、から。」
緊張している感じに、切れ切れに言葉を発する。
「おいおい、せっかく有名なてめぇに会えたのに、いいところは見れねぇのかよ?」
鍬次郎が嘆く。電車男のすることに加勢の一つでもしてやろうかと思っていたというのに。彼の仕事ぶりを拝見したく、狙ってこの列車に乗ったというのに。
そんな彼らに朗報が告げられる。
「だい、じょうぶ。まだスタンプ一つ目。」
電車男は名の通り、電車オタクでもあった。世界中のすべての列車に乗ったことがあり、乗った列車全てに痕跡を残すギークだ。
「じゃあ、後いくつ押したらカードは埋まるんだ?」
鍬次郎の問に、ニタニタと電車男はイヤフォンの音量をいじる。
「後、2つでコンプリート。」
イヤフォンから流れる悲鳴を聞きながら――
――、貨物列車から後方運転車両へ
「裕輝さん! ほんとうに大丈夫?」
鬼久保 偲(おにくぼ・しのぶ)はやきもきしていた。瀬山 裕輝(せやま・ひろき)が運転席を見てみたいと言い出し、本当に見に行こうとしているのだから困っていた。
「後ろならええやろ? オレやて運転の邪魔はせぇへん」
「そういう問題じゃないでしょ? ハァ……また厄介な」
モウここまで来たら諦めるしか無いかなと、偲。
新台の列車とあって、列車の形も風変わりだった。特に独立した運転車両の形は奇抜で、湾曲したフロントガラスが頭上の空を映し出すようになっていた。なら、内装もさぞ凝っていることだろうと、裕輝は浮き足立っていた。
運転車両に入ると、細い通路が続いていた。動力室と他の車掌の待機室も兼ねているため、通路は細くなっている。誰も居ないのかやけに静かだ。
「車掌は巡回中か? そんなら遠慮無くご開帳するで」
運転席の扉を開けた。
人が血まみれで死んでいた。
「人が死んどる……!」
服を脱がされ、胸をえぐられた男の死体が運転席に寄りかかるように座っていた。
「ちょっと、何アレ……」
偲はフロントガラスに血で何かが書かれているのを見た。
そこには「@@@」と印されていた。
そこは殺人鬼”トレインジャック(電車男)”の犯行跡地だった。
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