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空が見たい!

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空が見たい!

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「偵察にいったドワーフが言うには、ドラゴンは村から離れた場所で休んでいるらしい」

 長老のところに戻ってきたドワーフの話を聞きに言っていた七尾。
 彼らによると、近くのモンスターを食い荒らしたあと鍾乳洞の奥へと戻って行ったそうだ。
 鍾乳洞の奥はモールドラゴンが住み着いているいわば家であり、そこに戻るということは休息を取りに行く時だとドワーフたちは言っている。

「ふむ。どこまで正しいかは分からないがこれは好都合だ」

 七尾の話を聞いてメシエが口角を上げる。

「今日もみんな疲れが溜まっているようだ。丁度向こうも休んでいるようだし、こっちも今のうちに休息をとってドラゴンとの戦いに備えておかないとね」

 ただ闇雲にドラゴンと相対すればいいというわけではない。
 必要最低限しか扱っていないとはいえ、高い機晶技術を持ったドワーフたちを長年苦しめてきた相手だ。ドワーフたちもドラゴンについてそこそこの情報は持ってる言っても、実際何が起こるかわからない。
 そんな状況に万全の態勢で挑めないというのは、勝てる戦いも自ら負けに行くようなものにすら思えてしまう。

「少しでも準備する時間が取れたほうがいいだろう?」
「それは……そうだが」

 七尾もこんなところでいつまでも留まっていたくはなかった。
 ジーナが――大事な人が地上で待っているのだ。
 七尾にとっての太陽、それを目指すためにもこんな薄暗い地下でいつまでも鉱石を掘るだけの生活から抜け出さなければならないのだ。
 たとえそれが命を懸けたものであったとしても、七尾には一生ジーナに会えずにこのまま地下で暮らしていくくらいなら、到底かなわないと思う相手にでも立ち向かって死んでしまったほうがマシにさえ思えた。
 死ぬつもりも、ずうっとこの薄暗い地下で暮らしていくつもりもないけれど。

「さ、あなたもそろそろ休んでください。明日は忙しくなりますよ」

 七尾と分かれた後、メシエはエースの姿を探して村の入口まで来ていた。

「おや、来たのかい?」
「えぇ。どうですか? 外の様子は」
「ちょっと様子を見てきたけどいい具合に入口もふさがれているし、大丈夫だろう。ドラゴンが休息のために自分の巣に戻っていったのはラッキーだったな。これで多少時間が稼げる」

 交代でドワーフたちが見張りをするから明日に備えて休んでくれと告げられ、メシエとエースは部屋に戻ることにした。

「明日は気合入れないとなぁ」
「おや、やる気だねエース」

 ゆったりと散歩でもしているような感じで機晶ランプで薄く照らされた道を歩く。

「私がサイコメトリを使えば、どこが地上に繋がっているかすぐに分かるかも知れないよ? そうしたらわざわざドラゴンと戦う必要性なんてどこにもなくなるんじゃないかい?」

 メシエが意地悪く告げる。

「考えなかったわけじゃないよ? でもね、助けてもらった恩もあるし、俺たちが何もしないでただ帰ったんじゃ気が引けるからね。幸いなことに落ちてきたのは俺たちだけじゃないから、ドラゴンの一匹くらいどうにか出来ないほうが問題だろう? 協力し合えば、どんな問題だって解決できるんだ」
「そうか」

 メシエはふふっと笑ってから、すたすたとエースを追い越して部屋へと帰ろうとする。

「これだから人間は面白い」
 ぽそりと呟いた言葉はエースに届くことはなく、地中にすっと吸い込まれた。