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リアクション
堪りかねたグレンが思わず機外スピーカーで叫んだ直後、別の搬入路から機外スピーカー越しの声が響いた。
『……到着』
『待たせたね! 手伝いに来たよ!』
AFI−DRGが首を巡らせた先にいたのは、大型ブースターを装備したジェファルコンタイプだった。
『ジェファルコンだ! ってことは、天御柱学院の人かな?』
グレンが問いかけると、それに答えるようにジェファルコンタイプのコクピットが開き、中から茶色のロングヘアと頭部を覆う様に巻いたバンダナという恰好の若者が出てくる。服装が天御柱学院の制服であるあたり、グレンの見立て通り、天御柱学院の生徒とと見て間違いなさそうだ。
「僕はお察しの通り天御柱学院から来た十七夜 リオ(かなき・りお)。そんでもってあの機体は僕がカスタムしたメイクリヒカイト‐Bst、コクピットで今動かしてるのは相棒のフェル――フェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)。よろしく!」
早口に自己紹介を終えたリオに未沙が駆け寄ってくる。
「あたしは朝野美佐、今の所、一応ここを仕切ってるよ! こっちこそよろしく! 来てくれてありがと!」
同じく早口に自己紹介を終える未沙。未沙の自己紹介をちゃんと聞きながら、それと並行してリオは既に周囲をざっと見回して状況を把握していた。こうした所作一つ一つに感じられる場慣れした雰囲気から見るに、このリオという生徒が整備士として相当な熟練者であることが伺える。
「教導団の施設だから、天御柱学院の僕が、施設内の設備――ハンガーや機材等や人員に対して、勝手に使ったり指示出したりするのは、命令系統の混乱防止や教導団側の機密情報の漏洩防止もあるだろうから不味いね……と思ったんだけど、それどころじゃないみたいだね」
ざっと見たリオが理解した限りでは、そもそも命令される側の整備班がこの特設整備スペースにはいないのだ。いるとすればアサノファクトリーの面々だが、彼女たちは自分で最適な判断を下し、自立して動けるからそもそもその必要がないのだ。
「救援に来てくれた人の為に、そういった面倒ゴトを回避する目的でこの整備スペースが用意されたんだけど、教導団の人間でこっちに来れたのはあたしたちアサノファクトリーだけ。他は教導団本校や最寄りの別施設で教導団員オンリーの整備班で受け入れてるよ。まぁでも、他にも受け入れ先があるとはいえ、全然捌ききれてないから、こっちにも大量に回ってくるけどね!」
未沙から聞いた事情に頷くと、リオは手早く提案していく。
「状況がどう転ぶか判らない以上、最悪を想定していこう。ぶっちゃけ現状の五機を撃退できたとしても、増援の可能性もあるし、次の狙いがここになるかもしれない。時間も資材も有限だからね。修理が必要なのは破損状況に応じて、損害が軽微なものから優先的に修理だ」
『……出来ればそういう事態にならなければいいけど』
機外スピーカーを通してフェルクレールトも相槌を打つ。
そうこう話していると、また一機のイコンが戦線から戻ってくる。だが、今度戻ってきたのは教導団の制式採用イコンではなく、天御柱学院のイーグリットだった。
「イーグリット! また懐かしい機体だね! 大丈夫かい!」
戻ってきた所でその場にへたり込むようにして停止したイーグリットに駆け寄ったリオが訊ねると、コクピットハッチが開いて一人の青年が出てくる。その青年が着ているのは教導団の制服だった。
「教導団の人だったんだ。でもどうしてイーグリットを?」
「天御柱学院から教導団に転校してね。その時、ずっと乗っていたコイツに愛着が湧いてたから一緒に連れてきたってわけだ。で、直せそうかい?」
「共用パーツだけで組上げてんじゃないんだ。修理するつったって、教導団の施設に他校イコンのパーツが十二分に揃ってるはずないだろ!」
問いかけられてそう答えたものの、リオはすぐに自信に満ちた堂々とした物腰で付け加える。
「ま…なきゃないで工夫するのが整備士の腕の見せ所だけどな! ……フェル! 各坐してる機体は横にどかして! このイーグリットを修理するスペースを開けるよ!」
『……ん、了解。あの資材コンテナごと運べばいい?』
背後で愛機のコクピットに控える相棒に指示を飛ばすと、リオはイーグリットのパイロットに再び訊ねた。
「ここまでぶっ壊されてると、修理するよりも乗り換えた方が早いぜ?」
するとイーグリットのパイロットは一瞬の躊躇もなく即答する。
「たとえネジ一本になっても俺はコイツを修理して乗り続ける――俺にとってコイツはただの機械じゃない、一心同体の相棒なんでね」
すると今まで不機嫌そうな目つきをしていたリオが破顔し、まるで別人のような笑みを浮かべる。
「気に入った! 待ってな! 僕が二秒で直してあげるよ!」
『……ん。了解。流用の聞きそうなパーツ……もらって、くる』
「フェル! 無理せず無茶していくよ!」
パーツを取りに行ったメイクリヒカイト‐Bstの足音とリオの気合十分な声が整備スペースに響き渡る。それらをかき消さんばかりの豪快なエンジン音を響かせながら、一台の輸送用トラックが整備スペースへと入ってきた。
「お待たせしませしたー」
入ってきたトラックが停車し、中から降りてきたのはカーキ色のツナギ姿にポニーテールの髪型が印象的な少女――笠置 生駒(かさぎ・いこま)と、その相棒であるジョージ・ピテクス(じょーじ・ぴてくす)の二人だ。
「生駒くん! 君たちが来てくれたとは心強い!」
二人の到着に気づいたリオは歓喜の声を上げる。
「フェル! 生駒くんたちと協力してこのイーグリットを直すよ!」
その声を受けてパーツを運んできたフェルクレールトとも合流した生駒が作業を始めてから、その現象は起こった。
かなりのダメージを受けていたはずのイーグリットは常識的に考えればあり得ないほどの速さで修理されていく。
生駒は普段の眠そうな顔からは想像できないくらい真面目に迅速に修理を行い、パートナーであるジョージを驚かしていた。いや、ジョージだけではない、その場にいた者たちが皆一様にその鮮やかな手際で行われる超スピード作業に見入っていた。修理技術もここまで来ると、もはや魔法に近い。
「はい、これで完了です。次の方どうぞー」
瞬く間にイーグリットの修理を終えた生駒は、もう次の機体の受け入れ態勢に入っていた。
「す、すげェな、あんたたち……ま、おかげで助かったぜ!」
コクピットからリオや生駒たちに敬礼すると、件のイーグリットのパイロットは再び戦線へと復帰していく。
それを見送りながら、整備班の面々は次の作業へ取り掛かった。