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【第一話】動き出す“蛍”

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【第一話】動き出す“蛍”

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 ヒラニプラの荒野に一世一代の狙撃が鳴り響かせた銃声が轟き、その残響までもが完全に鳴り止んだ頃。
 白竜と羅儀の駆る枳首蛇、政敏とカチュアの駆る黒月、そして庚とハルの駆るソルティミラージュは下半身が地面にはまったまま機能停止している敵機を取り囲んでいた。
『ニキータ、凍結剤が間に合って良かった。おかげで助かりました。それと政敏も』
 白竜が枳首蛇の機外スピーカーで二人に告げる。
 ローザマリアによってメインエンジンを寸分の狂いもなく撃ち抜かれた敵機はしばらくの間、残存エネルギーで動き続けていたものの、やがてその動きも少なくなってきたのに合わせてコクピットブロックをポッドとして射出し、脱出を図ろうとしたのだ。
 おおかた、それと同時に機体を自爆させようとしたのだろうが、それもニキータがトラックで運んできた大量の凍結剤と、黒月が残っていた機体エネルギーを全て注ぎ込んだ冷凍ビームによる強力な凍結攻撃によって阻止されていた。
 今や敵機は飛び出そうとした脱出ポッドが結局飛び出さないまま機体に埋まり、ポッドを射出する為に装甲面へと設けられたハッチが半開きになった状態で、全身を凍結されて文字通り固まっていた。
『このような事態に備え、パワードスーツを用意してきています。敵パイロットの回収はこれより私が――』
 機外スピーカーを介して白竜が仲間たちにそう伝えた直後、羅儀が割って入る。
『待て白竜……! 何だかわからねえけど、何か嫌な予感が――』
 羅儀が白竜を制止する声が辺りに響く。声に交じって羅儀が白竜の肩を掴む音も聞こえてきた。
 そして、羅儀が白竜を制止する言葉を言い終えないうちに、それは起こった。
 中途半端に射出されかかったまま機体に埋まっていたコクピットが突如として凄まじい閃光と大音響を放出しながら爆砕したのだ。
 落とし穴という半密閉空間であったことに加え、凍結されたことでさしずめ『寝た』状態になっていた他の自爆装置も『起こされる』ことになったようで、諸々の条件が重なり合って相乗効果を起こした爆発は雪だるま式にその破壊力を増していき、閃光が晴れた後にはあれほどの頑強な巨体を誇っていた敵機が完全に消滅していた。
 これだけの威力の自爆装置なのだ。もし、羅儀が制止していなければ今頃、白竜も敵機と同じように完全に消滅していただろう。
『ウソだろ……イカれてやがる……』
 枳首蛇のコクピットからスピーカーを通して聞こえてくる羅儀の声はもはや放心状態一歩手前のそれであり、唖然としている表情がありありと目に浮かぶようだ。
 メインエンジンと同等、あるいはそれに次いで厚い装甲に守られている箇所――それがコクピットだ。
 ゆえに、機体外装を凍結されてしまったことで自爆装置が休眠状態となった中でも、厚い装甲に守られたコクピットならば凍結の影響はまだ少ないかもしれない。
 そして、自爆装置を休眠状態にされた機体を自爆させる方法は簡単だ。
 凍結の影響の少ないであろうコクピット内に、通常のものを遥かに凌駕する破壊力の爆薬を満載し、それを他ならぬコクピットの中で爆発させればいい。
 それさえ行えば、後は簡単だ。
 コクピットは機体の中心部に据えられていることが少なくない。機体の中心で起きた爆発は、機体各所に仕込まれた休眠状態の自爆装置も巻き込んで盛大に大爆発を起こし、機密情報を何一つとして残さずに機体を消滅させるのだ。
 ただし、爆心地が必然的にコクピットとなる以上、パイロットの事を度外視する必要がある――という前提条件は付くが。
 最初から自爆を目的とした戦術を前提としているならともかく、脱出ポッドが射出されようとしたのを見るに、少なくともパイロットに脱出する気はあったようだ。パイロットの脱出も想定の内に入れた設計でありながら、コクピット内に爆薬を満載するなど正気の沙汰ではない。加えて、通常の自爆装置を凌駕する破壊力。あれを見る限りでは、相当な量の爆薬が満載されていたに違いない。それこそ、壁や天井……コクピット一面にぎっしりと爆薬が敷き詰められ、パイロットは最低限の身動きしかできないほどに。
 それを考え、改めて敵機の異常性に戦慄する羅儀、そして白竜であった。