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【第一話】動き出す“蛍”

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【第一話】動き出す“蛍”

リアクション

 垂の雄叫びが戦場に響き渡る中、すかさず悠のウィンドウがポップアップする。
『調子は戻ったようだな』
 やはり淡々とした表情と声。だが、心なしかその表情と声は微笑んでいるようにも感じられる。
「おうよ! 心配かけてすまなかったな!」
 垂の返事は今しがたの雄叫びに勝るとも劣らない豪快なものだ。
『構わん。なら――仕掛けるぞ』
 改めて合図を送る悠。先程とは違い、垂はそれに微塵の迷いすら無い心で応える。
「おう! 今更出し惜しみなんてしねえぜ!」
 垂の応答とともに武器を構える光龍とスマラクトヴォルケ。それに合わせるようにして、また新たな通信用ウィンドウが光龍とスマラクトヴォルケのウィンドウにポップアップする。
『ならばその作戦、俺たちも援護させてもらおう』
 通信を通して敬一の声が聞こえたのに合わせて、パワードスーツを装備した歩兵二人がそれぞれ対イコン用の大型火器を構え、敬一の斜め左右へと進み出る。
『カタクラフト隊、全機前進!』
 隊長たる敬一の号令とともに隊員である淋とコンスタンティヌスの二人が手元に残ったありったけの対物榴弾砲――パンツァーファウストを連射する。
『了解しました。パンツァーファウストを使います!』
『この場こそが正念場と心得た。ならばこの場にて死力を尽くすのみ!』
 とどめとばかりに隊長の敬一も二人と同じく持てるすべてのパンツァーファウストを叩き込む。
『全火力を以て敵に総攻撃! カタクラフト隊の底力を見せてやれ!』
 パンツァーファウストを撃ち尽くした三人は遅滞なく別の重火器に持ち替えると、またも躊躇なく全弾を発射する。それを繰り返し、およそ歩兵が行使可能な中では最大級の火力を叩き込んでいくカタクラフト隊。その総攻撃を前にしても敵機は今までと変わらぬ強固な防御力を誇っていたが、カタクラフト隊には一つの作戦があった。
 何を隠そう、最初のパンツァーファウスト連射から今に至るまでカタクラフト隊は一貫して敵機の右膝部分だけを一点集中的に狙い続けていたのだ。作戦は功を奏し、敵機は被弾部分の装甲にダメージが無いにも関わらず、焦ったように右膝をかばおうとして、なりふり構わず前屈みになる。
 そして、その時を待っていたように敬一はヘルメット内蔵のマイクに向けて叫んだ。
『今だ! 朝霧機! 月島機! 同時攻撃を開始されたし!』
 先に動いたのは光龍だ。大形ビームキャノンを放射するとともにエネルギー切れになったビームキャノンを放棄。直後にツインレーザーライフルを連射しながら敵機に向かって高速接近し、すれ違うように敵機を通過すると同時にノイズ・グレネードを放り投げ、そのまま背後からツインレーザーライフルを撃ちながら上昇する。
「行ったぞ! 月島!」
 垂の光龍に続き、悠のスマラクトヴォルケもほぼ同時に動き出す。光龍のビーム射撃に合わせて敵に向けて移動を開始し、ミサイルとガトリングで牽制攻撃しつつ最大加速で直進していく。
『計算通りだ』
 光龍の後ろから敵機に接近し、先に敵機へと接近した光龍が攻撃と上昇を終えた瞬間にスマラクトヴォルケも敵機に接近しながらブレストクレイモアを全弾叩き込む。
『畳みかけるぞ、朝霧!』
 上昇した光龍が降下近接攻撃を行うのに合わせて、スマラクトヴォルケは下から打ち上げるようにパイルバンカーの一撃を敵機へとお見舞いする。
 そして、その攻撃とタイミングを合わせるように垂はコンソールを操作した。
「バッテリー最大出力、機体各部、および光条サーベルに全エネルギー伝達……いっけぇぇぇっっ!」
 裂帛の気合いとともに垂がエンターキーを叩くと、それに呼応して光龍の光条サーベルの柄部分から光の刃が形成される。
「これで最後だ……全部、持っていきやがれぇぇぇっっ!」
 千載一遇のタイミングで接近した敵機へと、光龍はほんの一瞬にも満たない僅かな時間――0.5秒間だけ出現する光の刃を全力で振り抜いた。
 縦一閃。唐竹割のように振り抜かれた光条サーベルは敵機の右半身を鮮やかに斬り落とす。斬り落とされた右半身は敵機本体から離れた為か、自爆装置が作動したらしく、凄まじい閃光と爆音を生み出して消滅する。
「これが……俺の切り札だ」
 着地と同時に光条サーベルの刃は消え、光龍もエネルギー切れで関節の動きを停止する。
 だが、その一方でまだ敵機はかろうじて動いていた。
 内部機構を断面から垣間見せ、所々からスパークを弾けさせながらも、頭部とともに残った左半身で光龍に襲い掛かろうとする。
「咄嗟に身をかわして即死を避けたか……この賭け、どうやら外したみ――」
 小さな声で垂が呟くと、それをかき消すように大きな声が割って入る。
『諦めるのはまだ早い! その勇気、この私――ハーティオンが決して無駄にはしないぞ!』
 その宣言と共にグレート・ドラゴハーティオンが光龍の前に立ち、まるで敵機から庇うように立ちはだかる。
『鈿女、こちらハーティオン。今こそグレート勇心剣を使う時だ!』
 ハーティオンは通信を送っているらしく、どこからか返信された声も一緒に光龍のコクピットに聞こえてきた。
『了解。安全装置は解除したわ。後はあなたに――すべて任せるわね』
『うむ!』
 鈿女からの通信を受け取った後、グレート・ドラゴハーティオンは巨大な剣を抜き放つ。
『行くぞ! グレート勇心剣!』
 グレート・ドラゴハーティオンは巨大な剣――グレート勇心剣を大きく振りかぶると、敵機の至近距離へと全速力で飛び込む。
『必殺! 彗星一刀両断斬りーっ!!』
 勇気の心とともにグレート・ドラゴハーティオンはグレート勇心剣を振り下ろす。グレート勇心剣を振り抜き、彗星一刀両断斬りの勢いも消え入らぬまま、前方に向けて十数メートルはスライディングしたグレート・ドラゴハーティオン。その背後で敵機は大爆発とともに消滅したのだった。