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リアクション
(もう、空を自由に舞うことは出来ないのかもしれないけど……)
(……泣かないで、泣かないで、怖がらないで)
(少しでも苦しみが和らぐよう、安らぐよう、祈りをこめて……)
ティー・ティーとイコナ・ユア・クックブックの優しい想い。
(私達は敵じゃない。貴方の眠りを守りたいだけ。争う事以外にも道はあるはず。争いたくない。貴方にもう一度深い眠りを。そして幸せな夢を、安らぎを……)
杜守柚の真っ直ぐな想い。
(心を鎮めて。声を聞いて。気高き魂よ、どうか私の声に応えて。本当のあなたを、取り戻そう? 今、私があなたの全てを受け入れるから……。どうか、私の声に応えて…!)
天禰薫の気高き者への想い。
(――千年王!)
そしてエンヘドゥの信じる想い。
それらが重なり、交じり合い、音楽となって聖堂の中に響き渡る。
豊穣なるカナンの大地を想起させる歌は、魔術の力を借りて、確かなビジョンとなって千年王や契約者たちの目の前に広がっていく。
『アアッ、アアアアッ……!』
殺風景だった聖堂から辺りの風景が一変し、小鳥が囀り、木々がざわめく草原となった。
その光景を目にした千年王は、あきらかにいままでとは違う意志をその目に宿し始める。
「……千年王よ、久しいな」
と、風がそよぐカナンの大草原の空にティフォンの姿が現れる。
それを見た千年王はサウザンドソードを支えにして立ち上がり掠れた声でつぶやいた。
『オ……おまえハ――』
「どうした、そんな驚いた顔をして? まさか、この顔を見忘れたのか?」
『アッ、アアッ! ティ、ティフォン! ティフォンかァ!』
千年王は、窪み落ちて干からびた眼球にほんのわずかながらの涙を浮かべる。
彼は完全に正気を取り戻した。
「千年王様!」
と、突然後ろから声が聞こえ、千年王は後ろを振り向く。
するとそこには、彼の部下だったものたちの姿があった。
それはルシェイメア・フローズンが千年王の墓前に供えた墓守たちの生前の姿だった。
『オオッ、オオオッ……おまえたちッ!』
「千年王よ、我らは最後まであなた様と共にあります」
『……その言葉だけでもありがたい。我はいい部下をもった』
千年王はそういうと再び空を見上げる。
『ティフォンよ、カナンがこのように平和であるということはあの戦いは……』
「そうだ。もう終わったのだ、千年王」
『やはりそうか……終わったのか』
千年王はそういうと、口元に笑みを浮かべる。