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水晶の花に願いをこめて……

リアクション公開中!

水晶の花に願いをこめて……
水晶の花に願いをこめて…… 水晶の花に願いをこめて……

リアクション

 
〜 二日目・午後2時 〜


 「わーい、みんなでお出かけなのだ!」
 
陽も上に傾き、正午を迎える頃から次第に来訪者が増えてくる中
祭壇に向かう林道を歩く一行の一人、天禰 薫(あまね・かおる)は元気に手を振って声をあげた

昼食の為に、丁度人の流れも戻る者が多くなるから、向かうならこの時間が今日は良い
……そんな仲間の熊楠 孝高(くまぐす・よしたか)の予想がうまく的中したのか
半ば観光地と化していた件の森も、少し落ち着きを取りもどして団体行動に適した具合になり
共に歩く後藤 又兵衛(ごとう・またべえ)黒衣 流水(くろい・なるみ)だけでなく、直前で同伴を提案した二人
アサルト・アーレイ(あさると・あーれい)トリノフェザー・ソアリングリー(とりのふぇざー・そありんぐりー)も心地良さそうに歩いている

6人連れが見事二組ずつ組み合わさって動いている姿は誰がどう見ても【集団デート】だし
無論、彼らの大半はそれを自覚しているのだが……
先頭を上機嫌に歩いている薫は【みんなでおでかけ】という自覚しかないらしい、まぁそれも全員承知である事だが

 「薫さんと熊さんはわかっていたけど、まさかアサルト兄様達まで来るなんてね
  賑やかで楽しいけど……ちょっと残念って気分になってない?又兵衛さん」
 「別に……つるんで動くのはいつもの事さ、向こうは向こうで好きにやってればいい
  まぁ……あれだ、熊はちょっと不憫な気もするけどな」

先に進む薫と孝高の様子を見て、心配そうに隣の相手に問いかける流水
だが又兵衛もいつもの薫たちの様子に慣れっこなのか
さほど気にも止めない……といった具合で、いつものぐうたらを維持しながらのんびりと返答をする
だがあまり前に聞こえるように言うと、前を歩く忍者に『御苦労なのはお互い様だろう』と言われそうなので
少しだけ声色を抑えたのは彼だけの秘密である

 「流水、あんたと出かけるのは久しぶりに感じるな……てか、ずっと会っていなかったもんな」
 「そうね……私、今日をずっと楽しみにしてたわ」
 「ああ、俺もだ」

他愛ない会話にお互い胸を暖かくする又兵衛と流水

何だかんだ言っても、愛する人とこうして共にいる日を心待ちにしていたのは又兵衛も同じなのだ
なまじ一方的な想いではなく、共に相手を想い合う仲な分だけ自分の方が勝っているかもしれない
正直かまってられないのだ、取り巻きが増えるのも構ってられない程に
時々無邪気な主様が自分や流水に飛びついたり腕に絡まったりしてくるが、それを彼女も楽しんでいるので
それすら逢瀬のイベントの一つ、という一回り器の大きい愛情を目下発動中なのであった

祭壇も丁度人気がなくなった様子で、周囲に森を散歩してる気配はあるものの、6人以外の姿はなかった
途中、警護をしていると言った雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)達の姿を見かけたが
観光客並の人の多さに、すっかり祭壇警護から森の誘導警備になってしまったらしく林道から離れられないようだった

そんな祭壇の前に最初に立つ又兵衛と流水の二人
ここまでの道中が貴重な逢瀬だった事もあり、又兵衛としてはこのままゆっくりと目の前の水晶を眺めていたいのだが
どうにも流水の連れであるアサルトとトリノフェザーの目線が気になってしょうがないので、仕方なく願い事を考える

 「流水は、この水晶に何か願う事はあるかい?
  俺はちょっぴりあるかな……あんたと、出来ればずっと一緒にいたいなって」

奥手気味にもったいぶると大事な事を言い逃しそうで、さりげなく自然を装いながら又兵衛は願いまで一気に言う
一応、何度も言った覚えのある言葉なので変じゃない気がしたのだが、黙って自分を覗き込む流水に顔をやや赤くさせる

 「う、嘘じゃあないぞ」
 「わかってるわよ
  実はね………色々悩んだけど、私の願いも同じなの……ずっと一緒にいたいって」
 「そうか」

今日が過ぎると、またお互い忙しくなるからこうしていられる時間も少なくなる
この一分一秒に価値のある時間……それが同じだった事を知り、二人は恋人としての笑みを交わす
この前の前科もあり、遠くで見ている【自称兄貴様】が剣呑な顔で視線を向けているのがわかるが知った事ではない

 「……好きだよ、流水」

又兵衛はそっと隣の流水を抱きしめると、抵抗せず体重を預ける彼女の唇にそっとキスをした



 「ああああああ、あの野郎!また流水にあんな事をっ!この前に懲りず二度までもっ!」
 「まぁまぁ、ここでそんな声出すと、それこそ人の恋路になんとやらだよ、どうどう」

そんな又兵衛達の光景に、案の定色めき立つ兄貴分のアサルト・アーレイ
指差しながらギャーギャー騒ぐのをトリノフェザーがにこやかに宥め、飛び出しそうな暴挙を止めていた

 「せっかくこういう期間限定お楽しみスポットに来たんだから、楽しむところは楽しむのが筋でしょうよ?
  100パーセント、アサルトさんだって流水様の監視だけでここに来てるわけじゃないでしょ?」
 「ば、バカ言うな!俺はあいつが心配だし、お前がだったら一緒に行かないかっていうから仕方なくだな……」
 「しぶしぶの割には準備早かったよね?」

羽根つき剣士の楽しげな突っ込みに、ぐっと返答に詰まるアサルトさん
それでも悔し紛れにそっぽを向いて顔を見せないようにしながら呻くように苦し紛れな言葉を吐く

 「べ、別にオレはトリプルデートのつもりなんかちっともないんだからなっ!」

完全にツンデレ全開な台詞に爆笑をこらえ肩を震わせるトリノフェザー
リア充全開なマスターとお連れ様が祭壇から戻ってくるのを見ながら、強引にアサルトの手を引っ張った

 「ほらほら、せっかくだから俺達も何か願い事をしないと!」
 「いや待て、オレは願い事なんか別に」
 「あそ、じゃあ俺だけ先に行ってくるよ、待ってて」

ずるずると連れて行かれそうな予感に抵抗をするアサルト
だがその予想に反し簡単にその手はぽーいと手放され、すたすたと誘い主は言ってしまう
それはそれで寂しいものがあるのか、離された手と先行くトリフェノザーの後姿を何度か交互に見た後
ワザとらしい咳払いとともにアサルトは彼の後を追いかける

 「………ま、まあ、せっかくだし、俺も、お願いしとくかな!」

その姿をちらりと見て、かっわいいなぁ〜と笑いをかみしめるトリフェノザーの願いが
【ずっと、アサルトさんを好きでいられますように】という事と
それを追いかけるアサルトの胸中が

 (こ、こんなやつだけど、そばにいないと寂しい、し
  そうだな【トリがずっと俺のそばにいてくれますように】とか、頼んで見ようかな?
  な、何いってるんだオレ、あんなやつのこと……)

……という完全ツンデレ葛藤モードだという事を知るのは、目の前に浮かぶ水晶の花のみである



 「ふあー、すごいね、すごいねぇ。
  願いが叶う水晶かあ……いいないいなぁ、ロマンチックだねぇ」

何やら祭壇から少し離れたところで、土産代わりに……と、奏輝 優奈(かなて・ゆうな)が配っていたレプリカと
アサルト達が佇んでいる祭壇の上の本物を交互に見比べながら薫は目をキラキラさせてはしゃいでいる

願いが叶う、と言うシチュエーションがロマンチックだなぁと思うところは、さすが女の子
だが一向にそこから先に思考が進まず、きゃーきゃーとはしゃぐ姿は基本子供の上に超鈍感だなぁ……などと
目下、誰がどう見ても【恋人同士】、だが肝心な片割れが気づかない故に【永久非公認】という悩み多き男
熊楠 孝高26歳(苦労ゆえか外見年齢30歳)は慣れきった現状にそっとため息をつく

 (本音を言えば【天禰が俺と『恋人同士』と言う自覚を取り戻してほしい】と願いたいのだがな)

などと切ない胸の内を飲み込み、想い人の背中を温かく見守っていたのだが……
そんな薫の様子に、ふとした疑問が浮かんだのではしゃぐ彼女に声をかけた

 「天禰、お前は何か願い事をしないのか?」

その言葉にぴくっと背中を反応させる薫。僅かに沈んだ声色で彼女は返答する

 「うーん、でも我は願い事をしていい子じゃない気がするから、やめとくのだ」
 「……何を、言っているんだ?」

孝高の言葉に今度は彼の方を振り向き、少し寂しげに微笑みながら薫はもう一度同じ意味の言葉を繰り返す

 「我に願いは必要ない……我なんかは、願ったら、いけないのだ………」
 (そうだった、天禰はこういう奴だった!)

無邪気に潜むどうしようもない自分の【傷の痛み】に対する罪のような意識
薫の中にあるそれを知っていながらも、その根の深さを痛感し、それを念頭から外していた自分に孝高は舌打ちする
誰よりも【願い事】に対する憧れを抱き、それを持つ仲間達の為にこの様に皆と出かける事を提案しながら
自分自身をその中心に置かない……それは完全なる【渇望】の裏返しに他ならない

今まで何度も見てきたその寂しげな笑顔……過去の記憶と今目の前にあるそれを重ね合わせ
孝高はひょいと薫を抱え上げ、すたすたと祭壇の方に足を進め始めた

 「ひゃっ!?よ、孝高!なにをするのだ!降ろすのだ〜!」

腕の中でじたばたと暴れる薫、だがその腕はけっして彼女を降ろす事無く、二人の前に祭壇が近づいていく
どうやらいつの間に先客がいたようで、何やら探偵じみた格好で水晶を覗き込んでいた女性に孝高は声をかける

 「すまない、先に少し、いいか?」
 「あ、カップルさん?いいわねー、どうぞごゆっくり」

そう言って場所を譲った彼女に軽く頭を下げると、祭壇の台座の前にそっと薫を降ろす
行為の真意がわからず、薫が言葉に詰まっているのを見ながら
孝高は静かに、それでいてはっきりと強い意志で彼女に語りかけた

 「お前にだって、願う資格はある。願いを叶える力だってある」
 「で、でも……」
 「ここは誰もが等しく願いを言葉にできる場所だろう?
  お前が失うものに怯え、手を伸ばすことも何かを望むことも恐れている事はもう知っている事だ
  だが今位、俺達がこうして傍にいる時位、普通に求めることを声に出したっていいんだ」
 「孝高はやさしいから、すぐそうやって我に言ってくれるのだ……それで我は十分なのだ」
 「違う!俺はそうやってお前を慰めたいんじゃない!俺はっ……!」

この場が、それともみんなで出かけたこの時間がそうさせるのか
いつにない苛立ちとともに声を荒げてしまう孝高、それを耐えかねたのか、たしなめる声が背後から聞こえた

 「あの〜ちょっといい?結構おっきいかもよ?……声」

見れば先ほど場所を譲った探偵姿の女性だった、ちょっと困ったような笑顔で周囲を気遣い口に人差し指を立てている

 「あ……す、すまない、何なら先に……」

第三者の介入に、ようやく自分らしさを取り戻すと同時に、柄にもなく孝高は赤面して場所を譲ろうとした
その姿に彼女霧島 春美(きりしま・はるみ)は軽く顔の前で両手を振って返答する

 「ううん、いいのいいの、別に催促とかじゃないから……でもちょっといいかな?」

そういって上半身だけ二人の前にずいっと進めると、春美は水晶の花の一か所を二人に向かって指をさした
それは水晶のスイレンがひと際輝きを放つ部分……だが一見複雑な模様に見えるそれはよく見ると欠けた傷だった

 「ほら、この水晶見えにくいけど中に小さな傷があるの
  今も綺麗に見えるけど……ちょっとそこで見ててね」

そう言って彼女が水面に浮かんだそれを僅かに動かし、木漏れ日に傷を当てる
するとどの様な屈折のカラクリか、傷を中心に水晶から漏れた光が虹の色彩とともに万華鏡のような光彩を放った
思わずそれに見とれる薫と孝高を見ながら、春美は言葉を続ける

 「さっき気が付いたんだけど、光を入れてやると綺麗な虹が出るの
  研磨技術じゃこんな光絶対に出せない、傷がこうやってもっと何かを綺麗にする事もあるのね〜」

そう言うと再び半身を戻し、祭壇から離れる探偵少女

 「ちょっとカップルさんに見せたかっただけ、お邪魔して悪かったわね。お二人ともお幸せに」

ウィンクと共に去る春美の後姿を、薫は呆然と見つめる
だが何の脈絡もないように見えた目の前の光景が、それでも何か自分を温かく包み込むような気がして
薫は花の周囲に浮かぶ光の万華鏡に目を落とす
その光が目から溢れる何かにぼやけ、その理由に気が付く前に……彼女の体を抱きしめる孝高の腕があった

 「お前の痛みはきっと……すぐは消えないものだ、だがそれを知って俺はお前と共に在りたいと思ってる
  だから、弱気にならないでくれ…もし、お前が弱ったときは、俺が必ず傍にいる……忘れないでくれ」
 「うん……ありがとうなのだ、孝高」

その腕にそっと重ねる薫の手を感じて孝高は思う、今この共に有る姿があれば今はいいのかもしれないと
彼女がその背負っている寂しさを手放し、世界を無邪気に心から駆け出せる事が、多分自分の一番の望み

 (……それまでは『恋人』に戻るという願望はお預けだな)

そう胸の内で苦笑した孝高が、薫の口から出た言葉に再び目を瞠るのはあとほんの少しだけ先の事になる


 「わ、我の願い………言っていいかな?……………孝高」


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 「……なんというか、見事なものねぇ、それも探偵業に必要なのかしら?」

ひょいひょいと足取りも楽しげに帰ってくる探偵服の少女の姿を迎えながら
雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)は少し遠くに見える祭壇で繰り広げられた顛末に溜息をつく
そんな彼女に軽くVサインで返答する探偵少女・春美である

 「真実を追い求める行為は、常にロマン溢れるものなのですよ、ワトソン君?」
 「いつから私は助手になったのかしら?どちらかというと依頼主の立場に近いはずだけど……で、どう?」

ジョークをあっさりと切り返しながら、彼女が来た目的の結果を尋ねる雅羅
その問いに目にかけていた【天眼鏡】を外しながら、うーんと考え春美は再び言葉を返す

 「魔力付加や呪術的価値がないってのは認めるわ、そういう点では研究グループが手放したのも当然よね
  でも水晶……いや石英って普通の物でも圧電作用やクォーツなんか有名なんだよね
  そういうパルス……波動的なものと魂って近いって学術研究もあって
  昔から情報や魂なんかを記憶していたなんて眉唾な話も沢山ある……多分調べれば資料が出てくるはずよ
  多分みんな魔力研究の方でしか調べてないと思うけど、私はそっちに近いと思うなぁ」

同じ水晶製の【天眼鏡】を陽にかざしながら、春美の言葉は続く

 「元々魔法が皆無だった地球の方で昔からある説だからね〜
  案外このパラミタの方ではそういう不思議な力がある物があって、そういうものの一部が地球にいって
  そんな話が広まって行ったという考え方もロマンチックな気がする……ちょっと蛇足だった?」
 「いえ、でもそうなら……もう少し誰かのスキル検索に反応してもいいと思うのですけど……」
 「うーん、そこなんだよね」

雅羅の傍らで、春美の仮説に疑問をぶつけるアルセーネ・竹取(あるせーね・たけとり)
確かにここを訪れた者の中には何人も好奇心と共にスキルサーチをかけた者はいたのは事実
だが昨日ここに来た黒崎 天音(くろさき・あまね)を筆頭に未だ水晶の神秘を見つけられた者はいない
学園だけでなく来訪者から尋ね聞いた資料のメモをめくりながら思案に暮れる春美

 「多分、神秘よりは科学寄りな考察の方がいいのかもしれない
  今最初に言った説じゃないけど、石特有の波長的な分析から調べればいいかもね
  まぁまだ少しだけ時間はあるし、調査を重ね、私の観察眼を駆使して
  マジカルホームズ素敵な物をこの世に残してあげよう、ふっふっふ」

何やら一人やる気を漲らせる探偵改め【マジカルホームズ】
また助手呼ばわりされる事を危惧して、先にもう一つの別の疑問を投げかける雅羅である

 「水晶の神秘はとりあえずいいとして……もう一つ【祭壇そばで人影を見た】って噂の方
  多少証言があるんだけど、そっちの見解はないの?そっちは天音もいろいろ調べようとしていたけど」
 「あ?それ………それなんだけどねぇ………」

拍子抜けするほど、ロマンオーラを引っ込めて返答する春美に目を丸くする雅羅とアルセーネ
だがとりあえず聞かないと話が進まないので、そのまま黙って彼女の見解に耳を傾けるのであった