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水晶の花に願いをこめて……

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水晶の花に願いをこめて……
水晶の花に願いをこめて…… 水晶の花に願いをこめて……

リアクション

 

〜 三日目・午前8時時 〜


この時間の半紙を進める前に……一日目の夜中の、とある部屋に少し時間と場所は巻き戻る

無人故に静かだった部屋の扉がゆっくりと開かれ、入ってくる一つの影があり
程無くうす嫌い部屋の中をすすす〜と移動していく
明らかに忍び的な侵入っぷりであるにかかわらず、妙に堂々と誇り高い【怪盗】の様な雰囲気を醸し出しながら
その影は、部屋の奥に置かれている箱にたどり着いた

 「ふ……見つけたぜ……【パンドラの箱】!」

やや古ぼけた人の上半身ほどの大きさのその箱には、何やら星座のようなレリーフとペガサスの彫刻が彫り込まれている
その一面の、天馬の口にあるリングに手を伸ばし、そっと影が引っ張る
途端、重い軋み音とともに箱の四面が開き、中央に天馬の形のように組み合わせて収納された甲冑一式が現れた
薄暗い灯りのない部屋を照らすような、鎧からの淡い燐光に映し出された影……もとい弥涼 総司(いすず・そうじ)の顔
それは神秘のお宝を見つけ出すにしては、やや男性特有の欲望を求める強い意志が瞳に漲っていた

 「ククク…これがフリュ……いや、孤高の女空賊が装着した闘衣…まさに聖なる衣…」

下世話な筈の鼻息ですら何か堂々と感じさせる程のオーラとともに、その鎧【天馬星座の闘衣】に触れようとしたその時
背後から叫び声とともに雷光が迸った

 「ペガサス天空流星脚!!」
 「ガードしろ、ナインライブス!!」

背後から飛んできた【雷霆の拳】の威力をまとい流星の如きに飛んできた蹴り
それを総司は馴染みある【鉄のフラワシ】もとい【ナインライブス】で受け止める
その危険予知のタイミングは、彼の技量というより馴染みあるタイミングを感じさせ、その理由は攻撃の主が彼のパートナー
という事でより明白になる……まぁわかりやすく言えば【毎度の事】である

そんな閃光の蹴りの主であり、この部屋の主でもあるロドペンサ島洞窟の精 まりー(ろどぺんさとうどうくつのせい・まりー)
いつになく怒りの小宇……もとい闘気を漲らせ、びしいっと総司を指さし叫んだ

 「S・H・I・T!!
  強大ナエロスヲ感ジテ来テミレバ……ソノ手ヲ除ケテ下サイ総司ッ!闘衣ヲ装着スル事ハ許シマセン!!」
 「……ふ、装着だと?低俗だな、身につけて悦に浸るなんて下らない行為をこの俺がすると思ってるのか?
  この俺がこの闘衣に求めるのはもっと相応しい……」
 「モチロン、レロレロシタリ、クンカクンカスル事モダメデスヨッ!」
 「…………ちっ」

自分の言葉に先手を打たれ、舌打ちする総司
まぁ彼の行動はいつもの事だし、その迷いないリビドーに突き進む姿は見慣れてはいるので
まりーとしては、そこが絶対に許せない……というわけではない
だが、この今彼が触れようとしている【天馬星座の闘衣】は彼女の想いが深い大切なものなのである

ある事件で、囚われた憧れの【タシガンの空を駆ける孤高の某女空賊殿】を助ける為、まりーは彼女にこの闘衣を貸した
その後、何故か妙に気に入られたのか、数度に渡り自分と彼女の間を行き来してるこれは、本々彼女に纏ってもらう事が
夢であったこともあって、もはや何物にも代えられない宝となっている

その想いを、いつものリビドーの一つとして触れてほしくない事
強いては彼女の手に渡る前には見向きもしなかったこれに、執拗に興味を持たれたことも含め
まりーは、いつになく許せない想いを抱き、総司を睨みつけていた

しかし、そんなまりーの想いを知らず……否、知っていたとしてもそんな事で引き下がる総司でも、ない

 「漢にはそれでもやらねばならん時があるんだぜっ……!」

……と、再び闘衣に手を伸ばす彼の姿に、完全にマリーの怒りのコス……もとい闘気は爆発し
即座に【倍勇拳】のモーションがペガサス星座の軌跡を描く

 「ペガサス双玉粉砕破ッッッ!!」

流星群のように拡散する攻撃を一点のエネルギーに集約する【鳳凰の拳】スキルによる超強力な攻撃が
狙い澄ましたように総司の股間に吸い込まれ、凄まじい衝撃とともに部屋から彼を吹き飛ばす
名前からも容易に想像できる、対総司用に編み出され修錬された威力は凄まじいもので、被弾した箇所がどうなったかは
筆舌に尽くしがたいので表現を伏せざるを得ない
……それでも安い漫画のスケベキャラの様にみっともない悲鳴を上げないあたり、彼の情熱とプライドも見事なものである

 「……き、貴様っ!剣士から剣を奪うような……そんな卑怯な武器破壊技をっ!!」

彼なりの誇りに直接攻撃をぶち込むような攻撃に、総司は総司で怒り心頭らしく、眼だけは死なずにまりーを睨むが
そんな廊下で【orz】な体勢をとる彼を見下すと、まりーは部屋の扉を勢いよく閉めたのである


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そんなこんなで、双方引くに引けない険悪な膠着状態がずっと続き今に至る
総司の方はわからないが、数日が経って冷静になれば落ち着くところも落ち着くので
まりーも自分が何に一番怒ってるのかは、だんだんわかってはきた

長い付き合いで、あの夢魔あたりに吸い尽くしても吸いつくせないような総司のリビドーは承知なので
考えてみれば彼らしい行動は、実にいつも通りで、制裁を緩める事はないにせよ、ここまで怒る理由などはない
ただ……彼女としては一点だけ腑に落ちなかったのだ

【自分の不在を狙って忍び込んだ】……という堂々としてなかった彼らしからぬ行動が

今更それを聞くのも蒸し返すどころが、こじれれば怒りの再沸騰を自分で止められる保証はない
そんなわけで燻り続ける煮え切らない感情を引きずり続け
話を聞いた雅羅に呆れられながら仲直りの説得を受けるついでに
森のスイレンの水晶の話を聞いたまりーは
せめてそこに位あやかってみようと、朝早くからお願いに参上したというわけである

……まぁ正直に言えば、昨日あたりから森の周りをうろついてはいたのだが……


【コスプレしたら願いが叶った】という謎の噂と
喧嘩の発端なら収束もあやかりたいという理由で早々に【天馬星座の闘衣】を着用して森に入ろうとし
警護役だったヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)杜守 三月(ともり・みつき)に逆に戦闘目的と警戒された中
何事かと駆け付け、その姿と知っていた事情からここに来た理由を悟った雅羅が仲介をし
ようやく今、祭壇の前にたどり着いたまりーさんである

わざわざ朝早くを選んだので、三日目とはいえ他の来客の姿はなく、事を珍しげに伺う警護役の姿しか周囲にはない
目の前に見える祭壇を共に見ていた雅羅が、まりーに問いかけた

 「ちゃんときっかけを掴もうと来たのは褒めてあげるわ、でも彼にはここに行くって言った?」

彼女の問いに無言で首を振るまりー、それを見て雅羅が苦笑する

 「……じゃぁ、お願いがちゃんと叶うように一つだけ私からアドバイスしてあげる
  ほんっと、あなた達って似た者同士よ……ここまでの選択とかね」

遠回しの言葉の真意がつかめず、首をひねっていると、視線で控えめに雅羅が林道の方を見ろ……と促した
ますます訳が分からず促された通りに視線を移動したまりーの目が、少ししてわずかに見開かれた
目を凝らして見える遠くの樹の蔭に、何やらシルエットが見える……こっそり様子を伺うそれは見慣れた姿をしていた

 「……総司?」
 「ヴァルから聞いたわ、あなた昨日から森の周りをうろついていたんでしょう?
  その時からあの影はあったんだって、何だかんだ言って向こうも心配だったんでしょうね」
 「……ダッタラ、隠レテナイデ出テキタライイノニ……」
 「じゃあ、あなたもここに来る事、彼にわなかったんでしょ?なぜ?」
 「………ア」

そしてようやく気がつく、今自分が聞かれた感情と、総司が今隠れているそれと、あの時こっそり部屋に入り込んだ心理
それが根本で同じだ……という事に

 「だから似てるって言ったの。さ、あと少ししたら人の足も増えるからはっきり言うなら今のうちよ、じゃあね」

安心したように、目の前から立ち去る雅羅を見送った後、改めて祭壇にむけてまりーは足を進める
祭壇の上で揺れる水晶の花を恥ずかしげにつついたあと、両手を腰に引いて大きく息を吸い込む
眼は水晶を見据え、まるで剣士が一撃を放つように一度にありったけをぶつける如く、大きな声で一気に願いを叫んだ

 「総司ト仲直リガシタイデスーッ!」

ざわぁっ……と、その声量に驚いた鳥たちが、木々から一斉に飛び立つ
瞬間の静寂に吐き出した息を吸うと、祭壇に一礼し迷いなく背を向けた

見るとその声量に驚いたのか慌てたのか、めったに見ない呆けた顔で総司が林道から飛び出していた
刹那、しっかりと二人の眼が合い……今更ながら願い主は赤面する
その姿を見て、無言で踵を返す彼女のパートナー

だが、しゅんかん彼の口が呟くように動いたのを見て、まりーはニコッと笑って彼に追いつくように走り出した


その口は確かにこう言っていた


 【帰ろうぜ、早くこっちに来いよ】………と