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リアクション
第3章 幽霊inお祭り
「はぁ……」
境内の片隅で、エースがため息をついていた。
(一体君は何を見てたんだ! 綺麗な女の子に綺麗な花を渡して綺麗な笑顔を貰った。それなのに、何が不満なんだ!)
「だって……」
エースの内部にエース自身の声が響く。
その声に、不満そうに呟くエース。
「どうも様子がおかしいと思ったら、君、エースじゃありませんね」
その様子を見ていたメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)がどこか呆れた様子で指摘する。
「すみません……」
エースの姿をしたモノは、申し訳なさそうに頭を下げる。
そして、自分が幽霊なこと、綺麗なモノを見ないと成仏できないことを説明する。
「はあ、全く……なんだって君はこんな面倒なことに首を突っ込むんですか」
目の前の幽霊ではなく、エースに向かって大げさに溜息をついてみせるメシエ。
「ところで、何故、女の子の笑顔や花じゃいけなかったんですか?」
「あれは、この体の持ち主に向けられたものですし……」
幽霊が言うには、自分自身ではなくエースに向けられた笑顔は、まともに見るのは申し訳ないということらしい。
「全く、面倒な人ですね……そうだ」
苦笑しながらも、何か思いついた様子のメシエ。
「どうしました?」
「まあ、夜まで待ちなさい」
※※※
「晴江、どうした?」
「何かの、気配がする…… それもたくさん。混沌とした……」
「むう……?」
龍滅鬼 廉(りゅうめき・れん)は、お祭りに来るつもりはなかった。
それは、パートナーの勅使河原 晴江(てしがわら・はるえ)も同じ。
霊の気配を察知した晴江は、それが多い場所、多い場所へと移動して行き、結果的にお祭り会場に到着してしまった。
「なんとゆう霊の数じゃ。できれば、これらが成仏する手助けでもしてやりたいが…… む、おぬし、どうした?」
「……ふっ。助けるつもりが、取り付かれてしまいました!」
「むむ!?」
常日頃の廉とはあまりにも違う口調。様子。
言葉通り、廉は、幽霊に取りつかれていた。
「し、仕方ないのう……お主、一体何の未練があるのじゃ」
「恋がしたい」
「は?」
「燃えるような恋がしたい……って、言わせんな!」
「言わなきゃ分からぬわ」
「それもそうだ!」
なんだか取り付きがたいテンションでツッコミながら語る幽霊の話を、晴江は居心地悪そうに聞いている。
「しかし、恋愛か……」
それは、明らかに二人にとって不得意なジャンル。
「仕方ない、同じような無念を抱いた霊を探してきて、あてがってみるとしようかの……」
「あてがうって!」
大声で晴江の言葉を反復しつつ、どこか嬉しそうな様子で晴江の後をついて歩く廉の、幽霊だった。
「むう、具体的に、どうすればいいのじゃ……」
「とりあえず、おっぱいを揉ませてください!」
「な・ん・じゃ・とぉう〜?」
リタリエイター・アルヴァス(りたりえいたー・あるばす)に取り付いた霊の真っ直ぐな要望に、神凪 深月(かんなぎ・みづき)の瞳が険しくなる。
「ですから、おっぱいを」
「もう一度言ってみるといい。この破邪滅殺の札と悪霊退散で、即座に強制成仏させてやろうかの」
ぴらぴらと、指に挟んだ札をちらつかせる。
「も……申し訳ありません!」
飛び上がった後、ずざざざざー。
見事なジャンピング土下座を決めるリタリエイターに憑いている霊。
「ええ、止めんか! リタリエイターの姿のままそういう事をするでない!」
大切な家族の体をいいように使われ、深月の怒りは更に深まる。
「いやあの、少しで、ほんの少しでいいんです。エロい目にあえれば」
「だからリタの姿でそういう事を口にするなと……」
伏し拝む幽霊にぶつぶつと文句を言うと、今度は『エ ロ』と書かれた半紙を見せてくる。
「はあ、仕方ないのう」
「それでは!」
「……わらわの胸で良いなら、自由にすると良い」
「い……いただきます!」
「だからそういう事を言うなと」
諦めた様子で目を瞑る深月。
その胸に、そっと、リタリエイターの小さな手が伸びる。
むに。
「んっ」
むにむにむにむにむに。
「んっ……んぅ……て、手が……」
「いただいております!」
「手が、いやらし……っ……んんっ」
「ご馳走様でした!」
突然、胸の圧迫が軽くなる。
心から満足した顔をしているリタリエイターの体が、淡く発光する。
霊が成仏しようとしているのだ。
「……そ、それで済むとは思わないことじゃ!」
ぽわり、と光がリタリエイターから出た次の瞬間、深月の手の破邪滅殺の札が閃く。
『も・ぎゃぁあああ〜っ!』
光は悲鳴と共に召されていった。
「あ、あんな風にせねばならんのか……」
そんな深月と幽霊の様子を呆気にとられて見つめていた、晴江。
「いやいやいや。エロと恋は違うから」
隣りの霊のツッコミに若干慣れてしまった自分を鼓舞しつつ、晴江は成仏の術を求め境内を彷徨う。
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