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リアクション
運命の第三試合が始まり、隊長が勢いよくボールを打ってくる。
無限が必死に受けたボールをエヴァルトが勢いよく打ち返し、隊長の顔のすぐ横を勢いよく飛んでいった。
「バカめ、アウトじゃないか」
「インボール!」
ピッとホイッスルが鳴り響き審判の声が響き渡る。
「なに?!」
隊長が慌てて後ろを見れば確かにライン上にボールは当たっていた。
ボールの一部分がラインに触れてさえいれば大幅にラインを超えていたとしてもそれはインボールと見なされる。
「やった!」
入るはずがないと思っていたポイントが入り、隊長は少しずつ焦り出す。
再びサーブ権を勝ち取ってからは取るか取られるかの攻防が続き、ラリーの時間はどんどん長くなっていった。
「なぜだ……そんなバカな……」
13―14と隊長たちを引き離し後一点というところまでリードした無限たち。
息を乱し、腕ももはや上がらないだろうというのに。
「あと一点取ったら俺たちの勝ちなんだよな?」
ぜいぜいと荒い息を整えるようにエヴァルトが吐き出す。
汗を拭い、力強く頷いて無限が答える。
「そうだ。あともうちょっと。あと少しで俺たちの勝ちだ」
なんだ。一体何だっていうんだ。
「なぁ、あれ……」
「うん。ちょっと見てられないよな」
ギャラリーからひそひそと声がしているのに隊長が気付く。
一体何のことかと辺りを見回せば、多くの視線が隊長へと集まっていた。
なんだ、なんなんだ!
「あんた、まだ気付いてないのか?」
「何のことだ? いいからさっさと試合を続けろ」
本当にいいのか、と無限が聞くがいいからさっさと始めろと審判すらも煽って、半ば強制的に試合を再開させる。
「なあ、あんたは誰と戦ってるんだ?」
フリーゾーンに立ったエヴァルトはボールを受け取って隊長へと尋ねた。
「見れば分かるだろう。無謀な戦いを挑んだお前らに決まって――」
「俺が聞いたのは、戦ってる相手じゃなくて、『誰と一緒に戦ってるか』だよ!」
ひゅっとボールを上に飛ばし、落ちてくるボールを勢いよくコートへと飛ばす。
「ふん、そんなボール簡単に――」
ぐに、という感触とともに隊長はバランスを崩して地面に倒れこむ。
どしゃりと倒れた場所には、一緒のチームだったはずの他の親衛隊が転がっている姿だった。
「ゲームセット!」
審判の声が響き渡り、呆然と自分のチームのコートを見つめる隊長。
親衛隊の二人は倒れこんでぜいぜいと荒く息を吐き、雪女郎はコートの端でびくびくと震えていた。
「俺たちはな、仲間と一緒に戦ってた。それがチームだ。でもお前はどうだ?」
無限が千結の赤くなった両手をそっと撫でて立ち上がる。
「ずっと一人でボール飛ばして。四人もいるのに、まるで四対一だ。そこの雪女郎だって、怯えてるのにどうして気付かなかったんだ?」
ぐっ、と言葉を飲み込んで隊長はぎりりと拳をきつく握り締めた。
「約束どおり、海は帰してもらう。もともとあんたたちが独占していいものじゃない」
力なく返事をして隊長は拳を緩め、静かに無限の横を通り過ぎた。
「――たとえどんなに昔のあんたがすごかったとしても、今のあんたに隊長の資格はない」
「……あぁ、そうだな」
二人にしか聞こえない会話を交わして隊長は挨拶もせずに背中を向けて歩き出す。
突然、今までにないほどの大きな声を上げて、雪女郎が隊長を呼んだ。
「さっきは、ちょっと怖かったけど……今日までありがとう! すごく楽しかった!」
雪女郎の言葉にピクリと歩みを止める隊長。
「でも……教えてもらったけど、まだビーチバレー勉強不足だから……来年は、もっといっぱい教えて! また皆で遊ぼうね!」
ぽろぽろと大きな涙を流しながら、雪女郎は大きい声で今日まで側にいてくれた男へ感謝の気持ちを述べる。
最後こそ嫌なやつに徹してしまっていたが、本当はいい人なんだと雪女郎はわかっていた。
このまま行かせてしまったらもう二度とありがとうも、ごめんなさいも何も伝えられずに会えなくなってしまうのではないかと感じたのだ。
こんなふうに思う日が来るなんて。誰かがいなくなることが寂しいと感じるなんて。
久しく忘れていた感情に雪女郎は涙をこぼす。
それでも振り返ることなく後ろ手に右手を振って、隊長は海を後にした。
かくして、浜辺は自由を取り戻したのだった。
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