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デート、デート、デート。

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デート、デート、デート。
デート、デート、デート。 デート、デート、デート。 デート、デート、デート。 デート、デート、デート。 デート、デート、デート。

リアクション


●水色の甘い夢

 ――夏と言えばプールでデート☆
 声を限りに叫びたい。
 けれど遠野 歌菜(とおの・かな)はその気持ちを抑えた。きっとそんなことをすれば、月崎 羽純(つきざき・はすみ)をひたすら恥ずかしがらせるから。下手をすると怒らせて、先に帰られてしまうかもしれない。それは避けたかった。人混みを嫌がる羽純を熱心に説得して、二人でスプラッシュヘブンへ繰り出すだけでも一苦労だったのだ。
「人口密度は爆発的ではないとはいえ、それでも相当な人出だな……」
 到着早々、ブルーの水着姿の羽純は、多少なりとも辟易した顔をしている。まだなにもしていないというのに疲れたような表情だ。
 でも大丈夫、歌菜だって無計画に来たわけじゃない。いやむしろ、孔明の罠だと騒ぎたくなるほど(?)に念入りの下調べして作戦を練ってきたのだ。手はずをとくとご覧じろ、である。
「羽純くん、じゃああっちに行ってみない? 人が少ないみたいだよ」
「そうか……確かに少ないが、ウォータースライダーだの波の出るプールだのといった人気アトラクションとは正反対だぞ」
 いいのか? と彼は言った。羽純なりに歌菜のことを思いやっているらしい。けれどむしろ、これから向かう方面こそが、歌菜の希望だとは気づいていないようだ。
「いいのいいの♪ 羽純くん人混み苦手なのに、来てくれたんだもん♪」
「そうか、まあ人が少ないほうが楽は楽だな……」
 歌菜が手を引いたこともあり、彼は彼女の目論み通り歩き出した。
 意味ありげに椰子の木陰、人工ながら背の高い草木、これを幾重にもかき分けて、たどりついたのは……
「カップル用プール……か」
「ふふ〜♪ ちゃんと事前に調べておいたのです! ここなら静かだし、人混みを気にせずにまったり過ごせるよね?」
 絶妙に隠されたスポットがぽつりぽつり、丸い穴のような冷ややかな小プールが見つかった。その一つ一つが距離をとって用意されており草木で区切られているため、絶妙に二人っきりになれる空間でもある。静かで、しかも涼しい。
 これには羽純も頷いた。
「ふむ、これなら快適そうだ。泳ぐというより浸かって楽しむってカンジだな、悪くない」
 でかした、とでも言いたげに、彼は迷わずプールに身を沈めた。頬が緩む。
「これはいい。無人の湖畔にいるようでもある」
 羽純はしばし恍惚と、目を閉じて心地よさにひたった。
 ところが、
「……アレ?」
 歌菜のほうが人形のように硬直してしまったのである。彼女の頬は熱くて火が出そう。その熱はどんどん拡がって全身がまるで火だるまな気分だ。膝はガクガクする。
 なんだこのプール。想像をはるかに超えている!
 想像以上に狭いのだ。泳ぐなんてことは明らかにできそうもない。これで二人用というのは本当か。二人で入れば、密着せずに済ませることはほぼ不可能だろう。
「羽純くん、平然と入ってるけど……私も入らなきゃダメ?」
 片眼を開けて羽純は彼女を見た。
 それを見て恥ずかしさに堪えきれなくなり、
「私、屋台で何か買ってくるね!」
 と一声残して彼女は脱兎した。羽純は苦笑したが、とくにコメントしなかった。
 さて羽純がジュースを手に戻ってきたところで、事態が変わるはずもない。やっぱり羽純はプールでリラックスしておりこともなげに言った。
「……自分から誘っておいて照れてるのか?」
 こういった場合、いつも堂々としているのは羽純だ。彼には珍しいくらい、悪戯っぽい微笑を口元に浮かべて、
「慣れろ」
 簡単に言うなり、その手を伸ばして歌菜の腕をつかみ引き寄せ、肩を抱いた。
 まるで服を脱がされているかのようにするりと、歌菜はプールに入れられてしまった。
 触れあう。彼の裸の胸と、彼女の水着が。
 彼の膝が彼女の膝と絡み合う。
 手と手が二匹の蛇のようにもつれた。
「……どうだ?」
 歌菜の耳朶に噛み付くようにして羽純は囁いた。
「慣れないよ……」
 消え入りそうな声で、それでも甘い声で、歌菜は答えたのである。
「だって、こんなにドキドキしちゃうんだもん」

 椰子の木。太陽。たまにビッグウェーブもあるが、波おおむね穏やかで、寄せて返すリズムが心地よい。足下こそ人工のリノリウムとはいえ、南の島のビーチで遊んでいるような気にもなる。
 風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)は深くなった場所にビート板を浮かべ、これにつかまりのんびりと疲れをいやしていた。疲れるのは事実だ。なにせ彼は本日を家族サービスの日と位置づけ、テレサ・ツリーベル(てれさ・つりーべる)ミア・ティンクル(みあ・てぃんくる)鬼城の 灯姫(きじょうの・あかりひめ)を連れてきていたのだから。三人とも容赦のない遊びっぷりで常に全力を求めてくるので、つきあう優斗としてはなかなか大変である。ただ現在は、灯姫の水泳の練習にテレサとミアがつきあうという状況になったので、こうして彼は小休止することができるのだった。
 しかし小康は唐突に破られた。
「優斗お兄ちゃん!」
 ミアが声を上げたのだ。
「隼人お兄ちゃんがルミーナさんとウォータースライダーに行ったよ。僕もやりたい! 優斗お兄ちゃん、一緒に乗ろうよ!」
 そうなのだ。
 本日、ここを訪れている『風祭』は優斗だけではない。風祭 隼人(かざまつり・はやと)と、その最愛の恋人ルミーナ・レバレッジ(るみーな・ればれっじ)のカップルも同行していた。隼人も優斗らにまじって最初は一緒に遊んでいたものの、そこは恋人同士、いつの間にやら隼人とルミーナだけが二人きりのらぶらぶワールドにひたり、他の面々はそれをちらちら横目に眺めつつ遊ぶという格好になったのである。
 うらやましくないと言えば嘘になる。いや、きっとうらやましさ全開でミアはこんなことを言っているのだろう。
「でもあのスライダーはカップル用で……」
 優斗は弱々しく反論したが無意味だった。
 行こう行こうと優斗をせかし、ミアは彼の手を引いて隼人たちの背を追ったのである。
 それはそれでキャアキャアと滑走を楽しんで、ミアとともに優斗が戻ってみると、今度は灯姫がムスっと何か言いたげな様子で彼を待ちかまえていた。
「隼人がルミーナ殿とイチャイチャしている……」
 開口一番、灯姫は鋭い視線を向けてきた。彼女の後方には、二人っきりですごすラブワールドの住人たちがいる。
 そうですねと優斗が気のない返事をすると、灯姫はますます、視線と語気を鋭くして、
「こんなに太陽が出ているが、何故か私は肌寒さを感じてきた」
 え? と聞き返してしまうが灯姫は真剣だ。
「肌寒い!」
 はいっ、という感じで優斗は大至急荷物を取りに行き、タオルと白いパーカーを手に戻った。
「寒かったでしょう。これを使ってください」
 優斗が甲斐甲斐しく灯姫の体を拭き、パーカーを肩に羽織らせると、ようやく彼女の表情は和らぎ、抱き上げた猫のような微笑を浮かべた。
「ん……私への気遣い……褒めておく。ただしミアと同様、あとで私ともウォータースライダーのカップルレーンで滑るように」
 最後の一言が不安だが、ともかくもこれで落ち着いた。
 しかしこれで、優斗の受難が終わったわけではない。続けて、
「ミアちゃんとだけ一緒にウォータースライダーを楽しむのも、灯さんだけに羽織りものを掛けるのもズルイと思いますので、同様の待遇を要求します!」
 きっぱりとテレサが言ったのである。
「加えて」
 テレサの凛然たる瞳は、ある方向に注がれていた。指さしたりするような不躾はしないが、その示すところは瞭然である。
 隼人とルミーナがビーチサイドのテーブルで、トロピカルドリンクを飲んでいるのだ。
「同じドリンクを、二本のストローで……ですか」優斗が恐る恐る言った。
「要求しますわ!」正解らしい。
 それって結構恥ずかしくないですか……という優斗のツッコミは簡単に無視され、かくて彼は頭が割れそうに甘いトロピカルドリンクを、テレサと二人、笑み交わしながら(※強制)分け合って飲むはめに……なっただけではすまなかった。
「テレサとだけ一緒にトロピカルドリンクを飲むのは不平等ではないか!」
 すぐに灯姫が激昂し、オレンジ色のトロピカルドリンクをずどんとテーブルに置き、優斗を刺すような目で見た。もちろんストローは二本である。
「テレサお姉ちゃんとだけ一緒にトロピカルドリンクを飲むのも、灯お姉ちゃんだけに羽織りものを掛けるののもズルいよ!」
 やっぱりミアもそうきた。どしんと巨大なピンク色のドリンクが入ったグラスをテーブルに置いた。ああ、なぜトロピカルドリンクのグラスはこんなに大きいのか。やろうと思えば顔だってつけられるほどのサイズだ。
「全部飲んだらお腹ちゃぽちゃぽになりそうですね……」
 優斗は天を仰いだ。
 その視界の片隅に仁科耀助の姿が映った。耀助は誰やら可愛らしい少女(※一雫悲哀)を連れて歩いている。実にうらやま……いや、さすが彼だと思ったりもする。女性の扱いに長けている耀助にアドバイスを求めたいところだが、
「優斗さん、まさかあの青い髪の女の子を見ているんですか! だったら正座&お説教です!」
 その視線の先を察知したテレサに制されうまくいかない。
「いや、そうじゃなくて……」
 優斗が困ったように首を巡らせると、今度はアゾート・ワルプルギス(あぞーと・わるぷるぎす)が見えた。アゾートは薄紫地のワンピース水着だ。水着は、肩口にフリルがほどこされていてなんとも優雅である。
「あ、ほら、アゾートさんですよ。アゾートさんに気づいただけです。彼女はお一人のご様子なので、一緒に遊びましょうと誘おううかと……『賢者の石』の話もしたいですし」
 だがそのサジェスチョンはたちまち灯姫に却下された。
「私では、遊び相手として不満か? どうやら正座して説教されたいようだな優斗よ」
 ミアも目を潤ませて首をふるふると振った。
「優斗お兄ちゃんが他の女の子に浮気するなんて……そんなことしたくなかったけれど、やっぱり夜の花火まで正座とお説教だよ!」
 テレサ、灯姫、ミア、なんとも息がぴったりあっているのはなぜなのか。
「そ、そういうわけではなく、僕は純粋にアゾートさんと知的なひとときを……ち、違うんです皆さんといるのが知的ではないと言っているのでもありません」
 優斗はなぜかしゃべるたび、いわゆるドツボにはまりつつある自分を感じていた。
「トロピカルドリンクの飲みますしウォータースライダーもしますしなにか羽織るものもかけますからご容赦を……」
 彼の悲しみ混じりの哀願は、どこに届くであろうか。