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リア充爆発しろ! ~サマー・テロのお知らせ~

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リア充爆発しろ! ~サマー・テロのお知らせ~

リアクション

 ◆その1:なげきのぼいん


 女の人の胸は、生まれてきた赤ちゃんのためにあるのだ。……決してお父ちゃんのためにあるのではない。

 昭和の、古きよき時代の名言である。

 そう、至極当然のこと。守らなければならない。胸を狙い、この世を跋扈する外敵から。
 大きな胸、小さな胸。それは……神様が与えてくれた生命の神秘。
 未来へとつなげるために、自分の手で。決して渡してはならない、大切なもの……。たくさんの夢が詰まった、胸を……。

 準備はいいかい、お嬢さん方。
 では、始めようか……。
 おっぱい、を。



「くくく……、待っていたぞ、諸君。いい夕日だな……。思いのたけをぶつけるのに、そして、我々が世界を制するのに絶好の夕暮れだ」
 空京の外れにゆっくりと日が傾きつつあった。もうじき夜になるだろう。
 夏も終わりのある日のこと。お祭りの行われる小さな神社に真っ先に現れたのは、悪名を轟かせる天才科学者ドクター・ハデス(どくたー・はです)だった。境内の裏手にある高い石段の上で腕を組んで仁王立ちし、集まってきた孤独な狼たちを見下ろしながら、彼はいつもの不敵な笑みを浮かべる。
「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス! テロリスト諸君、世の不条理に果敢に戦いを挑む者たちよ! 我らオリュンポスが諸君に協力しよう!」
 仰々しく宣言するハデスに、辺りがざわりとざわめいた。
 今夜、この空京の外れにある神社で行われる夏祭りで恐るべきテロが実行される。物騒な噂話に、お祭り見物の観客たちも幾分浮き足立っているようだった。そんな彼らを虎視眈々と狙う自称フリーテロリストたちは、強力な助っ人の参上に目を輝かせる。
「ククク、テロリスト諸君! 諸君には、天才科学者であるこの俺が発明した『全自動パイ拓機』を提供しようではないか!」
「……!」
 グビリ、と誰かが唾を飲み込む音が聞こえた。
 全自動パイ拓機……なんとも心躍る頼もしい名称ではないか。もう名前だけで何かやらかしてくれそうだった。一体どんな役に立ってくれるのだろうか。
 一同が黙って注目する中、ハデスはオリュンポスの誇る怪しげな機器の紹介を始める。
 彼の発明品『全自動パイ拓機』とは、【オートマタ】【メイドロボ】【等身大マリオネット】などの部品をカオスに組み合わせた、完全自律行動型のロボット兵器らしい。ハデス自身はパイ拓にもリア充にも興味はなかったが、オリュンポスの技術を披露するにふさわしい力作であった。
「フハハハ! この『全自動パイ拓機』には、標的のサーチ機能、およびパイ拓を取るまでどこまでも追尾するというAIが搭載されている! この発明品を用いれば、空京を混乱の渦に叩きこむことなど容易い!」
「おお……!」
 発明品をずらりと背後に並べつつ、テロリストたちに語るハデス。
(くくく……)
 反応からするに『自動パイ拓機』の導入はなかなかの好感触のようだった。物珍しそうに見つめるフリーテロリストたちを眺めて、彼はは小さく頷く。と……。
「やめましょう、兄さん。こんなこと……やればやるほど空しくなるだけですよ……」
 白衣をはためかせ得意げな表情のハデスに耳打ちしてきたのは、パートナーの高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)だった。
 兄のハデスから夏祭りに誘われて、気合いを入れて浴衣で空京にやってきた咲耶だったが、ハデスの目的が、例によって悪の企みであると知り、落胆しているようだ。
「そ、そんな……。兄さんが、寂しいテロリストたちに混ざって、その……胸の拓を取らなければならないほど、困っていたなんて私知りませんでした」
 咲耶は困惑で真っ赤になりながらも、思いやりをこめた真面目な表情でハデスを見つめる。
「それも、よりにもよって、こんな得体のしれない人達に協力なんて……せっかく、兄さんのために可愛い浴衣にしたのに……。で、でも……ですね。そんな理由でここに来たのでしたら……、もし兄さんがどうしてもっていうのでしたら……。その……私でよければ……えっと、その……少しくらいなら……なんて……」
 もごもごとなにやら恥ずかしそうに言い募ろうとする咲耶に、ハデスは、おお、と思いついたように顔を向ける。
「そういえば、咲耶も一緒に来ていたんだったな」
「……え、ええ。……出来たら兄さんと一緒にお祭りを楽しみたいです。で、でも……兄さんがどうしても胸の拓が欲しいと言うのでしたら、私……」
「くくく……世界征服のためだ」
 ハデスは咲耶の台詞を普通にスルーした。何を勘違いしたのかもじもじしている彼女にそっと小声で返す。
「テロで混乱が広がれば、我らオリュンポスの世界征服活動もやりやすくなるというものだ。そのための技術協力なのだよ、くくく……」
「……」
 ああ、やっぱりそういうことか……と咲耶がますますがっくりと肩を落としたのがわかった。
 ハデスが、モテずに悶々とする非リア充たちに肩入れするのは、同情からではない。混乱の拡大に乗じて世界征服に乗り出そうとしているからであった。
「さあ、この力を使い、お前たちの野望を成就するがいいっ!」
「こいつはありがたい、さっそく使わせてもらおうぜ……!」
 フリーテロリストたちとともに盛り上がるハデスの傍らで、咲耶はオリュンポス製の怪しいマシンを半眼で見やった。長い付き合いだ、もうわかっている。ロクでもないことにしかならないと言うことくらいは……。
 華麗なる動きを見るがいい、必ずみなの役に立つだろうと、ハデスはスイッチを入れた。
 ウウウウゥゥゥゥン、と耳障りな駆動音を響かせて『自動パイ拓機』が動き始める。さすがはハデスが製作したロボットだ。滑らかで力強い動きだった。
「俺たちも、行くぞ!」
 それに呼応するように、集まっていたフリーテロリストたちは獲物を求めて四散し、薄暗くなりかけた森の中へと散っていく。
「……えっと、このパターンだと、あのロボットのAIにバグがあって、周囲に無差別に襲いかかるという展開のような……。と言いますか、主に私が……」
 咲耶がちょっぴり及び腰になりながらじっと様子を見詰めていると、『自動パイ拓機』は、装填されていた大きな半紙と墨を自動的に用意して、触手をうねらせる。
「……」
 咲耶と目(?)が合った。
「きゃあああああっっ!? やっぱりこっちに来ましたー!」
 ロボットの動きを察知して、脱兎のごとく逃げ出す咲耶。が、案の定と言うかなんと言うか……浴衣と下駄ではまともに走れない。よろめく彼女のすぐ背後をボイ〜ン、ボイ〜ン……、と軽快に『自動パイ拓機』が迫ってくる。それも複数まとめて。
「た、助けて……! 誰か、助けてください……!」
 静まり返った薄暗い森の中を、少女の荒い息遣いとバサバサと草を踏む音が響き渡る。咲耶は涙目になりながらも必死で逃げ惑う。
「い、いや……。兄さんにならともかく、こんな変なロボットに……」
 と……。
「大丈夫よ、こっちにきて!」
 咲耶を助けようと救いの手を伸ばしてきた者がいた。
 パートナーと連れだってお祭りにやってきた芦原 郁乃(あはら・いくの)だった。
 夏といえばお祭りに浴衣。パートナーとのデートにもばっちりとやってきた郁乃だったが、この神社にやってくる途中で咲耶の悲鳴を聞きつけ、助けに行かなければと瞬時に判断して急いで駆けつけてきたのだ。
「まかせて! 女の子の敵は……こうしてあげるわ!」
 郁乃は咲耶を背後にかばうと、目の前に出現した『自動パイ拓機』に凛々しく拳聖の構えをとる。ぶわりと浴衣の裾がはためいた。【雷霆の拳】を敵に問答無用でぶち込んでやる。
 軽快な打撃音とともに、『自動パイ拓機』はあっという間にベコボッコにへこみひしゃげて動かなくなった。パイ拓をとるためのロボットで戦闘能力は弱めなのでこんなものだろう。
 ふうっと一息つくと、郁乃は咲耶を安心させるように笑顔を向けた。
「これで一安心ね。よかったわね、無事で」
「あ、ありがとうございます。助かりました」
 咲耶は心から感謝の意を表してぺこりと頭を下げた。
「よくはない。このロボットの開発費にいくらかかったと思っているんだ?」
 ハデスが、自ら心をこめて作った『自動パイ拓機』の起動後の様子を見にこちらへやってきた。破損しているロボットを見つけて郁乃に不機嫌そうに視線をやる。
「我がオリュンポスの世界征服を邪魔する奴には制裁を加えてやらねばなr」
「……」
 郁乃は半眼でハデスを見やると、騒動の元凶に無言で打撃を与える。【歴戦の必殺術】と【黒縄地獄】が作用し、急所への致命的なダメージがハデスを撃ちぬいていた。
 ぐはぁ……! と倒れるハデス。
「ああっ、兄さん!?」
「あ、ごめんね。とっさに悪を滅ぼしてしまったけど、気を取り直してお祭りを楽しみましょう」
 郁乃は咲耶に小さく手を振ると、身をひるがえした。待たせてあったパートナーはどうしているだろうか……?
 その背後で、まだ辛うじて生きていた『自動パイ拓機』の一機がよろよろと動き出す。センサーが本格的に狂い混乱したロボットは、それでも与えられた任務を忠実にまっとうしようと襲いかかってきた。……ハデスに。
「くっ、待て何をする……!」
 必殺技をくらって弱っていたハデスは『自動パイ拓機』のアームに難なく捕らえられ自慢の白衣を剥ぎ取られてしまった。更には、墨の付いた大きな半紙が自動で装填され、創造者であるハデスにその成果を見せるため、衣装を奪おうと力を発揮する。
「ああっっ、兄さん!?」
 咲耶が顔を両手で覆いながらもう一度悲鳴を上げる。
「や、やめるのだ『自動パイ拓機』よ、落ち着いて話し合おう。俺のパイ拓など取っても誰の得にも……。アッ――!」
 夕暮れの神社の裏手に、ハデスの甘い悲鳴が響き渡った。


「ただいま。さあ、私たちもお祭りに……。……えっ!?」
 一仕事を終えて、一緒にお祭りに来ていたパートナーの秋月 桃花(あきづき・とうか)のもとへと戻ってきた郁乃は、驚いて目を丸くする。
 待たせてあった桃花が墨まみれで下着姿のまま呆然と地面に座り込んでたのだ。もうそのまんま暴漢に襲われた事後の光景だ。
「ちょ、ちょっと、しっかりして桃花! 何があったの!?」
「あ、郁乃様……。桃花は汚されてしまいました。もうお嫁にいけません。婚姻解消で捨てられてしまいます……」
 うるっと涙目の桃花。
「な、何を言っているの。私たちもう配偶者同士じゃないの。桃花がどんなことになっても、私の愛は変わらないわよっ」
 かなり混乱状態の桃花に郁乃は慌てる。事情を聞いてみるに、一人きりのところをいきなり複数の男女に襲われて、着物を脱がさ早くもれパイ拓を取られたという。
 いきさつはこうだ。
 郁乃が『自動パイ拓機』をスクラップにしていた頃、一人待つ桃花の元にもテロリストに追われていたらしい色黒の女の子が助けを求めてかけてきた。もちろん、それをかばう桃花。だが、その色黒少女もモテない非リアのテロリストで、追ってきたハンターたちとグルだったのだ。不意をつかれて反応が遅れ、驚いているうちにあっという間に着物を脱がされ、パイ拓を取らてしまったというのだ。
「恨むなら、その美乳を恨むことねっ!」
 恐るべき素早さで、色黒少女はテロリストともどもパイ拓くっきりの紙を持って勝ち誇りながら去って行ったらしい。パイ拓第一号……、なんという手際のよさだろう。つくづく、どうしてこれだけの情熱と技術を持った連中が全くモテないのか謎だった。
「私の彼女と知っての狼藉か〜! テロリストども許すまじっ!!」
 その惨状に郁乃はくわっと怒りを露にする。
「なんと不埒な、もとい羨ましいことを……! わたしだって着物脱がしたり、パイ拓したくても我慢してたのにぃ! それを、それを触ったり貼り付けたり揉みしだいたりしたのかぁ!? ましてやあんなことやこんなことをしようとしたのではあるまいな〜!?」
「……」
 思わず内心を口走っていた郁乃は、ひんやりとした視線を感じて桃花に視線を向ける。
「あ、あれ、どうしたの、桃花……?」
「……」
 郁乃の視線に桃花は黒いオーラを漂わせながらにっこりと微笑み返してきた。
「郁乃様……今、羨ましいって、したいの我慢してたとおっしゃいました……ね」
「なんで!? 桃花、何でそれをっ!?」
「思いっきり声になってましたよ! それよりもどういうことですか!? 桃花が納得できる説明をお願いできますか?」
「え、いやあの……」
 元気を取り戻した(?)桃花の迫力に郁乃はたじろぐ。
「ちょっとそこに正座してください、郁乃様。言わなければならないことができました」
「や、やめておきましょう。みんな見ているよ、ほら……」
 黒くなった胸に下着一枚で仁王立ちになった桃花を、お祭りにやってきた人たちが何事かと眺めている。晒しものだった。
「話をごまかそうとしてもだめです。そもそも郁乃様は……」
「あ、あう……」
 勢いに郁乃は逃げることもできず、公衆の面前で下着姿の桃花に小一時間正座姿で説教を受ることになったという。
「も、もう許して……」
「知りません……」
 二人とも……、今夜を境にお嫁に行けなくなったのかもしれなかった。
 って、すでに配偶者同士だからいいのか……。