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リアクション
『第七試合シングルマッチ……実況は先程のお二方が所用により現在席を外しております故、代理として私実況マスク(サー アグラヴェイン(さー・あぐらべいん))が務めさせていただきます。選手は戦うセネシャル椎名 真(しいな・まこと)選手、【シャンバラ維新軍】より【ダイヤモンド・クィーン】ことスワン・ザ・レインボー(白鳥 麗(しらとり・れい))選手による通常ルールにて行われる試合となります。男性対女性……華麗な足技と恵まれた性へkごふんげふん……えー体格を持つ椎名選手が一見有利と見られますが、スワン・ザ・レインボー選手は華麗な空中殺法、数多の返し技を持つ選手……一瞬たりとも目が離せぬ試合、今ゴングが鳴ります!』
リング中央、椎名が麗を捕らえるとロープへスルー。自分も反対のロープへと走り込む。
先にロープから帰ってきたのは麗。カウンターのドロップキックを狙い、タイミングを計り飛ぶ。
だが、椎名はロープを掴み、その場に留まる。タイミングがずれ、一人背中から落ちる麗。
「くっ……あうっ!」
すぐに起き上がるが、待っていたのは椎名のドロップキック。ロープまで撥ね飛ばされるが、何とか体勢を立て直し膝立ち。
そんな麗に、椎名は執事の様に胸に手を添え、一礼する。
「迎撃の用意は整っております、とでも言えばいいのかな?」
「あら、中々味な事をしてくれますわね」
椎名と麗が、互いにニヤリと笑みを浮かべた。
『椎名選手、スワン選手をドロップキックで吹き飛ばす! 先手は椎名選手が奪った!』
プロレスはショー要素が強いが、格闘技に分類される物。試合に於いてイニシアチブを握る事、リング上の場をコントロールする事が勝利に繋がる。
男性対女性、という性差に加え、椎名と麗には体格に大きな差があった。その体格を武器に、椎名は麗に積極的に挑む。得意の蹴りを織り交ぜ、攻め立てる。
「せぁッ!」
シャイニングウィザードが側頭部を貫く。
「あうっ!」
吹き飛ばされるように仰向けにダウン。そのまま抑え込み……にはいかず、腕を取りキーロック。派手さはないが、試合を盛り上げる他に地味に腕を痛めつける効果もある。
絞り上げようと、体重をかける。だがその瞬間、体重移動を利用し、麗は起き上がるとそのまま椎名の両肩をリングに着ける。カウントが始まり、慌てて椎名がはね飛ばす。
「やってくれるね……お返しだ!」
再度、椎名がミドルの蹴りを放つ。が、今度はその足に飛び付くと体を捻り、自身の体重と勢いを利用して椎名を俯せに倒し、足首を捻りあげる。アンクルホールドの激痛に、椎名がロープに手を伸ばす。サードロープを掴み、ブレイク。
「そう焦らなくてもよろしくありません? 優雅にいきましょう」
再度、麗が口元に笑みを浮かべる。
「はは、してやられたね」
椎名もつられたように笑みを浮かべる。
麗は返し技を狙う戦術に出ていた。
(迂闊に打撃に持っていけないか)
その戦術は体格を生かし攻め立てる椎名に、毒のように効果を与える。返し技を狙われやすい打撃を放つことに、椎名は躊躇を見せる。
(グラウンドに持ち込まれても恐らく返される……なら)
「来ないならこっちから行きますわよ?」
そう麗が言うと、飛び付くように蹴りを放った。
「それじゃ、僕も行こうか」
その蹴りを潜るように麗に椎名は密着した。
「――ッ!?」
椎名はそのまま足もろとも体を抱え、後方に反り投げる。少々強引なキャプチュード。だが威力は十分。
麗は仰向けにダウン。そのまま椎名は両足を抱える。
「そろそろ決めようか!」
そう言うと椎名は自身を軸にして麗を回し始めた。
『椎名選手のジャイアントスイング! 恵まれた体格から放たれるダイナミックな技! スワン選手の三半規管は大丈夫か!?』
会場から回転の回数が数えられる。4……5……6……リング中央で椎名を軸に、麗が振り回される。
勢い衰えぬまま、回数は二桁を突破。麗は抵抗も無く、されるがまま振り回されていた。
やがて回数が20を超えた頃、漸く椎名の動きが落ちだした。そして回転を止めるまでの回数は実に40を超えていた。ゆっくりと背中から落とされ、動かない麗。
すぐさまフォールに向かおうとするが、椎名の足元も覚束無い。40回以上の回転で、自身も目を回していた。
それでも少しふらつく程度。平衡感覚を失いながらも麗をフォールしようと屈む。瞬間。
「貰いましたわッ!」
目を閉じ、動かなかった麗が起き上がり、椎名の首を抱えるとそのまま後ろに転がり丸め込んだ。
麗はこの一瞬を狙っていた。自身も平衡感覚を乱し、ふらつきながら抑え込む隙のある一瞬を狙い、スモールパッケージホールドで椎名の身体を丸めて固める。
「え?」
椎名は自身の身に何が起きたか、理解するのに時間を要した。ふらつく頭が思考を鈍くさせたのか、自分が抑え込まれているという事に気付いたのはカウント2を数えた時。
拙い、と跳ね除けようとするが鈍った平衡感覚に麗の巧みな重心移動に手こずり、やっと跳ね除けたのは既にカウント3を叩いた後であった。
起き上がった直後、ゴングが鳴り響く。
ぽかんと呆けたように椎名は口を開けていたが、レフェリーに腕を挙げられ勝ち名乗りを上げる麗を見て、自分が負けた事に漸く気づき苦笑を浮かべた。
『電光石火のスモールパッケージでスワン選手が椎名選手を抑え込む! 一瞬の返し、椎名選手も自身に何が起きたのかわからなかったでしょう! セネシャルと白鳥の試合は、一瞬の技で白鳥が勝利をもぎ取りました! 続いてこの後は第八試合。第一部も残り僅か、最後までお楽しみください。以上実況マスクがお届けしました』
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