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THE 合戦 ~ハイナが鎧に着替えたら~

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THE 合戦 ~ハイナが鎧に着替えたら~

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 その直後のこと。
「そう何度も上手く行きませんよ。討ち取って差し上げましょう」
 中央に兵を配置していた第十二軍団のプブリウス・コルネリウス・スキピオ は、計算外の敵の作戦行動に自軍を前進させてきていた。いや、鶴翼の陣の中心に進軍してきた敵を引き付けるのが役目なので、これでいいのか……?
 いずれにしろ、彼は、先ほどの狂信者部隊と共に鶴翼の陣の中央部に進撃してきていた歩兵軍団を確認し、迎撃のために兵を動かしたのだ。
「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏……」
 大胆というか命知らずというか……。
 あの高崎 朋美(たかさき・ともみ)率いる、謎の老人僧兵団が念仏を唱えながら真っ直ぐ突っ込んでくる。
「おおーきなのっぽの、おばあさん〜」
 やたらと大きな老人たちを両側に引き連れて、不気味な歌をテンション低く歌い上げる朋美。ローマの兵たちも「?」と首をかしげる。
 プブリウス・コルネリウス・スキピオは、出迎えながらも兵士たちに正面からの構えを取らせた。
 彼は、ハンニバル戦争初期、アルプスを越えてイタリアに侵入したハンニバルに対して防戦に努めたが敗北し、その後、スペインに派遣されてハンニバルの弟たちと戦い、敗れて戦死した、共和制ローマの軍人なのであった。この戦いが汚名返上の好機であろう。
「う〜、鎧が重いよぅ……」
 おや? 総重量40kgほどのローマ歩兵の重装備に、プブリウス・コルネリウス・スキピオに身体を貸している、シャンバラ教導団少尉のゴットリープ・フリンガー(ごっとりーぷ・ふりんがー)の素がつい出てしまったようだ。とにかく……。
「全軍、攻撃開始、です……」
 両軍は、睨み合いすら必要なく全力で激突する。
宝蔵院胤栄どす! 一槍馳走に参りおした」
 かの十字槍の名手で有名な宝蔵院胤栄こと高崎 トメ(たかさき・とめ)が、巨大な老人兵の先頭でまず名乗り出てくる。パラミタでも数少ない萌え老女だ。
 トメはかくしゃくとした動きでその華麗な槍さばきを。
 パン!
「!?」
 プブリウス・コルネリウス・スキピオは、自分の頬を弾丸がわずかにかすったのに目を丸くした。
 胤栄なら槍の筈なのだが、バグっているので銃が主要武器のトメ。砲口の先に申し訳程度の十字槍の着いた銃槍というのか、なんと言うのか……。
 トメはコミュニティスキルの【サバイバル】+【武術】の効果も上乗せで、第十二軍団の歩兵を蹂躙し始める。
「さがられよ、軍団長殿。私がお相手いたしますじゃ」
 第十二軍団の戦闘支援に加わっていた枝島 幻舟(えだしま・げんしゅう)が、プブリウス・コルネリウス・スキピオを安全な地点に避難させて、すぐさま胤栄と激突する。
 幻舟も外見年齢65歳。装備イコンはユーゲント
 老女VS老女という、他では決して見れないであろう好カードであった。
「あの世へ行くがいいですじゃ」
「まあまあ、ようおいでなすった。ぶぶ漬け(お茶漬け)けでも食べてお帰りやし」
 京訛りの胤栄が、そのまましゃにむに攻撃を繰り出してくる。
 ガガガガガッ! と二人は戦場の真ん中で激しい戦いを繰り広げる。
「いけいけ、トメばーさん!!」
 巨漢の老兵たちを指揮していたウルスラーディ・シマック(うるすらーでぃ・しまっく)は、敵兵を攻撃する手を止めて、思わず声援を送る。
 なんだか、彼の表情はやけくそ気味だった。
「おおーきなのっぽの、おばあさん〜」
「それも言うなら、古時計だろ。もう、わけわかんねえよ。……ってか、なんだこれ? なんでじーさんばーさんがこんなにはりきってる!? しかも、でかいし!」
 ウルスラーディは、嫌な感じの旋律を口ずさみながら屈強な老人兵を指揮する朋美に聞いてみたが、彼女は答えてくれなかった。敵のテンションを下げるべく、陰気に謳うのみだ。
「百年いつも動いていた〜、ご自慢のおばあさんさ〜」
「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏……」
「もう、どいつもこいつも頭おかしいだろ! この老人たち、ちっちゃい時でも物騒なのに、こんな大きくなったら、物騒×8くらい物騒だぜ! って、物騒というより仏僧だろ!」
 誰もが攻撃に専念して話しかけてくれないので、一人で乗り突っ込みをするウルスラーディ。そういう彼も、抹香くさい僧衣を纏った僧兵の一人なのであった。
「くそっ、俺もやってやるぜ! やれるところまでとことんな!」
 彼は、武器に敢えて竹槍を選んで装備してきていた。竹は電気を通すからという単純な理由である。
「食らえ! 抹香くさい仏罰アタック!」
【竹槍】+【ライトニングウェポン】の攻撃は稲妻を纏った武装となり、敵兵を薙ぎ払う。
「竹は電気通すからな。世界ではじめに使われた電球のフィラメントは竹だったんだぜ!」
 ヒャッハー! と楽しみながら敵兵を駆逐していくウルスラーディ。だが、彼は重要なことを忘れていた。人間の身体も電気を通すということを。
「遠慮なく無双できるのは、気分爽快だz……ぎゃあああああっ!」
 汗で湿った両手は、伝導の役割を果たした。とうとう彼は、自分の放った電撃で竹を通じて感電し、大ダメージを受けた。
「ぐはっ……、こんなところでくたばるわけには……」
 その隙を見逃さず、敵の歩兵たちが集団で止めを刺しに来る。
「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏」
 老兵たちが、念仏を唱えてくれた。
 彼らも死を恐れぬ屈強な兵士たちであった。極楽浄土を夢見ているため、異様に強い。効率重視でシステマチックに構成された古代ローマの重装歩兵たちは、朋美の歌も相まって、理解できずに恐怖する。
「これ以上、被害を増やすわけには行きません。包み込んで殲滅させてしまいなさい」
 斬っても斬っても前進してくる老いた僧兵たちを見て、プブリウス・コルネリウス・スキピオは作戦通り、兵員の引き締めにかかる。
「いまは〜、もぉ〜、止まらない〜、おばあ〜ちゃ〜ん〜」
 ああ、と朋美は思った。
 トメおばあちゃんがガンガン戦っている……守らなきゃ。そのためには、進まなきゃ。
「ひゃくねん、やすまずに〜 ざくざく、ざくざく」
 とにかくすすめー! と朋美は老兵たちと共に構わず攻撃を続ける。
 その、宝蔵院胤栄ことトメは……。
「かよわい年寄りを、大事にせんかぁぁああああ!!」
「どこがかよわいんじゃぁぁぁぁぁっ!」
 幻舟の渾身の攻撃と交差する。激しい攻撃を交えた二人は、お互いに背を向けたまま立ち止まり。
 ぐぐ……と幻舟の顔が苦痛にゆがむ。ニヤリ、とトメが笑った。
「ぐはっ!」
 そのまま、トメは全身から鮮血を噴出しながらゆっくりと前に倒れていった。そうして、やっとトメの動きは止まったのだった。「止まったからトメ」、それが彼女の辞世の句だったと言う。
「今は〜、もぉ〜、うごかない〜、おばあーさーんー」
 朋美がまだ辛うじて生きていたウルスラーディとともに、戦闘で弱った幻舟を仕留めに来た。
「ぐっ……!」
 幻舟は覚悟を決め、最後の攻撃を繰り出す。
「軍団長殿……御武運を、ですじゃ!」
「おおうっ……!」
 痛恨攻撃を受け止めたのはウルスラーディであった。そのまま、ゆっくりと倒れていく。
「てんご〜くへ昇るおばあさんー、徒刑ともお別れ〜」
 朋美の必殺技が、イコンごと幻舟を貫いていた。どっ、と倒れる老女。
 だが、次の瞬間。傷ついた朋美に、まだ余力を残した古代ローマ重装歩兵たちが殺到してくる。ふふ、と薄い笑いを浮かべる朋美。
「……帰ったら古時計を買おう……」
「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏」
 第十二軍団は、敵をひきつけながらゆっくり後退していく。それを追撃して更に迫ってくる、仏僧兵集団。計画通りだった。
 とはいえ。
「これくらいの兵力で、全軍を動かす必要もないのでは……」
 プブリウス・コルネリウス・スキピオは第十二軍団だけで敵を包囲殲滅できると判断した。
 やがて……。
 長い戦いの末、第十二軍団は敵の進撃を食い止め、単独での包囲殲滅作戦にに成功したのだった。

▼高崎トメ、戦死。
▼ウルスラーディ・シマック、戦死。
▼高崎朋美、戦死。
▼枝島幻舟、戦死。
▼第十二軍団:3000→1500。



 一方、同時刻。
「我が太郎太刀。無用の長物と侮る事無かれ!」
 こちらは、先ほど狂信者部隊から分離した500弱。率いているのは、真柄 直隆(まがら・なおたか)だった。
 彼は朝倉家の家臣で、姉川の戦いで戦死した英霊である。それだけに信長は、宿敵とも言える存在だった。今度こそ勝つ! そう意気込んで戦いに臨んでいた。
 突撃してくる直隆騎馬隊を側面から突こうとしていた第十一軍団の部隊。それを更に強引に迎え撃ったのが直隆の率いる軍団だった。
 長駆の勢いもそのままに、第十一軍団の小さな一部隊を押しつぶしてしまう。彼もまた、突撃の威力を落とすことなく、古代ローマ歩兵を圧倒し始めた。太郎太刀を彼自身の生まれ持った体格から生み出される膂力で持って振り回し、敵兵を両断していく。
「うっ……!?」
「こ、これはキツいですわ……!」
 突撃してくる敵将から味方の歩兵を守る壁役を務める戦闘支援に徹していたコンラートとエリスが、限界を感じ後退していく。
 これまで何とかしのいでいたが、無双武将がもう一人加わったことで三対二になってしまった。
「総司令部や他の軍団から援軍は来ませんのね」
 エリスの台詞に、ルキウス・エミリウス・パウルスは小さく微笑んだ。
「これくらいは、想定の範囲内ですわ。あなたたちは、一旦退却して休憩なさい。協力してくれてありがとうございました」
 ルキウス・エミリウス・パウルスは、じっと耐えていた。
 負傷した兵士たちに治癒を施しながら粘り強く軍団を立て直す。
 援軍は来ない。後方の第五軍団は現在狂信者集団を殲滅中だし、総司令部の判断は、あくまで中央突破、包囲殲滅だ。鶴翼の陣を崩すつもりはない。彼らはここで粘れるだけ粘って、敵をそちらに誘導させること。どちらが先に根負けするか、消耗戦に入ったのだ。
「いや、その判断は必要ない! これで終わりじゃ!」
 直隆は敵を足止めすべく、コンラートとエリス追いつきただ愚直に大太刀を振るう。
 七尺を超える大太刀、飾りだと侮る者も居るだろうが、実際に相手を両断してやれば自分が何を相手に戦うのか理解もできよう……と、それを言いたいがために。
「覚悟……!」
 ドン! と激しい打撃音が鳴り響く。
 直隆の大太刀がルキウス・エミリウス・パウルスに届くよりも先に、コンラートとエリスの渾身の攻撃が戦国の古武者を打ち抜いていた。
「ぐはっ……!」
 と血を吐く直隆。彼は史実でも敵中に深く斬り込み過ぎて戦死した。今回も彼の宿命に例外はない。
「もうここはダメだ、あんたは退却s」
 ルキウス・エミリウス・パウルスにそう助言するコンラートは、直隆の背後から突撃してきた歌菜と羽純の攻撃に、防御する間もなく力尽きて地面に倒れ伏す。
「古代ローマの英雄。私と手合わせしなさい!」
 名高い武将の戦いを望む歌菜は、羽純と共にルキウス・エミリウス・パウルスに迫る。
「失礼いたします!」
 エリスはルキウス・エミリウス・パウルスを力任せに遠くまで突き飛ばすと、あらん限りの防御を展開し、二人の前に立ちはだかる。そう、彼女の役目は、味方を守る盾になること。決して通しはしない。
 更にそこへ、理性の効かなくなった理知と彼女を追うイコン殲滅部隊も乱入してくる。混戦の中、歌菜の【大空と深海の槍】がエリスの身体をイコンごと根元まで貫いていた。
「……ハイル、【シェーンハウゼン】」
 彼女は、それだけを口にすると、そのまま力尽きた。
 ルキウス・エミリウス・パウルスは、その直後味方部隊に無事救出され、保護された。第十一軍団は部隊判断で分散しながら後退していく。
「もうやめよう。こんなの嫌よ」
 智緒が必死になって理知を押し止め、無理やり連れて帰る。
 頭を冷やそう。そして立ち直って翔を弔おう……。
「わたくしたちもここまでにしましょう」
 ヴァルナは、追撃しなかった。イコン部隊を味方の軍団から引き離そうとする罠の可能性を疑い、深追いを避けて、新たな敵機の出現に備えることにした。
「くそっ! 途中から一緒に参加できなかった自分が腹立たしいです」
 深手を負って休養していたヘルムートが地面に拳を叩きつける。
「ですが、こんなところで立ち止まってはいられません。次に参りますわよ」
 ぐっ、と苦しそうに胸元を押さえながらもヴァルナは残りの三人を促す。繊細な彼女にはゲームの中とはいえ戦友の死が結構応えたらしい。だが、瞳にはしっかりと強い意思が宿っていた。
「クレーメック様から与えられた任務です。必ずやり遂げます」
「少し休みましょうよ……。想像していたよりヤバいわよ、この戦い……」
 不安げな麻衣の言葉に、ヴァルナは首を横に振る。
「そのつもりはありませんわ。わたくしは、次の敵を探します。……ヘルムート様は、傷を治すことに専念してくださいませ。麻衣さまと亜衣さまは、クレーメック様に事の仔細をお伝えしてください。このたびの失態は全てわたくしの責任、いかような処罰も受けると併せて伝えおきください。それから、【シェーンハウゼン】に栄光あれ、と」
 それだけ言うと、ヴァルナは確かな足取りで次の敵に向かう。
 彼女らの戦いもまだ始まったばかりだったのだ。
 かくして、双方多大な犠牲を払いながらも、右翼先陣との戦いはひとまず区切りがついた。
 両者相譲らず、戦況は泥沼の消耗戦へと突入するのであった。

▼真柄 直隆、戦死。
▼コンラート・シュタイン、戦死。
▼エリス・メリベート、戦死。
▼第十一軍団:3000→500
▼歌菜部隊:1000→100
▼淵部隊:1000→100
 

◆グレゴワール・ド・ギーのデータが抹消されました。
◆高崎トメのデータが抹消されました。
◆ウルスラーディ・シマックのデータが抹消されました。
◆高崎朋美のデータが抹消されました。
◆枝島幻舟のデータが抹消されました。
◆真柄 直隆のデータが抹消されました。
◆エリス・メリベートのデータが抹消されました。
◆コンラート・シュタインのデータが抹消されました。


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