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【ぷりかる】幽霊夫婦の探し物

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【ぷりかる】幽霊夫婦の探し物

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第三章 陽気に盛り上げよう!


「よし、これだけ作ればいいよな。後は、じゃんじゃん持って行くだけだ」
 キスミはパンケーキを仕上げるなり、ずらりと台に並ぶ大量の料理を満足げに眺めていた。
「……予想通りの展開だね」
 涼介が並べられた料理に一言。
「それでこの中のいくつがまともなのかな?」
 ローザマリアの鋭い言葉がかけられる。
「まともって何だよ。どれも美味しいぞ!」
 キスミは憤慨しつつ周囲の目を盗んで妙な粉を取り出す。

 いち早く悪戯をしようとする現場を発見した涼介は
「……台無しにするような事はしないように」
 伝説のハリセンと『疾風突き』で確実にキスミの悪戯を止める事に。多少手加減をして。

 鋭い痛みと大きな音が辺りに響き、
「っていてぇな。まだ何もしてないだろ!!」
 キスミは半泣きの大声で訴える。手にはしっかりと問題の粉の入った瓶を握っている。
「ミリィ」
 涼介は近くにいるミリィを呼んだ。当然、キスミを治療するために。
「はい、お父様」
 涼介に呼ばれたミリィは『ヒール』でキスミの痛みを取り除いた。
「これ以上、おかしな効果のあるものを作ろうものなら発見次第このハリセンが唸るから覚悟をするように」
 涼介は伝説のハリセンを見せながら釘を刺す。どうせすぐに悪さをすると知りながらも。
 それから自分の作業に戻った。

「……取り込み中だな」
 シンは痛い目に遭っているキスミを見て料理勝負の話は後にして、料理を始める事にした。
「……痛い目見ても懲りないだろうなぁ」
 ローズは作業をしながらキスミの様子にため息をついてた。

「……普通の料理なんてつまんねぇじゃんか」
 キスミは涼介に警告にも負けず、文句を口にする。すっかり親睦会の主賓を忘れている。「それで手に持っている料理をどこに持って行くつもりじゃ」
 ルファンがキスミの手にある不審な物に目をつけた。
「そりゃ、姫さんに食べて貰うんだよ。危なくねぇし」
 キスミは当然のことのように言った。グィネヴィアをもてなすのではなく彼女を実験台に使うという感じだ。
「その前に……」
 ローザマリアはチューブチョコで『キスミ★』と印を入れた。グィネヴィアが気付いて多少ためらってくれればと。
「ちょ、何するんだよ!! ったく、何なんだよ」
 自分の料理を台無しにされ、声を大きくするも涼介の持つ伝説のハリセンに目が止まり、お仕置きされる前にと足早に逃げた。
「……素早いですわね」
「打たれ強いからのぅ。しかし、大変な事になりそうじゃ」
 ルファンはキスミの不必要な打たれ強さに呆れつつ、まだ一波乱ある事を予想していた。キスミが運んで行った料理に関してルファンは何も心配してない。キスミの危険を知っている者が待機しているので何とかしてくれるだろうと信用しているのだ。
「ダーリン!」
 ルファンが離れて心細くなったイリアがルファンを呼ぶ。
「イリア、すまぬ。大丈夫かのぅ。指示をしてくれれば、わしが料理をするが」
 ルファンは急いでイリアの手伝いに戻るなり、怖がりのイリアを気遣った。
「ありがとう、ダーリン! イリア、みんなに美味しい料理を食べて貰いたいから頑張る。でも、手伝いはお願い」
 ルファンの気遣いにイリアは嬉しくなってますます料理に奮闘する。少しウルバス夫妻の存在にビクビクしながら。ルファンはしっかりと手伝いをする。

「この間に私達が作った料理と見分けが付くようにしないとね」
 ローザマリアはキスミがいない間に料理の種類に合わせてケチャップ、マヨネーズ、チョコレートや生クリームなどでキスミの料理に名前を入れていった。

「あ、あの、キスミさんの料理を引き取りに来ました」
 リースがキスミの料理、通称魔料理処分のためやって来た。
「いらっしゃい。ここ全部だよ」
 ローザマリアがリースを魔料理の所に案内した。
「こ、こんなにあるんですか」
 予想外の量にリースは驚いた。種類だけでなく量も多い。
「心配無いネ。ワタシも食べるアル!」
 シルヴィアはデザート系の料理を両手に取るなりさっさと適当な席に移動して行った。
「……あ、あの、私はこれとこれを持って行きます」
 リースは適当に料理を手にセリーナの元へ。
「危なそうだったらこっちに持って来たり自由に処分してね」
 ローザマリアは料理を落とさないよう注意していくリースに言った。

 キスミの魔料理処分状況は、
「あははははは、おいしい……アル」
 キスミの料理を口にして笑いが止まらなくなったシルヴィア。
「……はぁ、はぁ、喉が渇いたアル」
 笑いがおさまった時にはすっかり喉がカラカラに。
「はい、お水ですわ」
 見かねた給仕係のアルティアが水をシルヴィアに手渡した。
「あ、ありがとうアル。キスミの料理、どんどん持って来るネ」
 シルヴィアは一気に水を飲み干してからキスミの料理を要求。
「すぐに持って来るでございます」
 アルティアはすぐにキスミの料理を運んだ。

「あ、あの、セリーナさん持って来ました」
 魔料理を手にリースがセリーナの所に戻って来た。
「リースちゃん、ありがとうねぇ」
 セリーナは魔料理を受け取りながら礼を言った。
「わ、私向こうのテーブルで食べてますね」
 リースはそう言ってから魔料理片手に急いで近くのテーブルへ。

「えぇ、頑張ってねぇ。ほら、レラちゃん、どうぞ」
 セリーナは手を振って見送ってから改めて賢狼・レラの方に向き直り、魔料理を与えようとする。

 席に向かう途中、
「ああ、レラさんがキスミさんの作ったお料理を食べておかくしなっちゃったら大変!」
 リースは、はっとまずい事に気付き、セリーナの元に急いだ。
「セ、セリーナさん!!」
 リースは何とか間に合う事が出来た。
「あらあら、どうしたの、リースちゃん」
 セリーナは慌てて戻って来たリースをのんびりと迎えた。手にはまだ食事の終わっていない皿があった。
「ご、ごめんなさい」
 リースは謝りながら皿を奪い取り、池にでも処分しようと周囲を見回す。
「リースちゃん?」
 セリーナは、慌ただしいリースに首を傾げていた。
「どうかしましたか」
 楽しみながら会場の監視をしていた近遠が困っていると思われるリースを発見し、声をかけた。
「……あ、あのこの料理を何とか処分をしようと」
「……良かったらボクが処分しておきますよ」
 優しい近遠は放っておけず、処分を引き受けようとした。
「あ、ありがとうございます」
「近遠ちゃん、ありがとうねぇ」
 リースはぺこりと頭を下げ、セリーナはにこにこしている。
「そんな所で何しているネ」
 料理が運ばれるまで暇潰しにウロウロしていたシルヴィアがリース達と近遠を発見。目にはボロボロと涙が流れている。
「……あ、あのどうしたんですか」
 シルヴィアの様子に驚いたリースが恐る恐る聞いた。
「悲しくないのに涙が出るネ」
 シルヴィアは涙を拭きながらリースに答えた。
「もしかしてキスミさんの料理を?」
 原因を察した近遠が理由を訊ねた。
「そうネ。味は最高の面白い料理アル。それ、食べるネ」
 シルヴィアはリースが持っている二つの皿を指さした。
「えと、大丈夫ですか?」
 リースは心配そうに訊ねた。キスミの魔料理なので。
「大丈夫ネ」
 シルヴィアはそう言うなりリースから料理をさらった。
「……あ、あの、ありがとうございます」
 リースは代わりに食べてくれるシルヴィアに礼を言って、去っていくシルヴィアを見送った。
 シルヴィアは二つの皿を手にキスミの料理が運ばれた自分の席に戻り、楽しそうに食べていた。
「……え、えと」
 料理をシルヴィアに持って行かれてどうすればいいのか困ってしまったリース。
「キスミさんの料理を食べる前に他の人が作った料理を食べませんか?」
 近遠が困っているリースに助け船を出した。
「そ、そうですね。美味しそうなお菓子を持って来ますね」
 近遠の言葉でリースは他の料理人の作品を取りに行く事に決めた。
「レラちゃんの分もお願いねぇ」
 セリーナは。賢狼・レラの分を頼んだ。
「料理なら運ぶでございますよ」
 察したアルティアが現れ、すぐにリースとセリーナ、賢狼・レラ、近遠の分を持って来た。三人と一匹は料理を楽しんだ。この後、リース達は魔料理処分に戻り、近遠は密命に戻った。

「まぁ、サークルでお知り合いになってそれでお付き合いを。どうぞグィネヴィア様、料理が来るまでのお口直しにこれを。皆様も是非。ティセラお姉様から習った紅茶ですわ。うまく淹れられているといいのですけれど」
 リーブラは話を聞きながら口直しのお茶をハナエを除く全員分用意した。
「……ありがとうございます。とてもいい香りですわ」
 グィネヴィアは、リーブラの淹れた紅茶でほっと一息。
「この香りには心を落ち着かせる効果があるそうですから。お話をされる前に口を湿らせるにもいいですわ」
 リーブラはグィネヴィアに柔和な笑みを浮かべながら言った。
「それで、散歩サークルって言ってただひたすら歩く事を楽しむサークルなのよ。あの人とは何度か話していていつの間にか付き合うようになったのだけど、まさか結婚してくれと言われるとは思わなかったわ。そこで会おうと思ってる知り合いにも会ったのよ」
 ハナエはリーブラの紅茶で一息入れる皆の様子を幸せそうに見てから話を続けた。
「……そりゃ、一目惚れでもしたんだな。手話でもいいから話す事が出来たら良かったのにな」
 シリウスは頭部が無いヴァルドーを笑いながら見ていた。どんな人なのか興味が湧き、今ここにいたら何を言うのか気になっていた。しかし、視覚、聴覚が行方不明のためか座らされたままの状態で何も出来ない。

「あの人がねぇ……私が、あぁ、そう病気よ。病気で私が亡くなった時、いいえ、亡くなる前、入院していて毎日呆れるぐらい見舞いに来てくれてたわ。でも話すのは物の場所ぐらいで」
 少し支離滅裂になりながらうっすらとなっていた記憶が少し思い出してきたハナエ。シリウスの話している内に思い出すという思惑は上手くいったようだ。
「……もしかしてそれが旦那様の不器用な気遣いだったのかもしれませんわね」
 リーブラはヴァルドーを見ながら微笑んだ。何となくその風景が思い浮かぶ。気遣いの言葉が気恥ずかしくて出ず、別の言葉が出ていたのだろうと。
「そうねぇ。本当に不器用だから。怒らない人だったけど愛してるとも口にしなかったわ」
 ハナエはその時の事を思い出しているのか切なさと楽しさを含んだ笑みを浮かべていた。
「……何も出来ないって事はハナエさんをそこまで頼りにして大切に思ってたんだろ」
 シリウスは言ってからリーブラの淹れた紅茶を飲んだ。
「そうねぇ」
 ハナエは生前の日々を思い出し、微笑ましげに笑う。