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【すちゃらか代王漫遊記】セレスティアーナの涅槃巡り!

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【すちゃらか代王漫遊記】セレスティアーナの涅槃巡り!

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★第三話「今から大掃除を始めます」★


 暗いその場所に、唐突に人工的な明かりが灯った。
 地下特有のひんやりした空気に包まれた広大な空間。人が手を加えたと分かる壁や床、天井。
 無駄な装飾が一切ないその場所へ、ごろごろと音を立てて荷車が運び込まれてきた。
「ヒャッハー! 今日も大量だぜ」
 響くのは特徴のありすぎる声で、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が眉をしかめた。
(音の響きからして、随分と広い場所のようね。下に降りるような感覚があったけど、地下?)
 予測を立てつつ、ただ荷物にまぎれるだけというのは劇団員としては物足りないと感じてしまう。とはいえ、仕方ないのも分かっているので今はただ息をひそめる。勝利の美酒に酔う盗賊の声も、我慢我慢。

(まさか休んでいた輸送車が盗まれるとはな。しかし盗賊のアジトを突き止めるにはいい機会だ)
 リカインとはやや離れたところで同じく息をひそめていたグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)が、パートナーと連絡を取り合うころ合いを見計らっていた。
(アガルタにはウルディカもロアもいた。エルデネストなら、きっと俺の意図を汲んで伝えてくれる)
 そうして誰も人がいなくなったのを確認し、エルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)に状況を伝える。

「盗賊の襲撃から脱出できない程体調が悪かったとは……。
 くっ、側についていればこんな事には!」
 イライラと歩き回っているのはウルディカ・ウォークライ(うるでぃか・うぉーくらい)だ。今すぐにでも駆けつけたい心境なのだろうが、下手に動けばさらに危険にさらすことが分かっているため、動くに動けないのだ。
「ヴァッサゴーは救出の協力者に心当たりがあると言っていたが」

「盗賊退治?」
「ああ。どうも荷物が盗まれるのが増えているらしい。数日前にも荷物を搬送していた車両ごと盗まれたらしい」
 ロア・ドゥーエ(ろあ・どぅーえ)レヴィシュタール・グランマイア(れびしゅたーる・ぐらんまいあ)の話に興味無さそうに頷きを返したが、あれ? と首をひねった。レヴィシュタールが見せた新聞を睨む。
「どうした?」
「いやこの現場って確かグラキエスが行ってた所じゃねえか?」
 何か嫌な予感がしたロアの目が、エルデネストをとらえた。
「ロア。ここにいましたか」
 エルデネストが息を整え、ロアに説明する。
「グラキエス様が盗賊に攫われてしまいました」
「は?」
「まさか、グラキエスはこの車両に乗っていたのか?」
「はい。お体の具合が悪く、抵抗する力もなかったようで……」
「ふざけんじゃねえぞ盗賊野郎! 俺からグラキエス盗んでくとかブチ殺されてえのかよしわかった!」
 すぐさま飛び出そうとしたロアをレヴィシュタールが肩を掴んで止める。
「待たんかロア! 相手は組織だぞ! 他にも作戦を立ててかかっている者がいると言うのに、お前一人特攻したらかえって作戦の邪魔に」
「待ってろグラキエス、すぐ助けてやるからな!」
 しかし怒りに身を任せたロアに声は届かない。制止を振り切って走り出す。レヴィシュタールも追いかける。
 そんな2人の後ろ姿を見たエルデネストは「よし」と頷いた。
「さて、これの見返りはどうするか……。楽しみにしていますよ、グラキエス様」

「……無事でいろグラキエス。貴公に何かあれば手を付けられん事に! そしてロア! 待てと言ってるだろうが!」
 奈落の鉄鎖でロアを止めようとするレヴィシュタールに、それを意に介さず引きずっていくロアの姿を見たウルディカは一瞬で事情を悟った。
「今飛び出したのは……ヴァッサゴーめ、一体どう伝えたんだ。
 待てドゥーエ! 単独での突入は危険だ!」
 そしてウルディカもまた、盗賊のアジトへと向かって行った。

 駆け抜けていった3人の後方から、同じ方角へと足を進めている者たちがいた。
「ああ。了解した。俺たちもそちらへ向かう」
 夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)がまるで独り言のように呟く。誰かから連絡(テレパシー
)を受けたらしい。
「場所が分かった。どうも地下にあるらしい)
「地下、のう。……しかしこういう輩はなぜ故どこにでも現れるのかのう?」
 やれやれと首を振る草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)だったが、詳細な話を聞いてわずかに眉を寄せた。
「話を聞く限り随分と統率の取れた実力のある野党じゃな。どこぞの騎士団とかそのなれの果てかと疑いたくなる」
 言いながらさらに深く考え込む羽純。
(このまま街を潰す気じゃろうか? そんな事をしても得はあるまいに)
 組織として頭は悪くなさそうなのだが……少し気がかりだ。
「ま、とにかく行ってみるしかないですよね」
「そうだな」
 ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)の言葉に甚五郎が頷き、羽純は
「ブリジット。すまんがそなたは上からのフォローを頼む」
「了解しました」
 ブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)にそう頼んだ。
「1人たりとて逃がしはせんぞ!」
 そう。逃がさないために。


『我はいま流行りのポータラカ人、ンガイ・ウッドである! 呼び難ければシロと呼ぶが良いぞ!』
 心の中で密かに宣伝をしたンガイ・ウッド(んがい・うっど)は、五百蔵 東雲(いよろい・しののめ)に近づいて伝えた。
 近付いた、とはいえナノマシンを拡散させているので姿は見えないが、なんとなくいるのだなとは気づける。いるのだろう方へと目を向ける。
「我がエージェント。包囲にはもう少しかかるようだ」
「そっか。ありがとう」
「それにしてもヒャッハー共はロクなことしないよね」
 小さな声で答えたのはリキュカリア・ルノ(りきゅかりあ・るの)だ。同意するようにうなづいた上杉 三郎景虎(うえすぎ・さぶろうかげとら)が小さくつぶやき返す。
「相手は力にものを言わせる野蛮な連中らしい。ならばこちらも、力で分からせてやればいいのだろう」
「ま、ボクも遠慮はしないよ。ストレス発散にはもってこいだもん」
 暴れまわるだろうことが容易に想像できたンガイは、密かに東雲の近くに寄った。巻き添えを食ってはたまらない。
「……シッ。誰か来るぞ」
 ンガイの声に静かにすると、こつこつという足音が響いた。やってきたモヒカンは東雲たちが隠れる箱の上から食料を採っていく。他の箱からも物色した後、何も疑うことなく去っていった。
「ふー」
 思わず息を吐きだす東雲。隠れるために箱を二重構造にしておいたのだ。

 そんな東雲たちの近くにも箱があった。オレンジ色の丸い果物……つまりみかんの絵が描かれた段ボールだ。
 みかんのダンボールが……動いた。
(敵に見つからないように動くのは潜入の美学でありますよ)
(それはいいけど、なんでみかんなの?)
 こっそりこそこそと動きつつ、みかん箱――をかぶっている葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)イングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)。ちょっと触手がはみ出てますよ。
 闇にまぎれながらみかんの箱が移動していく……ちょっとシュールだ。

「……盗賊達を野放しにしておけないよな」
 息を吐きだした瀬乃 和深(せの・かずみ)の隣では瀬乃 月琥(せの・つきこ)が機晶爆弾の1つを式神化させていた。
「ふむ。どうやらこの周辺に奴らはいないようだ」
 セドナ・アウレーリエ(せどな・あうれーりえ)の言葉に和深が頷きを返す。そうして気づかれぬように移動を開始。混乱を引き起こすためにあちこちに爆弾を仕掛け、見つけた罠は解除していく。

『……全員配置についた』
「ああ、わかった。作戦開始、だな」
 甚五郎からの連絡を受けた柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)は、予定通りアジトの入り口から突撃していった。
「さぁ、モヒカン共は消毒だー!」
「なっこいつどこから!」
「侵入者だ!」
 身を隠さず、どころか大声を上げながら恭也はドワーフの火炎放射器を放ち、ただ前へと進む。潜入班のためにも、自身へと気を引き付けられれば上々。
「火を消せっ」
「消えねぇ! どうなってんだ」
 必死に消そうとしているが、普通の火炎放射器とは違うのだ。そう簡単に消えはしない。
「なぁ、知ってるか? 炎に包まれると息が出来なくなるんだぜ?」
 にやっと笑って挑発する恭也に、リーダー各と思われる男が彼を指差した。
「先に奴を倒せ! 火を消すのはその後だ!」
 その声に混乱から立ち直った盗賊を見て、やはり裏がありそうだと思いつつ、恭也は一歩も引かずに立ちふさがった。