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【すちゃらか代王漫遊記】セレスティアーナの涅槃巡り!

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【すちゃらか代王漫遊記】セレスティアーナの涅槃巡り!

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★第一話「べ、別にカッコイイとか思っとらへんからな!」★


 中継基地。
 ニルヴァーナの調査・発展に欠かせない拠点である。そこには大勢の人々が行き交い、活気にあふれていた。
 さて。今日も今日とて平和に
「変態だー! 変態が出たぞー!」
 とはいかないようだった。
 声を上げた者たちはひとえに空を見上げている。……否。基地のシンボルともいえるアンテナ塔を見上げていた。
「わーっはっはっ! ってけったいな塔」
 アンテナ塔の棘部分に堂々と立っている男。名を変熊 仮面(へんくま・かめん)というが、へんくまであって、へんたいではないのでご注意いただきたい。
 ただロイヤルガードマントのみしか身につけていない。つまりは全裸である。
「盗賊団とは穏やかでないな。しかし盗賊のアジトなぞ、この高さから見ていれば……むっ!」
 きょろきょろとしていた変熊は、仲良く歩く(?)セレスティアーナ・アジュア(せれすてぃあーな・あじゅあ)土星君・壱号の姿を発見した。
 いかん! と彼は叫んだ。
「男嫌いが高じて機晶恋愛などいかーん!」
 え、いや。そういうことじゃないと思いますが
「この美しい俺様が、男の素晴らしさを教えてやらねば……その輪っかよりもすばらしいものを見せてやろう」
 ということで、心配になった変熊はセレスティアーナの後ろをひっそりとついて行ったのだった。
「あ、変態だ」
「しっ。見ちゃいけません」
 そう。ひっそりと。

「さあ! 次はあっちだぞ、土星君!」
『やからわしの名前は……ってこら聞けや小娘ぇっ』
 そんなこととはつや知らず、セレスティアーナと土星君は基地を散策していた。
「セレスティアーナ様、少しお待ちください」
「む?」
 元気満点のセレスティアーナを止めたのは酒杜 陽一(さかもり・よういち)だった。手には禁猟区を施した虹のタリスマン。お守りとしてしっかりと持たせる。……もはや恒例の儀式(?)である。
『お前さん、ちと過保護すぎんか?』
「万一ということもありますし」
 土星君がやや呆れた顔をするのに、陽一は真剣そのもので返す。守り抜くと言う意思を眼の目に感じ取り、土星君がしばし無言になった。
「よーしっ行くぞー! 視察だ! 買い物するぞ!」
『それただの観光やないか!』
 が、セレスティアーナの言葉に律儀にツッコミをいれていた。陽一はそんな様子を微笑ましく見守っている。
「じゃあこっちは頼んだぞ」
「まっかせといて!」
 セレスティアーナがこそこそとルカルカ・ルー(るかるか・るー)と話をする。横にはダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)もいる。土星君がいない間の修理を買って出てくれたのだ。
(とはいっても別の文明の物だから不明な部分は多々有ると思うがな)
『やっぱりわしは修理を』
「たまには外の空気を感じてくるといい。休息も必要だ」
 どこか不満そうな土星くんにダリルが応対している……間に。ルカルカはセレスティアーナに近寄って耳打ちする。
「こっちの事は考えずにパーッと観光……じゃなかったね、視察に行ってきて。あ、他のロイガーがやってくれてるみたいだから、セレスの護衛は、私、いいよね?」
「うむ」
 無駄にセレスティアーナが偉そうに頷くのはいつものことだとして、これで『こっそり修理して土星君に驚いてもらおう作戦』は成功だ、とセレスティアーナは思っていたりする。
 土星くんどころか全員にバレバレだったが。
(……まあ、ダリルっちゅー男なら壊すようなことはせえへんやろうがな)
 心遣いを嬉しいとは思う。だが素直に喜ぶ気にもなれず、土星君は無言のままセレスティアーナに引きずられていった。

「結構深そうね」
「ああ」
 見送ったルカルカとダリルはそう息を吐きだす。今回のかんこ……視察であの張りつめた空気がほどけると良いのだが。
「さて。あっちはセレスに任せるとして。ここはルカたちの腕の見せ所だね。工兵ぶりも板に付いた気がするわ」
「そうだな」
 2人は自分たちにできることを、と作業を開始する。連れてきた人員を各所に送り、要修復箇所をリストアップする。優先順位の高い個所、機械の含まれている個所から修理をしていこうとしたのだが
「どう?」
「……これは予想以上、だな」
 優先順位が高い個所ほど複雑怪奇な構造になっており、さしものダリルも初めて見るものばかりだった。下手に触れば修理どころか破壊しかねない。唯一分かる土星君はこの場にいないので触れないのが一番だろう。
 そうして順々に見ていくと、なるほど、とダリルは思った。ダリルたちだけで修理できる個所はあるにはあるが、全体としてみた時にほとんどない。彼がいないとできない修理個所が多かった。
「気を張り詰めるのも分かる……だが」
「ルカたちにもできることはある。だよね?」
「ああ」
 2人は頷いて、できる範囲での修理をしていく。そしてどうか気づいて欲しいと願う。

『できることは手伝うから。どうか1人で抱え込まないでほしい』

 周りには手を差し伸べてくれる存在がたくさんいるのだと。


* * *



 中継基地を回り始めた一行だったが、土星君は修理のことが気になるらしく、しきりと後ろを振り返っていた。
 ふよふよと空を浮いている土星君の頭に突如重みが増す。
「土星くん、人生は楽しんでなんぼよ? カリカリするだけじゃつまんない一生で終わっちゃうよ」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が腕を乗せたのだ。
『ちょ、何すんやわれー! って、なんつー格好をしとるんや!』
 慌てて振り払ってどなる土星君だが、セレンフィリティの服装――メタリックブルーのトライアングルビキニの上にロングコートのみ――に目を見開いた。
「あら知らないの? 余計な装飾を排して自然のままの美しさを魅せるのが、いい女の条件なのよ」
 腰に手を当て、胸を張って言ってのけるセレンさん。の横で額を押さえているセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)だったが、彼女も似たような格好なのでツッコミはいれられない。
「そ、そうなのか」
『いや、ちゃうからな』
 そんな2人の後ろにいたセレスティアーナが己の身体を見下ろしていたことについて、土星くんは不穏を感じてツッコミをいれておいた。
「それにしてもあのアンテナ、あんな形でよく電波とか受信できるわね。ていうか、アレから発する電波を受信したらデムパ系になりそうな気が……」
「デムパ系か。楽しそうだな」
『んなわけあるかい! テキトー言うなや。小娘も楽しそうてなんやねん!』
「まあまあカリカリせず」
『お前はのびのびしすぎや!』
「セレン……はぁ。セレスティアーナ様。セレンの言うことはあまりお気にせず」
 無理やり引っ張られて参加したセレアナは、まだ視察が始まったばかりだと言うのに疲れ切っていた。というのもセレンフィリティがおやつを作ると言いだし、それを阻止するのに多大な精神力を消費したからだ。
(あんなの食べさせてセレスティアーナ様に万が一のことが起ったら……想像するだに恐ろしいわ)
 セレンフィリティの料理は一部で生物兵器とまで言われているのである。お疲れ様です。
「でも一度ここへ来た時は探索に気を取られてたけど、改めてみると結構いい景色ねー」
『……まあ、それはたしかに』
「はーはっは! そうだろうっ?」
『なんで小娘が偉そうにしとんねん!』
 なんとか土星君がツッコミをいれてくれているが、セレスティアーナと同じかそれ以上にはしゃいでいるパートナーに、セレアナは他人のふりをしたくなる。とにかく調子に乗りすぎないように見張らなければ。
(少しは大人しくして欲しいわ……大人しいセレンの姿は想像できないけれど)
 ため息をつきながら、そろそろ息切れの土星君をフォローするためにセレアナは少し歩を速めた。

「初期の調査には参加していたけど、それっきりだったからなぁ。今は開発が進んでるみたいだし、様子見がてら観光してみよう……って思ったら、セレスティアーナさん直々に観光ツアー組んでるとか。参加するしかないよな」
 一度、ちゃんとニルヴァーナを見ておきたいと思っていた如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)にとって、今回の話は渡りに船だった。興味深げに周囲を見渡す。不思議な形のアンテナ塔を中心に店もでき始め、活気に満ちている。
「……うふふ。ニルヴァーナに来るのは暫くぶりですけど、随分と変わりましたわね。
 ああ、セレスティアーナ様。今回はよろしくお願いしま……あら、一緒にいらっしゃる丸いお方は……まあ可愛らしい」
 横でキラキラした目をしているラグナ・オーランド(らぐな・おーらんど)は、セレスティアーナに挨拶をしようとして、その陰に隠れていた土星くんの存在に気づく。
「ああ、土星くん壱号だ!」
『誰がや!』
「土星さんっていうのですね。一家に一人欲しいですわー」
「何その『ぽえーん』とか言い出しそうな名前は」
『は? ちがっ、ぐおおおお』
 ラグナに抱きしめられ、土星くんがじたばたと小さな足をばたつかせるが、あまり抵抗になっていない。
「いやはや、良いですねぇ新天地ってものは。何もかもが新鮮で目新しい。これだから旅は……っとと、今日は旅なんて大それたものじゃなくて観光でしたね。
 それにしてもこんな所で代王様が観光とは、もしかして暇なんですか?」
「観光じゃない! 視察だぞ!」
 からかいの口調な鞍馬 楓(くらま・かえで)に、セレスティアーナがむっとした顔で答える。だが周囲の人間たちの表情が『これはただの観光だ』と告げていた。
(いやぁ、こういう子供っぽい人を見ると、ついからかいたくなっちゃうんですよねー)
 からかいもほどほどに、楓は周囲を見回した。ラグナに解放された土星くんが、1つの店の前で立ち(浮き?)止まっていた。ジャンクショップのようで、商品を前に交渉しているらしい。
「ほほお、このようなものがあるとは……」
 佑也はラグナの目が輝いた瞬間をしかと見た。
(俺にはさっぱりだけど、なんか貴重なものなのかな。安めのなら買ってあげられるかも)
「すいませーん、これいくらですか?」
 思っていた以上に高いものもあったが、買えそうなものをいくつか探しだしてラグナに買ってあげた。
「へえ、独立する時にこちらへ」
「ええ。少し不安でしたが、おかげさまでなんとかやってます」
 楓は楓で、周囲を行きかう人々と交流を図っていた。仕事で立ち寄ることもあるかもしれない。現地の人との交流は無駄にはならないはずだ。
『意外とええもんも売っとるんやな』
「土星さん? どうかされましたか?」
 ラグナと店員、土星くんでしばし何か盛り上がっていたが、ふいに土星くんが考え込んだ。
『いや、材料に……なんでもあらへん。それより』
「さあっ! 次に行くぞ! ……次はどこだ?」
『しらんのかいっ!』
 不思議に思ったラグナだが、元気良いセレスティアーナの声に苦笑し、次なる場所へと向かって行った。