リアクション
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ルカルカ・ルーとダリル・ガイザックが、白颯を連れて聖アトラーテ病院を訪れたのは、地下書庫の魔道書達がイルミンスールに引っ越した翌日のことだった。
さすがに山犬を連れて病室に入っていくわけにはいかないので、許可を得て病院の中庭の一隅で、鷹勢と引き合わせた。車椅子に乗って現れた鷹勢は、すぐに駆け寄ってきた白颯の姿を見て、満面に喜色を湛えた。
「よかった……少し痩せたけど、元気みたいで、よかった」
白颯は鷹勢の膝に乗せた頭を撫でられて、いかにも安心した様子で尾を振っていた。その打ち解けたのどかな、幸福そうな一人と一匹の様子が、ルカルカにとって今回の尽力への対価だった。
「あなたもよかった。元気になったみたいで」
木陰のベンチに座って、二人は鷹勢に、今回の玄王獣の事件の顛末を話した。
「まさか、白颯たちのルーツがパラミタにあったとは。……驚きです」
話を聞き終わった鷹勢は、そう嘆じた。だが、その目には暗いものがあった。ルカルカにはその気持ちが分かる気がした。彼が大切にする白颯とて、その時代にパラミタに生まれていたら、玄王獣と同じ運命を辿っていたかもしれない。そう考えて、暗澹とした気持ちになるのだろう。
ダリルは、白颯ら杠家の山犬は、まだ玄獣だった時に地上に逃れた種の末裔だろうと推察していた。
玄王獣は、その存在そのものが、人のエゴによってこしらえられた悲劇である。その運命から逃れることができた白颯の先祖は幸運だった。しかし悲劇の生を生きた後までも救われず、浄化されるために長き時を封印されて過ごさねばならぬ玄王獣の霊を思うと、ルカルカの心には何とも言えない哀しみが湧き上がる。穢された原因は彼らにはないのに。
あの封印は、目の粗い網のようなものだ。――そう言ったのはパレットだった。
『毒で膨れ上がった大きな存在であるうちは、通り抜けることはできない。けれどその毒が充分に抜け、魂から余計なものが落ちて本来の小ささに戻った時、労せずくぐり抜けられるようになるんだよ、きっと』
いつの日か、浄化は完了するだろう。その時が来たら霊は自然と召され、封印の祠はただの墓標に姿を変える。
いつになるともしれぬその未来図だけが、辛うじての救いであった。
気が付くとダリルの目が、どこか複雑な色を湛えて自分を見ていて、ルカルカは苦笑する。大丈夫よ、という意思を精一杯に瞳にこめて、彼を見つめ返した。
「いつか、回復したら、その祠に行ってみたい。封印をまた危うくするなら、白颯は連れていけないかも知れないけど……
けど、せめて、花を供えたいです」
そう言って、鷹勢はまた、傍らの白颯の頭を撫でた。
ふっと、二人の目の奥に、あの洞穴の入口で同じように白颯を撫でていたパレットの姿が甦る。
よかったね。さぁ、共に生きる人のもとへお帰り。
優しく呼びかけたあの魔道書も今は、居を移したとはいえ、大切な仲間とともにいるだろう。
パートナーを失くした鷹勢にも、白颯が残った。
そして自分たち、それから多くの契約者たちにも――
共に生きる者がいる、それは紛れもないしあわせである。
参加してくださいました皆様、お疲れ様でした。
実は今回は、ガイド作成時点から非常に難産でした。出したい要素を纏めて形にするのに苦労して、それでもなかなか納得できるものに達せず……正直、PL様が読むのに相当負担に感じるような長々しい文になってしまったなぁという自覚はあります。しかしこれ以上改良ができませんでした。力不足を感じます。申し訳ありません。
にもかかわらず、皆様がそれぞれにしっかり考えたアクションをかけて下さって、本当に嬉しく、また助けられました。本当に感謝しております。それらを活かしきれたとは言えない自分の未熟さへの悔しさが残りますが……
しかし、書き終わってみて気付きましたが、「幻獣」「玄王獣」「玄獣」って、文字だけならまだしも、音に出すとかなりややこしいですよね(苦笑)。
今回時間が足りなくなってしまって称号が考え付かず、これだけ活躍してくださった皆様に何もお贈りできないのが本当に申し訳ないです。
まだまだ精進の足りない自分ですが、またお会いできれば幸いです。ありがとうございました。