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シナリオ一本分探偵

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シナリオ一本分探偵

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第一章 最初からグダグダなんだけど俺はもう限界かもしれない

「で、ドヤ顔でキメたはいいけどどうするのさ?」
「というか誰に言っているんでしょうかね」
 シナリオガイドのラストから、ドヤ顔でキメっぱなしであった金元 ななな(かねもと・ななな)にいい加減アゾート・ワルプルギス(あぞーと・わるぷるぎす)ボニーが突っ込む。
「そりゃ勿論事件に関して推理するんだよ」
「推理って……もう解決してるよ? どうやってやれっていうの?」
「例えばこんな感じだよー。それじゃ、お願いしまーす」
 そう言って現れたのは、
「はいはーい! 僕にお任せあれー!」
「冥利頑張れー」
不動 冥利(ふどう・みょうり)コール・スコール(こーる・すこーる)の二人。
「……推理するのは煙なんだけどねぇ」
 そしてその一歩後ろに不動 煙(ふどう・けむい)がぽつりと呟く。
「おっとそうだった! それでは煙にぃ、たのんますー!」
 やたらとテンションの高い冥利に煙は呆れた様な、困った様な表情で苦笑を浮かべるが、一つ咳払いすると表情を変える。
「――まず、この事件で着目すべき点は被害者である小暮 秀幸(こぐれ・ひでゆき)さんの格好だねぇ」
「確か逆立ち状態だったんだっけ? おかしいよね」
「普通そんな格好にならないよ」
 煙の言葉に、冥利とコールがうんうんと相槌を打つ。
「何故そんな格好になっていたか……それは犯人が小暮さんを殺害した方法に理由があるんだよ」
「いや、だからそれは殺害じゃなくて……まぁいいか、理由っていうのは?」
「普通なら逆立ちになる、って無いですからね」
 アゾートとボニーの言葉に、煙が首を横に振った。
「確かに普通なら逆立ちなんて無いよねぇ。でも、一つプールで逆立ちになる物があるんだよ……そう、シンクロナイスドスイミングが!」
「「「な……ッ!?」」」
 煙の言葉に、その場にいた冥利、コール、なななが言葉を失う。
「いやシンクロって一人でやる物じゃないよね!?」
「そもそもどうやって殺すっていうんですかシンクロで!」
 アゾートとボニーが至極真っ当な事を突っ込むが、煙は全く聞いておらず続けて言った。人の話は聞いた方がいいと思う。
「まず犯人はどうにかして小暮さんをプールサイドまでおびき寄せる。そして小暮さんになんやかんや頑張ってプールでシンクロをするように説得する。一種の催眠状態に陥った小暮さんはホイホイとプールに飛び込み、犯人が流すBGMに合わせて演技」
「演技しちゃうんだ!?」
「テンションは最高潮になり、小暮さんは目玉である逆立ちの演技を行う。しかし、小暮さんは必須アイテムと言える鼻栓をしていない。逆立ちになった小暮さんの鼻にはプールの水が入り込み、ジ・エンド――」
「ちょっと待とうか。おびき寄せる方法とか途中豪快に端折ったね」
「説得でシンクロさせるほどの催眠状態にって無理ないですかね?」
「それになんやかんやって何さ?」
 アゾートとボニーのツッコミに対して、煙は目を閉じる。
「なんやかんやは――」
 皆が息を飲む。そして、煙が目を見開いた。
「なんやかんやです!」
 その言葉に、冥利とコールとなななは驚いたような表情を浮かべた。
「いや……それは流石に……」
「無理がありすぎじゃないでしょうか……?」
が、流石にアゾートとボニーは困ったような表情で煙に言った。無理がありすぎる、というより無理しかない。
「……やっぱり無理かねぇ?」
 同意を求める煙に、
「え? 無理なの?」
と冥利は首を傾げ、
「無理に決まってるよ」
とコールが小馬鹿にするように言った。
「……で、どうするの? 彼女達もう何もないみたいだけど」
「これで終わりですか、なななさん?」
 アゾートとボニーが問い詰めるが、どうという事無いようになななが言う。
「じゃあ次」
「「じゃあ!?」」

 あまりの軽さに驚く二人を置いといて、続いてルース・マキャフリー(るーす・まきゃふりー)を連れてきた。
「そんじゃよろしくー」
「オレの番か。じゃちょっくら話させてもらうぜ……さっきの娘達の推理、まぁ悪くは無かったかな」
「何処を聞いて今のが悪くなかったって評価が出るのかわからないんだけど」
「オレも着目したのは一緒だ。何故逆立ちになったのか……同じようにオレも殺害方法による物だと思う」
「全く聞いてませんね……」
 アゾートのツッコミなど全く耳に入っていない様子のルースにボニーが苦笑する。
「まず犯人は小暮をプールサイドまでおびき寄せる。方法は呼び出すなりなんなりしてだろうな」
「あ、今度はまともっぽい」
「そこで犯人は行動を取る……犯人は、小暮の大切な物をプールへと沈めたんだ」
「はぁ……大切な物、ですか」
 ボニーの言葉にルースが頷く。
「そう、大切な物だ。プールなんかに沈められたらひとたまりもないだろう。小暮はプールへ潜って取ろうとするが、なかなか取れない。何度も何度も潜る内に、鼻に水が入りそのままジ・エンド――」
「成程……大切な物なら必死になるよね!」
 ななながはっとした表情を浮かべる。
「ちょっと待って。どこから突っ込んでいいかわからないよボクは」
だがその横でアゾートがコメカミに指を当て、顔を顰めていた。ボニーも何と言っていいかわからない、という表情である。
「え? でも大事な物だから早く拾わないといけないよ?」
「いやまずそこ。大事な物ってさっきから言ってたけど、大事な物って何さ?」
「現場にそれらしき物はありませんでしたよね?」
 ボニーの言葉にアゾートがうんうんと頷く。
「大切な物? それは……」
 ルースが一瞬間を開け、全員が息を呑む。
「大切な物です!」
 そのルースの言葉に、目を見開き驚きの表情を浮かべる。なななだけが。
「うん、答えになってないから」
「答えになっていませんよね」
「……ダメ?」
 なななが首を傾げるが、
「「うん、駄目」」
アゾートとボニーに即答されてしまう。
「ちぇー……それじゃみなさんお疲れ様ー」
「え!? ちょっと待てよオレの出番これで終わり!?」
「煙達の出番は!?」
「大丈夫、あるよ! ただその様子が描かれていないだけだから問題ない!」
「「問題しかない!」」
 まだ納得がいかない様子のルースと煙をどうどうと宥めつつなななが退場させていた。
「……このノリ、いつまでやるんだろう」
「最後まででしょうね……きっと」
 アゾートのぼやきにボニーが答える。
 ちなみにボニーの言う通り、今回は最後までこんなノリである。