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【ですわ!】捕らわれ少女と闇夜の取引

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【ですわ!】捕らわれ少女と闇夜の取引
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リアクション



第三章

「大変お待たせしました。これよりオークションを開始したいと思います」
 舞台の上に上がった司会者に、大広間に集まった客たちが一斉に拍手を送る。盛大な拍手は締め切られた空間の中で幾重にも反響し、会場を震わせた。
 拍手が鳴りやむと、舞台の上に巨大なモニターが降りてくる。
「開始に伴い、まずは皆さまに商品のご紹介をしたいと思います。こちらをご覧ください」
 モニターに、桜の花びらのような形をした宝石が映し出された。赤から始まり次々と輝きを変化させる宝石は、見ているだけで惹き込まれそうになる。
「こちらは『常世の七色桜』。七色に輝く不思議な光の中に亡くなった親しきの者の姿が見えたと言われ、冥府へと繋がっているとも噂されております。同じ物が存在しないため、値段をつけがたい商品になっており……」
 その後も次々とオークションに出される商品が映し出され、司会者の解説が続く。
「続きましてお見せする映像は少々ショッキングな物になります。心臓の弱い方はお気をつけてください」
 映し出されたのは暗い地下牢だった。石造りの壁に蝋燭の明かりが揺らめく。
 すると、モニターにボロボロになった少女が映される。その少女に近づく男の手には、先端が真っ赤に色づく焼きごてが握られていた。
 泣きわめく少女の首筋に焼印が押され、会場に悲痛な叫び声が響きわたった。
「現在、出荷の決まった商品にタグをつける作業を行っている最中です。これらは安全と品質保証のために必要な処置として、皆さまに御同意いただいております」
 カメラが移動し、鎖に繋がれたポミエラ・ヴェスティン(ぽみえら・う゛ぇすてぃん)が映し出される。顔は青ざめ、耳を必死に塞いでいた。
 次は自分の番かもしれない。そう思うと身体の震えが止まらないのだ。
 生徒達は【テレパシー】による呼びかけを試みるが、ポミエラには届かなかった。
 画面を見つめるローグ・キャスト(ろーぐ・きゃすと)は、血が滲まんばかりに拳を握りしめる。
「あいつら……」
 すると、その拳に重ねるようにフルーネ・キャスト(ふるーね・きゃすと)が握ってくる。
「落ち着いて、こっちを見てるよ」
 映像を見せながら司会者が会場全体を見渡していた。
 ローグは長く息を吐き出して、気持ちを落ち着かせる。
「フルーネ」
「なに?」
「助けが間に合わなかった場合、俺達で競り落とすぞ」
「うん」
 モニターを見つめるローグの横顔に、フルーネは嬉しそうに微笑んだ。

 会場でモニターを見つめていた天禰 薫(あまね・かおる)は苦しそうに胸を抑える。
「薫、大丈夫か?」
「胸、ちょっと痛いのだ。でも……ポミエラさんは、もっとつらいから……」
 心配してくれた天王 神楽(てんおう・かぐら)に薫は笑みを作ってみせる。
 神楽は呆れたようにため息を吐き、薫の頭に手を置く。
「縋って契約してくれてもいいんだぜ」
「神楽さんには絶対に縋らない。契約も……望んでない」
 手を払って口にした薫の言葉に、神楽は肩を落として落ち込んでいた。
「あ、そういえば……」
 薫は思い出したように会場を見渡す。
「フレンディスさん達も来ているんだっけ。……どこにいるかわかんないや」
「狼の耳と尻尾の奴か。会ってみたかった……もふもふしたかったな」

 商品の紹介が終わり、飲み物と商品リストが新たに配られる。
「呼んだか?」
 予定通りベルテハイト・ブルートシュタイン(べるてはいと・ぶるーとしゅたいん)に呼び出され、捜索から戻ってきたウルディカ・ウォークライ(うるでぃか・うぉーくらい)
 ベルテハイトの横には周囲に心配されながらぐったりしているグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)の姿があった。
「弟の具合が悪くなってきたようなのだ。どこか休める場所へ連れて行ってくれ」
「私達も連いていきます」
「頼む」
 ウルディカに肩を貸されて会場を立ち去るグラキエス。心配する姉のように振る舞いながら、フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)も仲間と共に出て行く。
「ご迷惑かけたお詫びにBGMでも」
 一人残ったベルテハイトは、綺麗な歌声に【人魚の唄】を混ぜて足止めを行った。
「ここまでくれば大丈夫ですね」
 後を追ってくる者はいない。
 密偵として送り込んでいた下山忍さんと合流したフレンディスは、巨大な彫像の影で来ていたドレスを抜き出した。
「やっぱり動きやすいこちらの方がいいですね」
 ドレスの下には着なれた忍装束。窮屈そうに仕舞われていた自称金狼の耳と尻尾がぴょこんと飛び出る。
 武器もしっかり握りしめ、彼女達は集めた情報を元に守護鳥の雛を救出に向かう支度を整える。
「もったいないな……」
 そんな中、下山忍さんによって箱に戻されるドレスを見つめながら、ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)はため息を吐いた。でもドレスが無事ならば、いつかまたフレンディスのドレス姿を拝めるかもしれない。そう期待を寄せるのだった。


「どうもお疲れ様です。差し入れを持ってきました」
 給仕に扮した遠野 歌菜(とおの・かな)は、ノンアルコールのドリンクと簡単に食べれるサンドイッチやおにぎりをガードマンの所へ持ってきた。
 お手製の差し入れを快く受け取るガードマン。すると月崎 羽純(つきざき・はすみ)が独り言のようにつぶやく。
「大変だな。人なんてほとんど行き来しない所で警備なんて」
 ガードマンは相手が会場のスタッフであることもあり、この先に商品保管庫の一つがあることを口に漏らした。
(――商品保管庫か。もう情報を掴んでいる奴がいるかもしれんが、一応連絡をいれておこう)
(――お願い、羽純くん)
「どうも!」
 二人が【テレパシー】で会話していると、突如背後で明るい声がした。
 振り返ると、ガードマンの格好をした笹奈 紅鵡(ささな・こうむ)が歩いて来ていた。
「見張り番の交代に来ました」
 紅鵡は差し入れを受け取ったガードマンに挨拶を交わし、通路の奥へ向かう。
 一瞬、振り返った歌菜と目があった。

「悪いけど、少しの間休んでいてくれ」
 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)の足元には気絶させたガードマンが転がっていた。その腰につけられたカギの束を奪い取り、メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)に向ける。
「どれがどこのカギかわかりそう?」
「やってみないとわかりませんが、一応読み取ってみることにしましょう」
 メシエはカギを受け取り、進んできた通路を振り返る。遠くの方が何やら騒がしい。
「ひとまず先を急ぎながらの方がいいんじゃないですか?」
「そうだね。進みながらで頼むよ」
 二人は雛を助けに通路の奥へと進む。

「これで少しは楽になりましたかね」
 ガードマンとして潜り込んだ紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は、生徒達が行動しやすいように回線をいくつか遮断していた。これにより、一部の監視カメラと防衛システムを停止する。
 足元に転がったガードマンの無線から、応援要請が聞こえてくる。生徒達がほぼ同時に様々な場所で行動を開始したため、混乱が生じているようだった。
「唯斗〜、なんか捕まえたぞ!」
 声に振り返ると、狼化したリーズ・クオルヴェル(りーず・くおるう゛ぇる)の口にリラード人形が挟まっていた。
「こいつは式神? 何か探してたのですか?」
 リラード人形は羽を動かしてリーズの口から逃げ出そうとしていた。
 唯斗は助けだして何を探していたか問いかける。するとリラード人形は唯斗のポケットから商品リストを取り出し、『守護鳥の雛』の部分を示した。
「雛ですか……」
 保管場所の目星はついている。しかし、唯斗には『闇ルートを解明して根本から叩き潰す』という目的があった。
「でしたら情報を流しましょう……皆さん、に」
 雛の保護は他に向かっている人に任せ、自分は自分の目的のために。
 唯斗はせめて動きやすいようにと生徒達と式神に情報を、さらにガードマン達にも偽の応援要請を行った。


「思ったより早かったな」
 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が一緒に見張りをしていた男性は気絶させると、タイミングを見計らったように騎沙良 詩穂(きさら・しほ)達ポミエラ救助隊がやってきた。
「だって、途中のガードマンがほとんど買収されてたんだもん。戦闘なんてあってないようなものだよ」
 詩穂は拍子抜けだったと肩を落としてながら笑ってみせた。
「そっか。時間が惜しい。準備はできてるようだし行くとするか」
 生徒達は早々に薄暗い地下道へと足を踏み入れる。
 剥き出しの土に出来た水たまり。駆ける生徒達の足に泥が撥ねる。
 すると、進行方向でボウッと火が灯る。
「うわっ、危ない!?」
 次の瞬間、正面から炎の玉が飛んできた。
 咄嗟に詩穂は身体を捻って別れ道に身を隠す。
 同じく身を潜めながらエヴァルトが通路を覗きこむと、巨大な蜥蜴が再び口から炎を吐きかけてきた。
「ちぃ! こいつが例の化け物か。随分気が立っているみたいだが、エサやんなかったせいか?」
「そうかもね。どいてくれる気はないみたいだけど、他の道行ってみる?」
「いや、そっちの道ははずれだろう。ほら、見てみろ」
 ぬかるんだ道に大人の物と小さな子供の足跡が残されていた。足跡はまっすぐ蜥蜴が立ち塞がる道の先へと進んでいる。
「……仕方ないですね。ここは強行突破で――」
 飛び出した詩穂は、火の玉を回避し、岩陰に飛び込むつつ引き金を引く。撃ちだされた弾丸は綺麗に蜥蜴の額へとめり込む。さらに、左右に飛び出してきた相手に【二丁拳銃】で隙を与えず攻撃を与えた。
 薬莢が周囲に散らばり、火薬の匂いが湿っぽい地下道に漂う。
 詩穂は次の弾を装填しながら走り出す。
「止まっている暇はないんですっ! 一気に駆け抜けますよ!」

 永遠に続くかのような地下道を進んだ先にある牢獄で、少女は身を震わせていた。
 焼印の作業が終わった後、多くの子供が看守に好き放題されていた。全てが終わった後もポミエラの耳には叫び声と鞭の音が残響している。
 隣の牢で鎖に繋がれた放心状態の少女を見ると、自分もいつかあんな風になるんだと嫌な想像をしてしまう。泣きだせば看守が鞭を手にやってくる。だから、ただ震えて脅えているしかない。
 そんな時、ポミエラの頭に手が置かれる。
「大丈夫だよ」
 一緒に捕らわれていた黒乃 音子(くろの・ねこ)が頭を撫でていた。
 ポミエラの瞳にじわりに涙が滲む。必死に堪えるポミエラは、音子の胸に顔を埋める。音子はその背中に手を回して抱き寄せると、看守に話しかけた。
「お兄さん、お兄さん、何か布団になるようなものはないですか?」
「あ?」
 看守は面倒そうにしながらも、ボロボロな布きれを渡してくれた。
 どうやら、先ほどまで子供をいじめていた看守と違って、この人は話がわかるタイプらしい。
「最近はどう? 儲かってる?」
「なんでそんなことお前に……ま、いいか。どうせ暇だしな。上が変わってからは悪くないさ。ただ、未開拓の土地から連れてきたかなんだか知らんが、わけわかんねぇ生物の世話をさせられるのは簡便して欲しいぜ」
 音子はポミエラを励ましつつ、看守から本来の任務である情報収集を行う。商品として捕まるのは予想外だったが、これはこれでうまくいっている気がした。