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行方不明になった少女達と森の化け物達

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行方不明になった少女達と森の化け物達

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■ 少女達の捜索 ■



 鬱蒼と茂る森。常闇に沈む森に注ぐ月明かりは契約者達の足元を照らすほどには明るい。
 月明かりの木漏れ日を浴びながらエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)は行方不明の少女達の捜索を続けていた。
「行方不明者が居て、人が襲われている事件があるなら関連性を疑ってしかるべき。ってことでここまで調べにきたけど……」
 現在地を確認しながら慎重に獣道を歩くエースは退路の確保を兼ねて申し訳無さそうに小枝を退けながら小さく息を吐いた。
「メシエ気づいている?」
「ああ。フクロウの鳴き声一つ聞こえない」
「どう考えてもドンピシャっぽいけど、もう少し手がかりが欲しいな」
 怪しさ全開の森の中、考え込んだ後エースは目の前の木の幹に右掌を置いた。
「ちょっとだけでもいいから教えてくれるかな?」
 人の心、草の心で囁く様に尋ねると返答はすぐに戻ってきた。エースは反射的に一歩下がる。
「エース?」
「あ、いや、少し驚いただけだよ。俺の知っている植物たちとはどうもこの森は違うらしい。呪いとアンデッドと少女と、あと、そっち、って言ってる」
「そっち……はこっちか」
 エースが尋ねた木とはだいたい反対側にメシエが近づくと、彼は「そっち」の意味を理解した。枝に布の切れ端が引っかかっていた。言われなければ気づけなかったくらい小さい布切れは汚れておらず埃もついていないくらいは新しい。
 それをメシエがサイコメトリの手で拾い上げる。
 魔女の呪いの影響を受けてかノイズがかるビジョンにメシエは眉間に皺を寄せた。
 念の為にと記憶術で覚えた行方不明の少女が着ていた服装と布切れが伝えてくる映像とが重なった。
 完全に一致している。
 と、エースは自分の背後に視線を走らせる。警戒のため周囲に巡らせた殺気看破に反応があった。
 臨戦態勢を取る二人の前にそれは姿を現した。
 森の闇色から浮かび上がる様は肌を粟立たせるに十分だろう。
「ねぇ、メシエ。ミイラってこんな身なりよかったっけ? というかあの服のブランド俺も知っているよ。そこのお嬢さんが確か行方不明者リストに載っていたよね」
 エースが軽めに言うが、メシエの眼差しは更にきつくなるだけだった。現れた小柄なミイラが身に着けているのは先程の映像と同じものであった。メシエが握る布切れとも同質の素材でもあった。
「残念な仮説があるが聞くかエース?」
「俺もなんとなく察しがついてるよ」
 手加減して欲しいと願うエースに、状況が許すならとメシエは快諾した。



 主犯が存在しない事件は皆無に等しい。
 いたいけな少女がアンデッドへと変貌した。その話を耳にしていた夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)は唇を真横一文字に引き締めたまま無言で森の中を歩いていた。
 目指すは首謀者の拠点。大元を叩き潰して全ての事件の解決を目標と掲げていた。
 連絡を受けてタイヤの跡が続いている道を歩き進む甚五郎の後ろを草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)ブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)がそれぞれ警戒しながら付いて行く。
「のぅ、首謀者を捕まえるんじゃろ?」
「ああ」
 羽純の問いかけに甚五郎は頷いた。
「話によればおなごが化け物になったとか」
「ああ」
「元に戻るものと思うか?」
「……それをおぬしが聞くか?」
 意見を求められて甚五郎は返答を濁した。その様子に羽純は、ふむと頷く。
「なれば、余計に捕まえんとな」
「――と、来たか」
 最初に動いたのはブリジットだった。動いた茂みへと素早く接近する。飛び出してきたミイラの片腕を素早く掴み上げ、背後に回ると残る左手も握り拘束に成功した。
「アンデッド化した子は捕獲します〜」
 逮捕術を構えたホリイが地面を蹴った。
「もう一体おるッ」
 羽純の叫びに甚五郎がホリイのフォローに入った。ホリイ目掛けて飛びかかった二体目のミイラの振り上げられた腕をいなし、がら空きの胴に鉄下駄の一蹴りを入れた。
 加減していたとはいえ元々の少女の体躯のまま変化したミイラは重心が狂ったこともありあっけなく後ろに倒れこんだ。
「なんて醜い」
 身に着けている衣服こそ傷みが少なく綺麗だったが、その容貌は数日前まで少女だったとは思えないほど体は骨ばかり浮き、肌は干からび土色に変色し、髪に至っては元の色の面影が残っていない汚れた白色だった。
 思わず呟いた羽純に同じ気持を抱いたのかホリイも甚五郎も顔を曇らせた。
「ホリイ」
 ブリジットに呼ばれてホリイは慌てて、彼が掴んでいるミイラを捕縛し、保護を終了させる。
 甚五郎に蹴られて倒れたミイラは立ち上がると目の前に立っていて甚五郎に向かって再度飛びかかった。
 羽純がイナンナの加護を発動させた。
 枯れ枝に似た手を振り薙ぐミイラの攻撃を回避する甚五郎は、しかし、反撃を躊躇っていた。
 元々が少女だから、というのがある。じりじりとにじり寄るように距離を詰めてくるミイラの顔が、リストに載っていた顔写真とタブって見えて、さながら助けを求められている気分だ。
 と、ミイラの動きが止まった。
「ホリイ」
 一体目が落ち着いてブリジットが援護に入っていた。不意打ちでの背後から拘束にミイラが攻撃対象を変えようとした隙をついてホリイが確保を決める。
 呆気無く二体のミイラの拘束に成功した甚五郎達はしかし、喜びも安堵もしなかった。
「幸い、と見るべきじゃのぉ」
 人がミイラに変じた。ただそれだけの出来事とは到底思えない。簡単に捕らえることができたのは不幸中の幸いと同じ確率だろう。
「主犯を見つけるぞ」
 兎にも角にも大元を潰さねば問題の解決にはならないだろう。
 その場に捨て置くことに躊躇い、改めて拘束し直したミイラを甚五郎は抱き上げる。もう一体をブリジットに頼み、気合を入れ直した彼は再び歩き出した。



 アンデッド討伐に赴いた笠置 生駒(かさぎ・いこま)は夜の闇に紛れて襲い掛かってくる脅威にいつでも対応できるように火炎放射器のトリガーに指をかけたまま森の奥へと突き進んでいた。
 獣道がいつの間にかタイヤの跡が刻まれた道へと合流した。
「ウキー!」
 ジョージ・ピテクス(じょーじ・ぴてくす)が殺気看破の反応に威嚇の声を張り上げる。木々の間をすり抜け猛スピードで接近してきたミイラに挑むように同じく突進した。
 右真横から左真横に攻撃に薙がれたミイラの腕をジョージは頭を思いっきり伏せることで躱すとそのままミイラの両膝を両手でロックし、走り込んだ勢いのままミイラを押し倒した。
 火の浄化を以ってアンデッドを退治しようと火炎放射器をミイラに向けて標的を凝視した生駒は大きく目を見開いた。
 生駒の追撃が無いことにジョージはではまだ自分のターンなのかと判断し更なる攻撃をと野生獣の如き動きでミイラに拳を振り上げる。
「ジョージ、待って!」
 制止を受けてジョージは攻撃から防御に態勢を転換する。攻撃には反撃だと無理な態勢を押して飛んできたミイラの拳を顔を両腕でガードする形で防いだ。飛び退く。
「どしたん?」
「おかしいと思わない?」
 酒が入っているのか万年酔っぱらいのシーニー・ポータートル(しーにー・ぽーたーとる)がワンテンポ遅いタイミングで生駒に話しかけた。
「ワタシ達アンデッド退治に来たのよね?」
「なんや今更」
「見てよあのミイラ」
「ん?」
「すっごい小奇麗だと思わない?」
 ミイラだ。どっからどう見てもミイラだ。ただ、それは中身の話であって、身に着けている衣服はミイラが身に着けるにはあまりに新しすぎる。それに装飾は可愛いし、良く見てみれば生駒でも名前くらいは知っている結構値の張るブランド物だ。
「オシャレさんちゃうの?」
「ミイラにそんな嗜好があるなんて聞いたことないわ。どちらにしろ、なんかちょっとおかしいわよ」
 退治してしまえば全てが済むが、生駒の中で違和感の方に重きが置かれた。
「ジョージ、シーニー、そのミイラ捕まえよう」
「え?」
「ジョージそのまま相手してて隙を見て捕まえましょう。シーニーなんか縛れる奴探してきて、できるだけ頑丈そうなやつ!」
 指示を出すと生駒は火炎放射器の火力を最小値まで下げた。ジョージは引き続きミイラへの相手をし、シーニーは頑丈なやつを探しに自分たちの荷物や森の中を千鳥足で探し始めた。
 生駒たちがやっとミイラの捕獲に成功した頃、エースと甚五郎達がやや離れた所で生駒に大声を張り上げていた。



 もうすぐ魔女の館が見えてくる頃だ。