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第4章

 その頃、女湯では。
「女湯には、テレビカメラは入らないそうだ」
「今のうちに温まりましょう」
 やってきたセレスティアーナと理子に近づく影がふたつ。
「理子さん、セレスティアーナ様、宮殿を抜け出してこんな所に。皆、心配していますよ。俺も、理子さん達の身に間違いが起こってないかって……」
「ちょっとちょっとー! リコもセレスも、何こっそり温泉にきちゃったりしてんのよ〜っ!」
 理子に想いを寄せている酒杜 陽一(さかもり・よういち)と、妹として陽一に強い思慕を抱くアリスの酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)だった。
「いや、これはその……」
「どうしてわかっちゃうのかしら、変装してるのに」
「えー! 変装してるつもりだったの?」
 そんなふうに、楽しそうな理子たちに、水を差すのは気が引た陽一は、日頃から自由な外出もままならない彼女たちのお忍び休暇の間、共に滞在して、守ろうと心に決めた……のだが。
「もーこうなったら、代王にあるまじき行為に及んだふたりを、私が仕切るしかないわね」
 美由子が、なぜか、【資産家】を発動。
「この場でお金を沢山持ってる私の立場が有頂天になるのは当然だからね」
 などと言い出した。
「この金は、皆が楽しめる様に、俺が管理しておくぜ」
「うわなにをするのおにいちゃん!?」
 金を取り上げられた美由子がわめく。
「私のお金よ!?」
「殆ど俺が稼いだ金だろ!」
 言い争いをはじめた麗しい兄妹の前を、男湯から列をつくって出てきた巨大ひよこが、とっとことっとこ。
「……ということは」
 美由子が、女湯の戸をがらりと開けると、そこには、マーガレットが仕込んだ巨大ひよこが、わらわらもふもふと増殖していたのだった。

 菊の間に通された紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は、不可視の糸を、窓とドアに仕掛けて、不審者を警戒していた。
「見張りなんて、必要ないんじゃないかしら?」
 リーズ・クオルヴェル(りーず・くおるう゛ぇる) は、少し呆れている。
「まぁ、こんな旅館で、そうそう変なのが出るとは思わないけど、念の為……出たら出たで匡壱と迎撃だ」
 唯斗は、休暇のタイミングが一緒になった 匡壱たちと計画したこの小旅行を、ずっと前から楽しみにしていたのだ。
「休暇の為に仕事も前倒しで終わらせて来たんだ! 邪魔されてなるものか!!」
「ま、良いわ。仕方ないから付き合ってあげる。エクスは睡蓮を見ててくれるって言うし、隣にいてあげるわよ」
 エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)紫月 睡蓮(しづき・すいれん)は、蘭の間に荷物を置くと、佐保と誘い合って、露天風呂に向かった。
「旅行って良いわねー楽だわー」
 紅葉で染まった景色を眺めて、しばらくの間、ただ、のんびりするのも悪くない。
 そんな気分に浸っていたふたりの前に……、
「一大事だ! モンスターが出た!」
 駆け込んできた匡壱の知らせに、唯斗は、覚悟を決めて叫んだ。
「葦原明倫館の男衆には、平和など無い!!」

「んー、旅行は良いのー自分で何もせんでも飯、風呂があるのが素晴らしい。そしてやはり温泉だ!」
「いいお湯ですね〜」
「良い湯でござる〜」
 エクスと睡蓮、佐保は、湯を埋め尽くす巨大ひよこの群れと一緒に、湯船に浸かっていた。
 温泉卵だとばかり思っていたものから、次々と色とりどりのひよこが生まれ、温泉の湯を飲んだ途端に、みるみる大きくなったときには驚いたが、大きくなっても、ひよこはひよこ。ぴよぴよと鳴いたり、泳いだり、とっとこ走り回ったりしているのを気にしなければ、何の支障もないどころか、むしろ、もふもふが心地良い。そして、かわいい。
「んー、気持ちいいです〜唯斗兄さんも、一緒に入ればよかったのに」
 睡蓮は、ピンクのひよこに抱きついて一緒に泳いでいる。
「一緒は無理だ」
「無理でござる」
「ご飯楽しみだなーご飯は、唯斗兄さんとリーズ姉さんも一緒ですよね?」
「ご飯は一緒だな」
「一緒でござる」
 ゆったり漂っていると、外からもひよこが……と思ったら、それは、着ぐるみを着たレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)佐野 ルーシェリア(さの・るーしぇりあ)だった。
「ピヨピヨもふもふですよねぇ。ピヨと言えばあちきですよねぇ」
「ピヨたちに罪は無い! ピヨたちに愛の手を!」
 ふたりが着ているのは、レティシアの牧場で売っている「麗茶牧場のピヨぐるみ」。
 ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)が、手にしたデジタルムービーカメラで、ふたりと巨大ひよこ、そして卵が入っていた籠の撮影する。
「この顛末の一部始終を記録に残すことにしたんです。どうやって、巨大ピヨが生まれたのか、そしてどうなっていくのか等、全部です。余計なものは撮影しないから、安心してお風呂を楽しんでください」
「何か考えがあるのだな?」
 エクスに尋ねられて、ミスティが頷く。
「温泉卵の籠を用意したのは、空京テレビのプロデューサーなんです。このデータが有れば、空京TVとの交渉も上手く行くでしょうから、風船屋に不利な情報が流れることもないですし、無料で宣伝も出来るでしょう。可愛いところは、編集して、風船屋のCMとして、使ってもらえればいいでしょうしね」
「なるほど、そういうことなら、協力しよう」
 エクスと睡蓮、佐保は、こんなときのために、一応用意してきた水着姿になった。
「待って! あんたたちは、勘違いしている! その巨大ひよこはピヨじゃない、モンスターよ!」
 リーズの声が、露天風呂に響く。男湯の惨状を知って、女湯を心配しているけれど、廊下で待機するしかない唯斗たちを代表して、様子を見に来たのだ。
「男湯には、巨大ひよこだけじゃなく、触手スライムモンスターが出たんだよ!」
「こっちにはいませんよお」
 と、睡蓮が、巨大ひよこの上から答える。
「簡単に言えば、巨大ピヨ達を、風船屋の名物にしてしまえばいい話なんですよねぇ」
「統率が取れてないから迷惑かけるだけで、方向性を統一できれば大丈夫ですぅ」
 レティシアとルーシェリアは、ピヨぐるみを着ることで仲間だと思わせ、巨大ひよこを誘導したり、踊りを覚えさせたりしようというのだ。
 湯船の中で、音楽に合わせて、ぴよ、ぴよ、ぴよ。
「私、センターを目指します!」
「センターはわらわだ!」
「……拙者も……でござる」
 いつの間にか、睡蓮もエクスも佐保も、踊りに巻き込まれている。
「ピヨの姿でピヨ回しをするってのも面白いですよねぇ」
「あとで散歩も教えましょう」
「今の、すごく良かったです。風船屋のCMにぴったり」
「お土産物を各種用意するように、ブルーウォーター商会へ指示を出していますので、後で納品されると思いますよ? お土産の収入が増えれば、より経営が安定するでしょうからねぇ」
「これだけ踊れたら、有用性をアピールできて、集客できる名物マスコットとして、ご近所の他のお店でも飼ってくださるかもですぅ。そうなれば、また、ピヨぐるみを着て、巨大ひよこと一緒に散歩なんてかわいらしいことも……」
 しかし、好事魔多し。
 夢を語るレティシアとルーシェリアの背後で、ぴちゃり、と不穏な音がして……、
「出た! 触手スライム!」
「金を失った悲しみを、ここで晴らす……!」
 美由子が、機晶戦車用大砲を搭載した機晶戦車に乗り込む。
「敵を皆殺しじゃー!」
 どっごーん!
 一応、周囲に被害が出ない様に気を付けたつもりではあったのが、女湯の壁は、見事に吹っ飛んでしまった。