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リアクション
■第二幕:個性的な講師たち。過ぎていく訓練の日々
「っとこんなもんだよ」
瀬山 裕輝(せやま・ひろき)は徒手空拳による型や技を優里たちに見せていた。
その腕前は一流と呼んでも差支えないほどだ。
突き出された拳は風を切り、空気の震える音が新米冒険者たちの耳に届く。
重い一撃。しかしその動きは俊敏で軽快。
熟練の腕とはかくも無理のない動きである。
「なにをすればそんなことができるようになるんですか!」
「もちろん修行だよ。修行!」
その単語に優里は目を輝かせた。
「いいですね修行! 地球にいた頃に憧れてたんですよ。野山を駆け回ったり滝に打たれたり、禅に取り組んだりとか!!」
うんうん、と瀬山は頷く。
「ではこれからオレが直々に修行のイロハを教えてあげちゃおう。ついて来るんだ!」
「はいっ!」
意気揚々と歩き出す二人の背中を見つけて風里は呟きます。
「良いことが起きそうね……はぁ」
「何してるんです?」
「見てわからない?」
瀬山に話しかけてきたのは志方 綾乃(しかた・あやの)だ。
彼女の視線は自然と下に向いた。そこには廊下を雑巾掛けしている優里の姿がある。彼のパートナーはどこだろうかと辺りを見回すと、教室の中で席に着いてボーっと黒板を眺めていた。
「私には掃除をしているようにしか見えないんですけど」
「正解。あ、まだ汚れてる部分があるっ! もっと丁寧にっ!!」
はい、と素直に返事をする優里に瀬山はうんうんと頷きながら志方の肩を叩いた。
そして口を開く。
「飽きたから後は任せた」
「ちょ、え、……えーっ!?」
そのまま去っていく瀬山。
拭き終って戻ってくる優里。
そしてタイミングを見計らったのか、教室から出てくる風里。
「こ、これから精神修行のトレーニングをします」
「また修行ですね。任せてくださいっ!」
志方は二人を連れ立って教室へと入る。
優里たちが席に着いたのを確認すると話し始めた。
「集中力を養うイメージトレーニングはとても大切です。極限の戦いでは僅かな心の乱れが命取りになるものです。そこで今日はお二人に瞑想をしてもらいます」
志方の指示に従って二人は瞑想を始める。
風里だけ薄目を開けて様子を窺っているが志方は気付いているのかいないのか、注意することはなかった。彼女は説明を続けていく。
「姿勢を正しましたね。あとは呼吸を落ち着かせながら、ただ一念『種モミを持ったおじいさんが襲われる映像』だけ強く心に思い浮かべるようにしてください」
言われたとおりに優里はその映像を思い浮かべる。
対して風里はできるだけそれを意識しないようにしているのか、辺りの様子を窺い続けていました。しばらくすると優里が軽く呻いて瞼を開きます。
「なんかだるいです……」
「それでいいのです。これであなたは種モミ剣士への道を一歩踏み出したのです」
ふらふらと頭を軽く左右に揺らしている優里を見て風里がため息を吐きました。
「やっぱり姉としてはその性格のままだと心配しなくて済むわ」
「おじいさんが……おじいさんが……」
何やら呟いている優里に志方は『転職用種モミ袋』を手渡しました。
「このあとも訓練でしょうが頑張ってくださいね! あなたたちならきっと一人前の種モミ剣士になれることでしょう」
彼女はそういうと満面の笑みを浮かべて教室を後にしました。
いまだ揺れ続ける優里を眺めながら風里は言いました。
「次はダンスらしいわ。とても役に立ちそうな講義だけど、大丈夫?」
「だいじょぶだよー」
席を立ち、体育館へ向かう。
しかしその足取りは重い。
「なんなのかしらね。種モミ剣士って……」
■
体育館ではリアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)が何故か耳と尻尾を生やして待っていた。羨ましいのだろうか、瞳を輝かせて風里は彼女の耳と尻尾を見つめている。
「僕は踊りを教えるよ。軽快な足運びとかは戦闘でも活かせるはず! でもまずはマナーから覚えないとね」
二人は拍手や掛け声に関しての注意事項を教えてもらう。
今回教わるのはフラメンコらしく、手拍子は駄目らしい。
「意外な事実ね」
「でも掛け声は盛り上げるために必要だからしてもいいよ」
「確かフラメンコって元々歌だけでしたよね?」
「そうだよ。あとから踊りが入ったから、リズムを崩さないために手拍子は禁止だったのかもね。フラメンコでは音楽に合わせた動きが重要だから、手と足の動きが重要だよ。慣れてきたら姿勢とか本格的になるけど」
言い、彼女は床を踏み鳴らしながらその場で回転を混ぜた踊りを披露する。
緩急のある床を鳴らす音は小気味良い印象を二人に与えた。
「こんな感じかな? 生演奏は無理だから録音したのを使うね。ちなみに手の動きと床を踏み鳴らすことをブラッソとサパデアートってそれぞれ呼ぶから、覚えておいてね」
こうして二人のフラメンコの練習が始まった。
風里は運動神経が良いのだろう。すぐにリズム感のある動きができるようになったが、対して優里は動きがぎこちなかった。緊張している様子があったので恥ずかしかったのだろう。
「手拍子と足踏みを使って敵の注意を引き付けたりフェイントに使うこともできるよ。実践ではそこを意識してみてね。じゃあ、最後にブラッソとサパデアートを同時にやってみて。それで今日の練習は終わりだよ」
練習を終え、リアトリスと別れた二人は廊下を歩きながら話す。
「綺麗な人だったね」
「……もしかして気付いてないの?」
「なにが?」
「――なんでもないわ」
何の事だかわからない様子の優里を無視して風里はグラウンドへ向かった。
次は実技訓練である。
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