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新米冒険者と腕利きな奴ら

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新米冒険者と腕利きな奴ら

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■幕間:目指せ! 悪党!!

「これさえマスターすれば警察に見つからずに目的を達成することが出来るであります!!」
 擬態などにはじまった潜入工作の訓練を終えた優里と風里の二人に、葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)が言った。彼女は元傭兵としての技術を教えていたのだが、訓練途中から方向性が少しずつズレていき、気づけばなぜか官憲と敵対することが前提のものへとなっていった。
 その内容は潜入工作だけではなく、隠蔽工作や情報操作にまで至っている。
「ふふ……これで私も女怪盗の仲間入りね」
「違うよねっ!? なんかそれ間違ってるよね!」
「その意気込みや良しであります。このあとはイングラハムの協力で実践を想定した潜入訓練を行うでありますよ」
 愉しげに葛城は言うと優里の肩に手を置いた。
 そして告げる。
「かぜっちの暴走はゆうりんが止めるでありますよ?」
「……そのあだ名やめてくれませんか? 僕、男ですよ」
「かわいい名前だと思うでありますよ。ゆうりん、いいではないですか」
「似合ってるわ。ゆうりん」
 グッと風里が親指を立てる。
 悪意がまったくないことから真面目に似合っていると思っているようだ。
「――もういいです。それで訓練はどうやるんですか?」
「我の出番であるな!」
 ドンッ! という擬音が聞こえてきそうな雰囲気を漂わせながら、イングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)がみなの前に姿を現した。それだけならばただの目立ちたがりだが、それだけでは終わらない。彼はポータラカ人の特性を活かし、その場に障害物を形作っていく。その様は名状し難いと言わざるを得ない。
「……気持ち悪いわ」
「本気でフウリが引いているところなんて久しぶりに見たよ」
 パンッ、と葛城は手を鳴らすと二人に言った。
「これからあそこにある物を二人に取ってきてもらうでありますよー」
 指差す先には缶ジュースが置いてあった。
 いつの間に用意したのだろうか。これだから熟練の冒険者という規格外の人たちは始末に終えない。優里はそんなことを思いつつ、風里を見る。なにやらやる気を出しているのが感じられた。これが気迫というものなのだろう。
「優里の出番はあるわ。私が終わらせてあげないから」
 呟き、その身を低くして障害物へと向かっていく。
 目の前にあるのは横に伸びた壁だ。背を当てて壁の端から向こう側の様子を見る。なにやら剣らしきものを引きずっているイングラハムの姿があった。その形容し難い姿は生き物だと判別していいのか悩んでしまう。
「……優里の憧れてたところってマトモなのしかいないわね」
 相手がまだ気づいていないと判断してか、壁から身を乗り出して駆け出す。
 だがイングラハムは気配を察知したのか、それとも音が聞こえたのか、風里の方へ振り向いた。だが遅い。
「思ったよりも難しいわね」
 浮かべるのは微笑だ。イングラハムと自分を分ける壁に安堵し、そのまま目的のものを手に入れようと走り出したその刹那、眼前に剣が突き出されたのを目撃した。
(あ、私死んだかも……)
 彼女がそう思ったとき、足が何かに引きずられた。
 剣が髪を数本切り裂く。パラッと風に巻かれるのが見えた。
 そして尻に衝撃がきた。
「きゃうんっ!?」
 可愛らしい悲鳴だ。
 風里が何が起きたのかと自分の足を見やるとイングラハムの手が足を掴んでいた。鳥肌が立つのを彼女は感じる。問題は彼の手ではない。今のイングラハムの姿が生理的に受け付けなかった。例えるなら塗りたてのコンクリートから人の上半身が出てきたような、そんな感じだ。
「な、なにこれっ!?」
「ごめんね。フウリ、先に行かせてもらうよ!」
 戸惑っている風里を置いて優里が一人、先に向かっていく。
「この薄情者っ!」
 かくして二人はイングラハムの特異な体質に翻弄されつつも潜入工作の訓練を無事に終えることができたのであった。イングラハムは後に語る。
「壁抜けはやりすぎたかもしれん」

                                   ■

 グラウンドで風理は対峙していた。
 相手は制服の上に白衣を着込んだメガネである。しかも女子高生を引き連れている。結論、相手は関わってはいけない類の人種だ。普通ならばそう判断するだろう。だが風理は違ったようだ。
「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス(どくたー・はです)! 地球を飛び出し、パラミタへとやってきた我が後輩、東雲風里よ! その天邪鬼な性格、気に入ったぞ! 貴様には、この俺自らが、悪の幹部になるための訓練をしてやろう」
「いきなり人のことを天邪鬼だなんて褒める野郎に上から目線でモノを語られるなんて、今日の私は心の底からツイてるわね」
「心の底から喜びを感じるとは私の偉大さを理解しているようだな」
 フハハハハ! と高笑いをするハデスに風里は白い目を向ける。
 ふぅ、と小さくため息を吐いて彼女は言った。その口元は微妙に歪んでいる。
「まったく……悪党なんて面白くなさそうだし興味ないから何も教えないで」
「ククク、やはり私の目に狂いはなかったようだなっ! よろしいならば教えてやろう。悪の幹部たるもの、まずは部下や大勢の戦闘員に命令を出せねばならん! 我が部下を使ってその特訓をしてやろう!」
「私、人の上に立つのって嫌いだから嬉しくないわ」
 ハデスが指を鳴らすと、どこに潜んでいたのかワラワラと謎の戦闘員らしき者たちが姿を現した。彼らはハデスと風里に敬礼をすると動きを止めた。
 どうやら指示を待っているようだ。素晴らしい愛(忠誠心)である。
「さあ、悪の幹部の卵・風里よ! 我がオリュンポスの戦闘員たちに指示をだしてみるがいい!」
「それはいいけど敵がいないわね」
 ふむ、とハデスは考える仕草をすると何かロクデモナイことを閃いたようで高らかに笑った。控えていた女子高生、高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)が深いため息を吐いた。乾いた笑みを浮かべているのは気のせいだろうか?
「フハハハ! では手始めにあのにへら〜っとしたヤツを攻撃させてみるのだ!」
 ハデスの指差す先にはこちらへ歩いてくる優里の姿があった。
 いまこちら側で何が話されているかを知らない彼は無防備である。
「って、ちょっと、兄さん! いたいけな後輩に、一体何をやらせようとしてるんですかっ!」
 叫び、およそ人の動きとは思えない速さで、強烈な一撃をハデスの腹部に炸裂させた。異様なほどに身体がくの字に曲がる。曲げるのではなく曲がるというのがことのほどを見ている者に伝えてくれている。
「ぐふぅっ!?」
 ハデスは声をつまらせてその場にうずくまった。
 小刻みに震えている姿からは哀愁を感じさせずにはいられない。
 いつものことなのだろう。高天原は気にすることなく言う。
「まったくもう。兄さんには任せていられません。ここは、私が同じ強化人間として、兄に対する接し方を教えてあげます」
 ハデスを置いて、風里に近づくと話しかけた。
「風里さん、いいですか? 兄というのは放っておくと暴走するものです。そうならないようにコントロールするのが妹の役目です」
 実感しているのだろう。その言葉は力強い。
 ぐっと拳を握り締めているあたり苦労のほどが窺い知れようというものだろう。
「そのために私が『レックスレイジ』による全力ツッコミを伝授しましょう! これは痛覚を遮断することで痛みを無視して普段の限界以上の力を出すという、私たち強化人間だからこその技です。ぜひ覚えてくださいね!」
 その後、しばらくしてハデスの隣に一人被害者が増えたのは、また別の話だ。