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【ぷりかる】祖国の危機

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【ぷりかる】祖国の危機

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第二章

「あの、さ。ソフィア?」
「……あ、ああ、どうした?」
「行きたいんでしょ?」
「なぜ分かった……!」
 ヴァイシャリーに残ったメンバーは、ソフィアを囲み会議を続ける。
 だが、気遣わしげな小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)の言葉にソフィアは焦ったように立ち上がった。
「分かるよ。だって辛そうだもん」
「ソフィアはもう少し表情の訓練したほうが良いのかもね」
 美羽とルカルカ・ルー(るかるか・るー)が、ソフィアの反応に呆れたように顔を見合わせるが、二人とも口調は優しかった。  
「すまない」
「悪いことではないのだがな」
 グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)が苦笑いをこぼす。
「肝心な時に自分が動けないって言うのは本当に悔しいし、歯がゆいからね。変装で何とかならないかな」
「バレたら何もかもパーになるから。辛いと思うけど、ヴァイシャリーにいるべきだと思う」
 桐生 円(きりゅう・まどか)の提案にルカルカが返す。
「確かに中に入り込むのは危険だから。ペルム地方の入り口近くぐらいまでなら行けるんじゃないか?」
 コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)の言葉に皆が顔を見合わせた。
「今、ペルムにソフィア様が向かえば、他の者は当然ソフィア殿を守ろうとするでしょう。必然的に偵察の他にソフィア殿の護衛という二重の任が生じます」
 上杉 菊(うえすぎ・きく)が静かに口を開く。
「しかし、前回の事もありソフィア様の所在は完全に敵の知る所となっています。既に第二、第三の暗殺者が放たれている可能性も否定は出来ません。ペルムへ即座に行くメリットは此処にあります。敵は此方が何らかの対策を講じると思っているのですから、それを逆手に取りヴァイシャリーを動く事で敵を疑心暗鬼に陥れる事も不可能ではないでしょう」
 ソフィアがペルムへ向かうことのメリットについても言及する菊の言葉に一同が考え込む。
「ソフィアの性格上、現地へ赴けば早まった行動をしてしまうおそれがある。ミイラ取りがミイラになるのは愚の骨頂」
 グロリアーナの声にソフィアが目を泳がせる。
「かと言ってヴァイシャリーに留まり情報整理に集中し、来るべき戦いに備えるだけでは後手に回り過ぎるという懸念はある。信じて待つ。それが確実なのは言うまでもない事だ。詳細な現地情勢を知り得ぬのであれば尚更ではある……だがもし、其方がどうしても今、ペルムへ向かうと言うのであれば、妾はそれを制するものではない。友なれば止めるべきか?いいや、止めた所で其方は一度決めたのなら、己が信念の通り、とことんまで押通す姫騎士。ならば敢えてそのリスクをチャンスに変える事も妾は厭わぬ。選ぶがよい」
「私がペルムに入ることが難しいのはわかっている。だが、せめて近くから街の様子だけでも見たい」
 グロリアーナの言葉に顔を上げると、ソフィアははっきりと告げた。
「そう言うと思った。ま、護衛は任せてよね」
 ルカルカがため息をつきながらそう言ったのを合図に、揃ってペルム行きの準備を始めた。
「やはり、性別から偽るほうが安全かと思いますわ」
 ブラダマンテ・アモーネ・クレルモン(ぶらだまんて・あもーねくれるもん)は、ソフィアを別室に誘導すると、装飾品一切を外し、男物の衣装を準備する。
 髪を下し前髪を後ろへ撫で付けオールバックにし、長い後髪は首の後ろで纏め直すと化粧で眉や睫をやや際立たせる感じにメイクを施した。
 胸にはさらしを、腹部には小さなクッション等を入れて体系を調整すると最後に付髭と口に綿を入れ少しふくよかな中年紳士に男装させる。
 不安げなソフィアが皆の集まる部屋へ戻ると、全員が吹き出した。
「ソフィア」
「なんだ?」
「その見た目に合わせた話し方はできるのであろうな?」
「これに合わせた話し方……? わ、わし、は……?」
「うーん。ソフィアくんあんまり器用じゃないし、さすがに難しいんじゃないかな」
 グロリアーナからの問いかけに混乱するソフィアを見た円が助け舟を出した。
「あ、円ちゃん、前に選んだドレスで、優雅なお嬢様らしい格好にすればいいんじゃない? 髪型変えて、お化粧をしたり、メガネをかけたりすれば、見た目の印象もだいぶ変わるよね! お嬢様っていうことにして馬車で移動すれば、姿も見られにくくなるんじゃない?」
「そっか! よし! 髪型を変えて、カラーコンタクトも入れれば!」
 美羽の言葉に、円がまずは顔部分の変装を施す。
「これで終わり……っと! わあ、ロザリンそっくり! 大丈夫なのこれ?」
「う、うん、着替えれば何とか……今、鎧着たままだからね」
 あはは、と乾いた笑いを浮かべながら美羽がソフィアの着替えを手伝う。
「これだけイメージが変われば、そう簡単にソフィアだってわからないと思うよ」
 その言葉に一同も頷いた。
 早速一同はペルムへ向かう。
 ソフィアは、従者のメイドの恰好をした美羽とともに、馬車の御者に変装したコハクの馬車でまずはカナンへと向かう。
 他のメンバーはさりげなく馬車を庇うように動きつつ、共に進んでいった。

「あ! ロザリン!」
「あら、円さん。どうしてこちらに?」
 ペルム地方へ向かう船に乗るため、北カナンへやってきたソフィアたちは、先行してペルムに向かっていた仲間たちとまさかの合流を果たしてしまった。
 なんとなく状況を察知した偵察組は、各々やれやれと苦笑いを浮かべつつ、気づかなかったフリを決め込む。
 クーデター犯の一味がいつどこで見張っているか分からないからだ。
「ちゃんと着替えたんだね」
「ええ。ごく普通の、重鎧を着こんで旅するか弱い乙女として行こうとしましたのに……」
「うん、不自然極まりないからね。着替えてくれて良かったよ」
「このようなただのコートとか、鉄板とか入っていない心許ない防寒着だけだなんて、本当に怖いですね」
 円は、旅行中の友達に偶然会った風を装いながら、ソフィアの乗る馬車と離れた場所でロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)と会話しながら船に乗り込んだ。

「ここから見る限りでは、街の様子は変わらないようだな」
 船の上から船着き場近くを観察していたソフィアが、少しほっとしたように呟いた。
 船が到着すると、潜入組が次々と船を降りていく。
 乗船客と下船客の違和感が出ないよう、コハクの馬車もソフィアを船に残し船を降りると、有事の際すぐ動けるように船着き場付近で待機態勢に入った。
 ソフィアと作戦会議組は密かに船の中に残り、ペルムからの数少ない乗船客とともに北カナンへ向けて出港した。